【監修:青山健一】
目 次
歯の矯正治療をするための歯科矯正装置には、さまざまなタイプがあります。
歯科矯正装置の一種である上顎前方牽引装置(じょうがくぜんぽうけんいんそうち)を知っているでしょうか。
上顎前方牽引装置とは、出っ歯・反対咬合・永久歯萌出障害などの症状で、歯の矯正治療が必要と考えられる場合に使用される矯正装置です。
上顎前方牽引装置を使用した矯正治療の最終目的は、歯並びを良くすることといえます。その前段階で顎の発達を正しい状態に導くことが目的の1つです。
この記事では、上顎前方牽引装置の特徴・症例・治療する際の注意点などを詳しく解説していきます。
お子さんが出っ歯・反対咬合・永久歯萌出障害などの症状で悩んでいる親御さんに、ぜひ読んでいただきたい内容です。
上顎前方牽引装置の特徴
ここでは、上顎前方牽引装置の特徴を2点挙げて詳しく説明します。
成長期の矯正で使用する
上顎前方牽引装置の特徴の1点目が、成長期の矯正で使用することです。
上顎前方牽引装置は主に、上顎骨の発達段階の時期である、乳歯列期から混合歯列期の子どもに使用します。
つまりお子さんの成長段階の矯正治療において、使用される矯正装置です。逆に成長期を逃してしまうと矯正が難しいのが、上顎前方牽引装置を使用した矯正治療です。
治療に適切な時期を逸しないよう、お子さんの歯科検診で「矯正が必要」と言われた場合は、成長期のうちに対応するようにしましょう。
上顎の成長を促進する
上顎前方牽引装置の特徴の2点目が、上顎の成長を促進することです。
上顎前方牽引装置を使用しての矯正治療の目的は、上顎の正しい成長を促進することといえます。
反対咬合などの噛み合わせや歯並びが悪くなる症状の原因に対処するために使用するのが、上顎前方牽引装置です。
上顎前方牽引装置を使用しての矯正治療は、1年から2年程度の長期に及びます。上顎の成長を促進する装置のため、後戻りが少ないといえます。
後戻りが少ないものの、上顎の成長期を逃すと治療が難しい治療法です。お子さんの将来を考える上で早めに検討するとよいですよ。
上顎前方牽引装置とヘッドギアの違い
上顎前方牽引装置とヘッドギアの違いとはどのようなことでしょうか。歯科矯正装置の1つである点では、上顎前方牽引装置とヘッドギアのどちらも同じです。
上顎前方牽引装置とヘッドギアの具体的な違いは、上顎を矯正装置を使うことによって引っ張るか、上顎の成長を抑制するかの違いといえます。
上顎前方牽引装置は上顎の成長を正しく導くことが目的です。一方ヘッドギアは上顎の成長を抑制するための矯正装置です。
どちらの装置も上顎前方牽引装置とヘッドギア双方の機能を補完することも考えられます。
上顎前方牽引装置を使用するべきか、ヘッドギアを使うべきかは、歯科医による判断が必要です。
お子さんの顎の発達が悪いと考えられる場合は、早めに歯科医に相談しましょう。
上顎前方牽引装置を用いる症例
ここでは、上顎前方牽引装置を用いる症例を3点挙げて、詳しく説明します。
出っ歯
上顎前方牽引装置を用いる症例の1点目が、出っ歯です。出っ歯は、上顎前突ともいいます。上顎が通常の状態よりも前に出ている状態です。
もちろん前歯も前に出やすくなる状態といえます。上顎前方牽引装置による矯正治療を行うことで、顎の状態を改善できる可能性がありますよ。
出っ歯の原因は、歯並びが悪くなる癖や生活習慣の他に、先天的な遺伝も関係します。子どものときに出っ歯になった場合は、上顎前方牽引装置を用いて矯正が可能です。
大人になってからの矯正治療も可能ですが、費用面や身体的な負担が大きくなる場合があります。
ただし大人になってからの矯正治療では、上顎前方牽引装置を用いることはできません。大人になると顎の成長が止まるためです。
上顎前方牽引装置での矯正治療を検討する場合は時期を考慮しましょう。
反対咬合
上顎前方牽引装置を用いる症例の2点目が、反対咬合です。反対咬合は、受け口や下顎前突とも呼ばれます。
具体的には、上顎よりも下顎が前に出ている状態です。
この状態を放置すると、食べ物の咀嚼が不十分になったり、言葉の発音に悪影響が出たりする可能性があります。
ひいては、健康全体に悪影響が出る可能性がありますよ。反対咬合の原因は、出っ歯と同様で遺伝的要因や歯並びが悪くなる癖や生活習慣によるものです。
反対咬合についても、子どものときになった場合は、上顎前方牽引装置を用いて矯正することができます。
永久歯萌出障害
上顎前方牽引装置を用いる症例の3点目が、永久歯萌出障害です。
永久歯萌出障害とは乳歯の生え変わりが順調に行かず、乳歯が抜けなかったり、永久歯の生え変わりが遅れたりする症例を指します。
歯の生え変わり時期は人によって違うため、一概にいつまでとはいえません。中には、乳歯が抜けないままの場合もあります。
また、乳歯が抜けたものの、永久歯が生えない場合も永久歯萌出障害です。
永久歯萌出障害の原因は、先天的な遺伝によるものから歯並びが悪くなる癖や生活習慣によるものまで、さまざまあります。
もし、お子さんの永久歯の生え変わりが遅いと気づいたときは、信頼できる歯科医に相談しましょう。
上顎前方牽引装置による矯正の治療期間
上顎前方牽引装置による矯正の治療期間について説明します。上顎前方牽引装置による矯正の治療期間は、症例によって異なります。
一般的には、およそ1年から2年です。
その上、上顎前方牽引装置による矯正の効果を得るためには、顎の発達段階である8歳頃までに矯正治療を始める必要があります。
なぜなら、上顎前方牽引装置を使用しての矯正治療は、上顎骨の発育不全を改善する目的があるためです。
上顎骨の発達が成長段階にあるうちに、矯正治療を検討するとよいですね。
上顎前方牽引装置での矯正治療費
上顎前方牽引装置での矯正治療費について説明します。上顎前方牽引装置での矯正治療費は、一般的な矯正治療と同様に、保険適用外です。
詳細な費用は、歯科医院によって異なる場合があります。
上顎前方牽引装置での矯正治療費は、永久歯の矯正治療よりも、費用面で負担が比較的少ない点がメリットです。
また、永久歯の矯正治療に比べ身体的な負担も少ないといえます。
上顎前方牽引装置の注意点
ここからは、上顎前方牽引装置の注意点を5点挙げて、詳しく説明します。
抜歯が必要な場合がある
上顎前方牽引装置の注意点の1点目が、抜歯が必要な場合があることです。
上顎前方牽引装置を利用しての矯正治療が必要な場合に、歯科医師の判断によって抜歯する必要があることがあります。
なぜなら、歯が顎骨の健全な発達を阻害している場合があるためです。将来を見越して抜歯する場合もあります。
もちろん抜歯以外にも取れる治療手段がある場合は、抜歯しなくてよい場合が多いです。特に永久歯の抜歯は、お子さんの将来に影響を及ぼすため、慎重に判断してもらいましょう。
歯磨きしづらい
上顎前方牽引装置の注意点の2点目が、歯磨きしづらいことです。上顎前方牽引装置は装着したままでは、歯磨きが非常にしづらい点がデメリットといえます。
また、上顎前方牽引装置を装着したまま歯磨きをすることで、歯垢が取りづらい場合があります。
しかし、上顎前方牽引装置の多くのタイプが取り外し可能です。従って歯磨きの際は、上顎前方牽引装置を取り外すとよいです。
もし装置が完全に取り外しできない場合は、歯科医に相談し対応を考えましょう。
歯根吸収・歯肉退縮のリスク
上顎前方牽引装置の注意点の3点目が、歯根吸収・歯肉退縮のリスクがあることです。
歯根吸収・歯肉退縮のリスクがあることは、上顎前方牽引装置を使用しての矯正治療だけにあるリスクではありません。
一般的な歯科矯正治療の多くで歯根吸収・歯肉退縮のリスクがあるといえます。なぜなら矯正装置によって歯に物理的な負荷がかかるためです。
歯に物理的な負荷がかかることで、歯根吸収・歯肉退縮が進む可能性があります。
また、矯正装置を使用することによって歯磨きがしづらい状況になり、歯肉炎になりやすくなります。
歯根吸収・歯肉退縮のリスクを軽減するためにも、定期的なケアとしっかり歯磨きをするとよいですよ。
装着時の圧迫感や痛み
上顎前方牽引装置の注意点の4点目が、装着時の圧迫感や痛みがあることです。当たり前のことですが、人それぞれ顎の形や顔の骨格、顔のサイズは異なります。
従って上顎前方牽引装置を利用しての矯正治療を始める際は、矯正装置の微調整が必要です。
微調整が必要なため矯正治療開始時は、矯正装置の装着時の圧迫感や痛みが出る場合があります。
もし、装着時の圧迫感や痛みが強いときは、早めに歯科医に相談しましょう。
もし、上顎前方牽引装置を利用した矯正治療の継続が難しい場合は、別の方法も検討できるとよいですね。
装着時間が決められている
上顎前方牽引装置の注意点の5点目が、装着時間が決められていることです。
上顎前方牽引装置を使用しての矯正治療を受ける場合は、家にいる間ずっと上顎前方牽引装置を装着する必要があります。
目安としては、1日12時間以上です。つまり、お子さんの協力が不可欠な治療法といえます。
外出する際は上顎前方牽引装置を外していいものの、就寝時含め長い時間上顎前方牽引装置を装着しなければなりません。
就寝時に上顎前方牽引装置が外れる可能性もあります。もし頻繁に外れるようであれば、装置を調整するなど対策を取るとよいですね。
上顎前方牽引装置での治療を検討するなら
ここまで、上顎前方牽引装置の特徴・症例・治療する際の注意点などを詳細に説明してきました。
まずは、上顎前方牽引装置を利用しての矯正治療がどのような場合に必要か理解するとよいですね。
まとめ
この記事では、上顎前方牽引装置の特徴・症例・治療する際の注意点を中心に解説してきました。
上顎前方牽引装置を使用しての矯正治療は、長時間・長期間に及ぶことがあり、決して簡単なことではありません。
お子さんの矯正治療への理解と協力が不可欠といえます。上顎前方牽引装置の詳細を理解することで、お子さんの歯並びの改善に役立つと考えられます。
特にお子さんの歯が、出っ歯や反対咬合、永久歯萌出障害といった症状の可能性がある場合は、早めに歯科医に相談しましょう。
目立った症状がない場合も、定期的に歯科検診を受けることが大切です。