【監修:青山健一】
目 次
人の見た目の印象を左右するポイントに歯並びがあります。歯並びが悪い場合、歯科医院で矯正治療を行うのがポピュラーですが、費用や治療期間など負担の大きさがネックとなり躊躇される患者さんがおられるのも事実です。
そのため昨今のメディアでは、ご自宅で身近な道具を用いたトレーニングで歯並びや噛み合わせの改善をはかる、いわゆる民間療法的な情報が多々出回っています。
今回は歯並びが自然に治るといわれる方法や、歯科医院で受けられる矯正方法をご紹介するとともに、各々の有効性も解説していきます。
「歯並びが自然に治る」は本当?
すでに永久歯が生えそろったご自身または乳歯のあるお子さんの歯並びが悪いことで不便のある場合、負担も少なく気軽に矯正できる方法があれば試してみたいと思うのは至極真っ当な話です。
歯の矯正治療=お金や治療に時間がかかる。というのが世間一般的なイメージであり、また状況により差はあるものの事実です。
歯科医院に通わず歯並びが自然に治るのであれば試す価値はありますが、これらの方法で果たして歯並びの矯正に有効なのか下記に具体的な方法についてご紹介し、効果の有無も含め検証していきます。
歯並びが治るといわれている方法を検証
歯列がガタガタしていたり、いわゆる出っ歯などは叢生(そうせい)とよばれ、不正咬合に属し、いずれも治療が必要です。
とかく費用の高さや治療期間の長さ・装着器具をつけた際の痛みや見た目のイメージが強く、矯正治療へのハードルは未だ高いといえます。
それゆえに歯並びの悪さに悩まれる方が、下記のようなご自宅で気軽に始められるトレーニング法を試してみたいと思われることは当然です。
歯並びが自然に治るといわれる代表的な方法は、割りばしを用いる・市販のマウスピースを使用する・口まわりの筋トレを行うの3つがあげられます。
割りばし
1つ目は割りばしを用いる方法ですが、残念ながら矯正するほどの効果はありません。
やり方はまず仰向けに寝て、1本の割りばしの真ん中を軽く唇で挟んで口まわり・全身の筋肉をリラックスさせながら30分ほど行うものです。
正しく行えば顎関節の動きがよくなり、噛み合わせの調整ができることで下顎前突(受け口)の改善につながる場合もあるため試す価値はありますが、自己流に頼らず必ず事前に歯科医師の指導を受けましょう。
ただし仰向けになり割りばしを口にくわえて行うため、途中で眠ってしまい誤って口内を傷つけることのないよう注意する必要があります。
市販のマウスピース
2つ目は市販のマウスピースを使用する方法です。ドラッグストアなどで販売されているものは価格も1,000円台からと比較的安価で、しかも気軽に購入できることから試しやすいのがメリットです。
しかし歯科医院で作るオーダーメイドのマウスピースと違い、ご自身の歯並びに必ずしも合うとは限りませんが睡眠中歯ぎしりなどの習慣があり、歯の摩耗や欠損を防ぐ観点から使用することは有効です。
ただしこれもご自分の歯並びにあわない製品ですと装着中に外れてしまったり、睡眠時に喉につまらせるなど事故につながりかねないため慎重に扱う必要があります。
口まわりの筋トレ
3つ目は先天性だけでなく、乳幼児期の指しゃぶりや鼻炎・扁桃腺肥大などの耳鼻科系疾患による口呼吸の影響で歯並びが悪くなった場合に行うのが有効といわれる口まわりの筋トレです。
専門的には口腔筋機能療法(MFT:Oral Myofunctional Therapy)とよばれ、簡単にいえば舌を本来の正しい位置に戻すことで歯並びや噛み合わせを改善する方法で、舌を上顎につけて口を開閉・嚥下力・鼻呼吸法の取得など数十種類におよびます。
この口まわりの筋トレはお子さんが成長する時期に出っ歯などの矯正治療と併用して行うのが最も有効であるといわれ、骨や筋肉の成長が止まった成人の場合効果はあまり期待できません。
インターネットなどで気軽にできるトレーニング法が掲載されていますが、お口の中の状態はさまざまなため、正しい効果を早く得るには歯科医師に指導を受けてから行いましょう。
歯並びを放置すると悪化することがほとんど
歯並びだけでなくお口の中の不具合に関しては、自力頼りのケアのみで歯科医院で専門の治療を受けずに治るケースはまずありません。
早いうちに治療を受ければ悪化もせず、それだけかかる費用も期間も少なく済みます。放置した結果歯を失うなどとりかえしのつかない状態になる前に、まずは歯科医院で歯のチェックをしてもらいましょう。
歯並びを悪化させる原因
歯並びの不具合は生まれつき歯の数が足りない先天性のものと、指しゃぶりなどの口腔習癖や口呼吸による後天性のものがあり、いずれも程度の差はあれ治療が必要です。
下記では歯並びを悪くする原因について、後天性にあたる5つの癖や習慣・疾患を解説します。
噛み癖
食事の際に左右どちらかの歯だけで噛んだり、噛み合わせが悪いことで前歯でなく奥歯のみで咀嚼する癖のある方は要注意です。
いわゆる噛み癖は、負荷がお口の中の筋肉や顎に片寄ってかかるため、さらに噛み合わせに悪影響を与え顎関節症などの誘因にもなります。
舌癖
本来舌は全体が常に上顎についている状態が正しく、無意識のうちに舌で前歯を押していたり上下の歯の間に舌の先があると、出っ歯や奥歯で食べ物を噛んだときにも前歯が閉じない開咬の原因になります。
舌癖があると矯正治療を受けても歯列が再び乱れるケースがあるため、まず口の筋トレであるMFTを行い舌癖自体を改善する必要があります。
頬杖
意外なことに頬杖もまた歯並びを悪化させる原因の1つです。子供の頃から頬杖をつく癖がある場合はあごの成長が妨げられることで歯並びが悪くなります。
頬やあごを圧迫することで顔が歪み、噛み合わせがずれて交叉咬合などを起こしやすくなります。
成人の場合、あごの骨のずれの程度によっては矯正治療だけでなく口腔外科での手術を伴なう矯正治療が必要な場合があるため、頬杖をつく癖は早めに直すことが重要です。
歯ぎしり
主に睡眠時、ストレスなどが要因となってぎりぎりと強い力で歯をこすり合わせてしまう歯ぎしりも歯並びが悪くなりますが、虫歯や歯周病の進行により噛み合わせが悪くなった場合も噛み合わせに影響が出ることで歯ぎしりを引き起こします。
また仕事で集中している際に無意識に歯を強く噛みしめる癖のある方も歯やあごへの負担が大きくなり、ひどくなると歯の摩耗や損傷・顎関節症の原因になるため予防策を取ることが必要です。
いずれにしろ睡眠中など無意識下でおこなっているために本人に自覚がなく、ご家族の指摘や起床時の歯やあごの痛みで気付くケースが多くあります。
まずは歯科医院でご自分の歯並びに合ったマウスピースを作成し、睡眠時に装着することで歯の保護を心がけましょう。
歯周病
歯並びが悪いと歯磨きがしづらくなりお口の中のケアが十分に出来ず、溜まったプラーク(歯垢)が口腔内に残り、このプラークが石灰化し歯石が出来た場合も治療時に除去しきれないことがあります。
プラーク内の細菌や除去しきれなかった歯石が歯と歯茎の間の隙間、いわゆる歯周ポケットに歯肉炎を引き起こし、やがて歯周病へと進行していくのです。
歯周病は重症化すれば歯を支えている歯槽骨まで浸潤し破壊してしまうため、最終的には歯を失ってしまいます。
今や成人の8割が罹患しているといわれる歯周病ですが、重症化時のダメージは大きく進行すれば完治しないため日々のお口のケアを念入りにするのはもとより、その原因が歯並びにある場合は早めの矯正治療が必要です。
美しい歯並びを手に入れたいなら歯列矯正を
割りばし・市販のマウスピース・口まわりの筋トレといった自力の治療ではある程度の効果は期待できるものの、残念ながら歯並びの改善にはいたりません。
美しい歯並びを得るためにはまずは専門の歯科医に相談しましょう。尚、下記のリンクからインターネットでの無料の矯正相談もご予約可能です。
負担が少ない治療方法は?
悪い歯列を矯正し、美しい歯並びを得るためには歯科医院での治療が欠かせませんが、患者さんの口腔内の状況やライフスタイルなどにあわせて治療方法を選択する必要があります。
下記では部分矯正そしてスピード矯正、二つの治療方法についてメリット・デメリットもあわせてご紹介します。
部分矯正
歯列全体ではなく、例えば前歯だけなど患者さんが気になる部分だけ矯正できる方法です。ブラケットとよばれる留め具とワイヤーで構成される装置を用いて歯を動かしていきます。
ブラケットは金属製のメタルブラケットと透明色など目立たない審美ブラケットの2種があり、費用はメタルが相場として30~50万円程度、審美は35~70万円程度で装着期間は数カ月~1年ほどです。
全体矯正に比べ装置が小さいため目立たずコストも抑えられますが、歯列の状況により適用が難しい場合もあります。
【メリット】
- 気になる箇所のみピンポイントで矯正できる
- 矯正装置が小さいため費用が安い
- 装着期間が短い
- 装着時の痛み・違和感など肉体的負担が少ない
【デメリット】
- 部分のみの矯正のため、口内全体の噛み合わせの改善には至らない
- 歯を動かすスペース確保のため歯を削る・抜く必要がある
スピード矯正
年単位でかかる治療のイメージを覆す方法ですが、厳密にはスピード矯正という定義は歯科医院により差があるのが現状です。
一般的には外科施術を伴なうコルチコトミー法や、これが適用されない場合の代替術法オステオトミー法、小さな矯正用インプラントを歯の骨に埋め込み動かしていくインプラント矯正などがスピード矯正とよばれています。
コルチコトミー法(歯槽骨皮質骨切術)は歯茎を歯槽骨から剥離し、歯槽骨を切開することで土台から歯が早く動くため短期間の矯正が可能です。
オステオトミー法はコルチコトミー法に比べより短期間で矯正でき、費用はいずれも50万円からで、治療は半年から1年程度で完了します。
インプラント矯正は通常のインプラントより小さいチタン合金製の矯正用アンカースクリューを一時的に埋め込み、土台にして歯を動かしていきます。
費用は1本2万5000円~、治療は状態によりますが、ブラケットなど通常の矯正法より数カ月から半年程度短くなる場合が多いです。
【メリット】
- 矯正期間が短い
- 抜歯せずに済むケースが多い
- コルチコトミー法・オステオトミー法は歯根が短くなりにくい
- インプラント矯正は痛みも少なく肉体的負担が少ない
【デメリット】
- 費用が高額である
- コルチコトミー法・オステオトミー法は外科施術を伴うため肉体的負担が大きい
- インプラント矯正は歯槽骨に急激に負荷がかかることで骨が溶ける場合がある
歯列矯正の方法で悩んだら信頼できる歯科医に相談を
歯列矯正に関しては必ずしも手軽に短期間で矯正できることがメリットばかりでないのは前述したとおりです。
なるべく負担が少ない矯正法を選択したいところですが、目先にとらわれあとで不具合を起こし後悔することがないよう、まずは患者さんの口腔内の状況を客観的かつ確実に診断できる歯科医師の見立てが必要となります。
とくにスピード矯正に関しては各種あり、適用にも向き不向きがあるため気になる方はぜひ専門の歯科医師にご相談ください。
尚、下記のリンクからインターネットでの無料の矯正相談もご予約可能です。
まとめ
今回は歯並びが自然に治るといわれ紹介されている方法の効果と、歯科医院で行われている矯正治療について解説・検証しました。
口まわりの筋トレなど試すに値する方法もありますが、いずれも歯並びが劇的に改善されるわけではありません。
機能的で美しい歯並びへの近道は、やはり専門の歯科医師のもと、正しい診断と矯正治療のメリット・デメリットを認識したうえでご自分に合った負担の少ない治療をされることが一番です。