【監修:青山健一】
目 次
「歯列矯正をすると、副作用で歯茎が下がる」と聞いたことがあるかもしれません。
歯列矯正の副作用によって歯茎が下がる現象は歯肉退縮と呼ばれており、特に成人になってから矯正治療を行うと発生しやすいとされています。
歯列矯正治療の結果、歯茎が下がった・歯が長くなったように感じたらそれは歯肉退縮によるものである可能性が高いのです。
本記事では、矯正治療によって起こりうる歯肉退縮についての原因と対処法について解説していきます。
歯列矯正で起こった歯肉退縮は治る?
歯肉退縮とは、歯茎が下がって歯の根っこの部分(歯根)が露出した状態です。歯が長く見えることや歯と歯の間に隙間ができることで、口元が痩せて老けて見える場合があります。
歯肉退縮が起きてしまうと自分で治すことは難しいため、歯茎が下がったと感じたら矯正治療を行っている歯科医院に相談しましょう。
歯肉退縮の症状
次のような症状がみられる場合は、歯肉退縮が起きている可能性があります。
- 歯肉が下がった
- 歯が長くなった
それぞれの症状について、詳しく解説していきます。
歯肉が下がった
矯正治療中に歯茎や歯肉が下がる症状は歯肉退縮によるものです。
歯と歯の隙間の歯肉が退縮して隙間が見えてくる現象は、隙間が黒い三角形に見えることから「ブラックトラアイングル」と呼びます。
ブラックトライアングルは前歯と前歯の間に起こりやすいといわれていますが、歯茎の状態によっては他の部分でも起こる可能性があります。
歯が長くなった
歯肉退縮が起きていると、歯根が露出することで歯が長くなったように見えてしまいます。
特に前歯に歯肉退縮が起こると前歯が大きくなったように見えるばかりか、前歯自体が見えやすい位置にあるため見た目の変化が気になりやすいのです。
歯が長く見えることで、顔全体が老けたような印象を受ける場合もあります。
歯列矯正で歯肉退縮が起こる原因
歯肉退縮が起こる原因としては次の4つが挙げられます。
- 歯肉や歯槽骨が薄い
- 歯周病の進行
- 矯正器具の洗浄不足
- 強い力で歯磨きしている
矯正治療による歯肉退縮は進行が早く1か月程度ともいわれています。これらの項目に心当たりがある場合は早めに対策を行いましょう。
歯肉や歯槽骨が薄い
歯肉退縮には、歯肉と歯槽骨の厚さが関係しています。
日本人は、生まれつき歯肉と歯槽骨が薄く、歯を動かせる範囲が狭いため歯肉退縮が起こりやすいといわれています。
歯の根っこ(歯根)が透けて見える人は、歯肉が薄いため歯肉退縮のリスクが高いといえるのです。
また、歯と歯を支えている歯槽骨は虫歯によって溶けてしまったり治療で削られてしまっても元に戻りません。歯肉退縮にならないためには歯槽骨を守ることも重要です。
歯周病の進行
歯周病の進行は、歯肉が下がるだけでなく歯槽骨が溶けてしまう大きな原因の1つです。
元々歯周病がある場合は既に歯茎が下がっていることが多く、矯正治療を行うことで歯肉退縮のリスクがより高くなると考えられています。
また、歯周病だけでなく虫歯も歯槽骨を溶かしてしまうため歯肉退縮の原因となる恐れがあります。
矯正治療中は歯磨きがしづらく、歯周病や虫歯が発生しやすいため十分に注意しましょう。
矯正器具の洗浄不足
矯正治療に使用している装置やマウスピースの洗浄不足も歯肉退縮の原因となるポイントです。
矯正装置に歯垢が溜まると歯茎に炎症が起こりやすくなり歯肉退縮に繋がります。
矯正中に口の中に入れる器具はしっかり洗浄し、食事のときはマウスピースを取り外すなど使用上の注意を守りましょう。
強い力で歯磨きしている
歯磨きが不十分だと歯周病が進んで歯肉が下がってしまいますが、歯磨きの力が強すぎても歯茎を傷つけてしまい歯肉退縮の原因となってしまいます。
硬い毛の歯ブラシを柔らかめの毛の歯ブラシに変えるだけでも歯肉退縮の予防に効果的です。
また、歯ブラシの当て方・動かし方は歯科医師や歯科衛生士からブラッシング指導を受けることができます。
歯磨きについて不安がある方は矯正治療を担当している矯正歯科で相談しておきましょう。
歯肉退縮を放置するリスク
歯肉退縮による影響は、歯肉が下がり歯が長く見える・老けて見えるといった見た目の変化だけではありません。
歯肉退縮を放っておくと、次のような症状が現れる恐れがあるため注意が必要です。
- 知覚過敏
- 歯を失ってしまう
歯肉退縮が起きている場合は放置せず、早めに歯科医院に相談しましょう。
知覚過敏
歯肉退縮によるリスクの中で代表的な症状は、知覚過敏です。歯肉退縮が進むと、歯の根っこの部分である歯根が見えてくる事があります(歯根露出)。
露出した歯根は外からの刺激に弱いため、直接冷たいものや熱いものに触れると強い痛みを感じてしまうのです。
食事の度に痛みを感じる場合は、知覚過敏の治療が必要になるため我慢せずに矯正治療を行っている歯科医院に相談しましょう。
歯が失われる可能性も
歯茎が下がることで歯根がむき出しになるため、虫歯や歯周病が悪化するリスクが高くなります。
また、歯肉退縮によって噛む力が歯周組織に過度に加わり、歯のぐらつきや歯が抜けてしまうことに繋がる恐れがあるのです。
歯列矯正で歯肉退縮が起こりやすいケース
歯列矯正の治療方法や矯正を始めるタイミングによって歯肉退縮が起こりやすくなる場合があります。
例えば、抜歯を行わずに顎の骨を拡大させる拡大矯正は歯肉退縮が起こる可能性が高いとされています。
また、最近では成人してから矯正治療を行う人が増えていますが、30代以降の歯列矯正も歯肉退縮が起こる場合が多いのです。
拡大矯正や30代以降の歯列矯正を検討している人は、治療前に歯茎の状態や歯肉退縮について歯科医院にしっかり確認しておくと安心です。
拡大矯正
歯並びを治す際に、外側に向かって歯列を広げる拡大矯正は抜歯をせずに済むというメリットがありますが、歯肉退縮が起こりやすいとされています。
この場合は、拡大矯正によって歯周組織の再生が追いつかなくなることが歯肉退縮の大きな要因です。
特に下の前歯は歯根が短く拡大移動しやすいため、歯肉退縮の発生率が高くなるといわれています。
30代以降の歯列矯正
最近では30代を過ぎてから矯正治療を開始する事も多くなってきました。しかし、30代以降の歯列矯正は歯肉退縮が起こりやすいといわれています。
歯茎が痩せて見える人や歯肉退縮について不安がある人は矯正治療前に歯科医院で相談しておきましょう。
歯列矯正で歯肉退縮が起こった場合の対処法
歯肉退縮は、進行を止めることはできても自然に回復させることはできません。
そのため、矯正治療中に歯肉退縮が起きた場合は、上顎などから歯肉を移植することで歯茎を再生するといった処置を行います。
マウスピース型の矯正装置(インビザライン)によるデジタル矯正治療の場合は、再度歯根部を歯茎に戻す様な動きを入れるといった対処法がありますが、こちらも完全に回復させることは難しいと考えておきましょう。
歯肉退縮によって起こる知覚過敏への対処法としては、知覚過敏用の薬を塗布するという処置があるため早めに歯科医院に相談することが重要です。
矯正治療前に歯茎が下がっている人は、先に歯茎の再生療法を行った方が歯肉退縮の予防として効果的といえるでしょう。
歯列矯正による歯肉退縮が気になったら歯科医に相談を
歯肉退縮を放置していても、自然に治ることはありません。しかし、矯正治療を行っている歯科医院に相談すれば、歯茎の状態を歯科医師と共有できるため歯肉退縮の悪化を防ぐことができるのです。
歯肉退縮は自分で治療できるものではないため、気になった場合は歯列矯正を行っている歯科医院へ相談しましょう。
まとめ
本記事では、歯肉退縮が起こる仕組みや、歯肉退縮が起こった場合の対処法について解説しました。
一旦下がった歯茎を完全に元に戻すのは、非常に難しいといわれています。
そのため、歯肉退縮が起こらないように予防するか、歯肉退縮がこれ以上悪化しないように対策することが重要となります。
矯正治療による歯肉退縮を防ぐためには、矯正治療の前に歯周病や虫歯の治療や対策をしておくことが大切です。
歯肉退縮や矯正治療後の口内環境の悪化を防ぐためにも、矯正治療を行う前から日頃の歯磨きをしっかり行って歯と歯の間や歯と歯茎の間も清潔にしておきましょう。