【監修:青山健一】
目 次
私たちの歯列弓(いわゆる前歯から奥歯までの歯並び)は、上顎の歯列弓が下顎の歯列弓より大きいU字型になっているのが通常です。
これがときにさまざまな要因により左右の奥歯が内側へ倒れ込むことで本来U字型であるべき歯並びのゆるやかなアーチがV字型のように狭くなる状態、これを狭窄歯列弓といいます。
今回は狭窄歯列弓についての治療方法や、そもそもの原因に合併疾患、そして歯並びに及ぼす影響について詳しく解説していきます。
狭窄歯列弓の概要
噛み合わせの不具合が起こる不正咬合の歯列弓形態が本来のU字型からV字型に狭まる不正の一つを指します。
口腔周囲筋の異常により引き起こされることが多く、臼歯幅が正常より狭くなった歯列弓を狭窄歯列弓とよび、上顎では口蓋が深いことが多く見受けられます。
また矯正治療は保険が効かず自由診療となるため、決して安くない治療費(相場として約10~150万円程度)・装着期間の長さ(装置により1カ月~1年程度)・着けたときの痛みなど患者さんにとって負担は決して少なくありません。
狭窄歯列弓の原因
頬や口唇など口腔周囲筋の異常や、口腔習癖により左右の奥歯が内側へ倒れ込むことによって生じるのが狭窄歯列です。
その大きな原因は、お口のまわりの筋肉の異常・喉や鼻など耳鼻科系疾患・乳幼児期の指しゃぶりの3つであると考えられています。
筋肉の異常
お口まわりの筋肉の機能が正常であれば、歯列や舌はちょうど良い位置におさまるようになっていますが、これが筋力の低下などで異常をきたすと不正咬合の原因になります。
不正咬合には狭窄歯列弓の他に、出っ歯・受け口・上下顎前突・叢生(そうせい:乱杭歯)・すきっ歯・交叉咬合(上下の歯列が横にずれている)・過蓋咬合(噛み合わせが深い)・開咬(上下の歯がかみ合わない)・埋状歯などがあります。
不調和の誘因としては、鼻炎や扁桃腺肥大疾患由来も含む口呼吸や指しゃぶりがあげられますが、いずれも咀嚼や嚥下障害に発音障害・呼吸異常や歯周病感染、また口元のみでなく顔全体の見た目の美しさを損なうケースが多いため矯正治療が必要です。
耳鼻科系の疾患
扁桃腺肥大や鼻炎などのアレルギー疾患により常に口呼吸をするようになると、舌の位置が下がって前側に押し出されるために、不正咬合を起こしやすくなります。
指しゃぶり
赤ちゃんに多くみられる指しゃぶりは、長時間であったり指を吸う圧が強いなど、ある程度成長してもやめられないでいると口腔内の筋肉が奥歯を内側へ押すことにより奥歯間のスペースが狭くなって、狭窄歯列弓となります。
他にも上下の歯がうまくかみ合わなくなる開咬や、下の前歯が上の前歯より出てしまう反対咬合(受け口)の原因となるため、指しゃぶり(おしゃぶりの使用も)はできれば3歳位までに止めさせる工夫が必要です。
狭窄歯列弓が歯並びに及ぼす影響
歯並びは歯列の内側から押される舌の力、歯列の外側からの口腔周囲筋(頬・口唇・喉上など)の力が各々拮抗することで歯列や咬合の維持を保っています。
お口まわりの筋力低下や口呼吸、指しゃぶりなどの口腔習癖が原因で狭窄歯列弓になることですべてのバランスが崩れ、下記のような上顎前突や八重歯、乱杭歯など、歯並びに影響を及ぼしてしまいます。
上顎前突
これは一般的に出っ歯とよばれるもので、上顎の奥歯が内側に入り込むことで前歯が前方に突出している状態を指します。
歯が前へ出ているため口が閉じにくく、口呼吸になりがちです。それによりドライマウスも引き起こす場合があり、ひどくなれば口臭や感染症予防のケアが必要です。
八重歯
上顎が歯に対して小さいせいで歯列が乱れ犬歯が飛び出た状態をいいます。
八重歯は人によってはチャーミングポイントと思っている人もいますが、口腔衛生的な観点からは歯磨きの際ブラッシングがしにくく歯垢が残りやすいため虫歯や歯周病になりやすく、また口臭も発生するため、お口のケアは念入りにしましょう。
乱杭歯
叢生(そうせい)ともいい、上顎下顎自体のスペースが狭い、あるいは歯のサイズが大きくて歯が重なって生えている状態をいいます。
見た目だけでいうと一番口元の美しさが損なわれるのがこの乱杭歯であり、上述の八重歯も叢生の仲間です。また乱杭歯の場合は、受け口やすきっ歯などの不正咬合を伴う症例も見受けられます。
狭窄歯列弓は子どものうちから治療可能
歯列弓が狭くなる原因は指しゃぶりにみられるように乳幼児の頃からあります。
口蓋骨の状況や(正中口蓋縫合が結合か否か)、治療に用いる装置により差はありますが矯正治療の年齢は6歳以降生え変わりの時期を目途に可能となっています。
この段階から治療を始めることによって、永久歯が生えそろってからの開始よりも治療費が安く済む場合もあるため、ぜひ歯科医に相談しましょう。
尚、下記からインターネットでの無料の矯正相談もご予約可能です。
狭窄歯列弓の治療法
狭窄歯列弓の治療に関しては目立たず取り外しも可能で、しかも治療費が比較的安価であるマウスピース矯正ではなく、歯列や顎幅を拡大する装置を口腔内に一定期間装着することが有効とされています。
下記でその法式などのタイプや装着期間・患者さんの適応年齢、それぞれのメリット・デメリットについても解説していきます。
拡大装置
治療に用いる拡大装置には、まず装着期間による「急速拡大法」と「緩徐拡大法」があり、装着法式としては、患者さん自身が取り外すことのできない固定式と取り外し式の2種類があります。
急速拡大法は固定式のみ、緩徐拡大法に関しては固定式・取り外し式(プレートタイプ拡大装置)があるため、患者さんの年齢や状態・ライフスタイルにあわせてより有効な法式を選択する必要があります。
急速拡大装置
ラピットエキスパンジョンともよばれ、金属製のバンドとワイヤーに拡大ネジで構成されており、上顎の裏側に装着することで歯列の横幅を大きくする仕組みになっています。
装着期間は1~3カ月程度ですが、短期間かつ強い力で矯正を行うため患者さんの適応年齢としては、上顎骨が結合しきらずまだ柔らかい骨の状態である成長期(10~18歳位まで)のお子さんが一般的です。
【メリット】
強い力で矯正するため装着期間が短い
装着することで上顎骨の成長を助け、骨格や歯列の不整合さを改善できる
【デメリット】
装置を接着剤で固定するため取り外しができない
装着当初に痛みを感じやすい
声の発生がしにくい・食べ物が飲み込みづらいなどストレスが起きやすい
クワドヘリックス
拡大装置の中でも常に口中に装着する固定式の一つで緩徐拡大法に該当する装置がクワドヘリックスです。
臼歯に固定する金属製のバンドと口蓋部にあたるワイヤーとで構成されており、急速拡大装置に比べると歯列の幅を広げる力が弱く、時間をかけ徐々に歯列弓を拡大させていきます。
装着期間は6カ月~1年程度。患者さんの適応対象としては、歯列にして3・4・5番目となる側方歯が生え変わる年齢(概ね9歳あたり)から思春期のケースが多いですが、特に年齢制限はありません。
【メリット】
上顎・下顎に装着できる(下顎に装着するものはバイヘリックスとよばれる)
年齢制限が特にない
【デメリット】
急速拡大装置に比べると装着期間が長い
取り外しができないため歯磨きなどの口腔ケアがしづらく虫歯になるリスクがある
狭窄歯列弓の治療で改善が期待できる症状
拡大装置による治療を実施することで歯列が正常になることに伴い、改善が期待されるものとして次の2つの症状があげられます。
1つ目は、狭窄歯列弓の有無にかかわらず成人の約8割が罹患しているといわれ、もはや国民病といっても差し支えない歯周病やそれに伴う口臭です。
2つ目は、睡眠時に呼吸が止まってしまうことで、ときに患者さんの命を脅かす危険のある睡眠時無呼吸症候群です。
歯周病・口臭
歯並びが悪く歯磨きをする際にブラッシングが行き届かず、お口の中のケアが不十分だと歯垢が残り、この歯垢内の細菌が歯肉に炎症を引き起こすことで歯周病となり出血や膿による口臭も強くなります。
また歯周病はその細菌が心臓疾患や脳血管疾患も誘発するといわれ、
症状が進行すれば歯を支えている骨を溶かし、最終的には歯を失ってしまうのです。
歯がないと食事の際に咀嚼がしっかりできないことにより、さらにお口の中の筋力が衰える悪循環に陥るため、早めの対応が必要です。
睡眠時無呼吸症候群
睡眠時に何度も呼吸が止まる、あるいは浅くなることで体内の酸素が低い状態となり発生するのが睡眠時無呼吸症候群です。
肥満傾向の方に多くみられる病気ですが、肥満の方の場合は喉に脂肪がつくことで呼吸がしにくくなるのが大きな原因といわれます。
狭窄歯列弓の患者さんの場合は歯列の幅が狭いことで舌が喉の奥に下がった状態(舌根沈下)となり気道をふさいでしまうため、睡眠時無呼吸症候群を引き起こす要因となります。
いずれにせよ放置すれば睡眠不足によるストレスで、高血圧や脳卒中・心筋梗塞などを引き起こし、最悪の場合は突然死される場合もあるため、狭窄歯列弓の治療を早急に実施することはこれらのリスクを避けるためにも重要です。
狭窄歯列弓で悩んでいるなら専門医に相談しよう
正常で機能的な歯並びや噛み合わせを得ることは、ときに私たちの命を脅かすような病気の発症を未然に防ぎ、ご自身のQOL(Quality of Life=生活の質)を向上させます。
また治療することで顔つき・表情など見た目の美しさにも影響が与えられ、ご自分の自信にもつながるでしょう。
矯正治療の技術が格段に上がった昨今、矯正を専門とする歯科医院も増えているため、たかが歯並びと軽視したり、不具合を放置しないようにすることが肝心です。
まずはかかりつけの歯科医院や矯正歯科医院にお早めにご相談されることをおすすめします。下記のリンクからインターネットで無料の矯正相談もご予約可能です。
まとめ
今回は、狭窄歯列弓についての概要やその原因、治療がスタート可能な年齢から具体的な治療法、そして治療することで改善がみられる症状などをご紹介しました。
悪い歯並びを放置することがさまざまな疾患も引き起こすなど、どれだけリスクが高いかもご理解いただき、少しでも不具合があれば早めに治療を開始しましょう。
矯正治療を受けるうえで、信頼できる歯科医師・納得いく治療方針や満足度を得られる治療と感じられるかどうかは患者さんにより個人差があるため、まずはご自身できちんとリサーチかつ選択する必要があります。