【監修:青山健一】
目 次
本来口は噛み合わせたときに上の歯列が下の歯列にかぶさっていますが、上の前歯よりも下の前歯が前に出ている状態が受け口です。
受け口は、「反対咬合」や「下顎前突症」とよばれる不正咬合の一種です。
受け口はその見た目から「しゃくれ」ともいわれますが、症状により3つの種類に分類され治療法も異なってきます。
1つ目は下のあごが上のあごより大きく成長する骨格性のもので、こちらに該当するのが下顎前突症です。
2つ目は上のあごの骨の形成不全である上顎後退症です。どちらも遺伝が関係していますが、上顎後退症は先天性疾患である口唇口蓋裂が原因であるといわれています。
3つ目は歯並びによるもので、多くは上の歯が舌側に下の歯が唇側に傾いて生えることで反対咬合が起き、受け口になるケースです。こちらは幼児期の舌癖も原因になります。
矯正治療のみで不具合が改善される場合もありますが、症状の度合により外科手術も必要な受け口について治療方法や気になる費用、また健康保険適用になるケースや治療により改善される疾患について解説します。
受け口の矯正は保険適用になる?
受け口には歯が傾斜して生えるなど歯列によるものと、上顎・下顎の骨の成長異常やアンバランスによって引き起こされる骨格性のものがあります。
骨格性による下顎前突症は矯正治療など歯を動かす治療だけでは改善できないため、外科手術が必要です。
ワイヤーやマウスピースを用いての歯列矯正治療自体は自由診療のため保険適用外ですが、患者さんの受け口が骨格性による顎変形症と診断され治癒に矯正治療および外科手術の併用が必要な場合は保険適用になります。
保険適用となる受け口に関係する疾患
上下のあごの骨の状態に問題があり、上下顎前突や反対咬合・開咬などの不正咬合や顔の左右非対称がみられる場合、顎変形症と診断されます。
加えて治療に外科手術が必要と認められ矯正治療と併用される場合に保険適用となります。
また生まれつき唇や上顎の骨が裂けている口唇口蓋裂は、厚生労働大臣が定める先天性疾患であるため保険適用の対象です。
ただしいずれの疾患も保険の適用は、指定医療機関で治療を受ける場合に限られます。
顎変形症
上顎・下顎の骨の大きさや形状、バランスに異常がみられる状態の総称が顎変形症です。
下のあごだけが大きくなり、前方に突き出て上の歯に下の歯が被さった状態が受け口の矯正臨床診断名である下顎前突症とよばれます。
噛み合わせが悪くなるため不正咬合を生じ、顎関節の痛みや口が開きづらいなど顎関節症と酷似した症状が見受けられるため混同されがちです。
ただし顎関節症が顎関節まわりの問題であることに対し、顎変形症は上下のあごの骨が著しくずれることで骨格に異常をきたした状態を指し、矯正治療のみでは改善がみられない疾患です。
口唇口蓋裂
生まれつき上口唇が裂けている先天性異常の一種で、日本人では比較的多くみられ約500~600人の割合で発生します。
お口の中の天井部が裂け、鼻腔内とつながった状態が口蓋裂でそのほとんどは口唇裂を合併しており口唇口蓋裂はその総称です。
このように受け口は深刻な疾患も関係し、お子さんの場合成長や生活にも影響を及ぼすため早めに口腔外科など専門の病院で受診しましょう。
不安や悩みは抱えたままにせず、まずは信頼のおける歯科医師へ相談することが一番です。
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受け口を治療する場合の費用相場
受け口の治療自体は保険適用外です。手術をおこなわず比較的手軽な歯列矯正だけで受け口が改善されれば一番ですが、矯正治療といえば高い治療費がネックです。
ただし受け口の原因が骨格性のもので、顎口腔機能診断施設である歯科医院で「顎変形症」の診断がおりると、歯列矯正と外科手術に対して公的医療保険が適用されます。
下記に受け口の治療として代表的な矯正治療と外科手術の方法と費用をご紹介します。
【矯正治療】
・セラミック矯正
歯にセラミッククラウンを装着するため抜歯の必要がなく短期間で治療が完了します。材質により費用に差はありますが、1本8~15万円程度です。
・ワイヤー矯正
マルチブラケットとよばれる装置を歯に装着して歯を移動させる治療法です。装着期間は2年程度ですが、費用は症状の度合により30~130万円程度と幅があります。
・マウスピース矯正
アライナーとよばれる透明で薄いマウスピースを半年~2年程装着し矯正する治療法です。目立たず取り外しができる点がメリットで費用はおよそ40~90万円程度になります。
いずれも外科手術にくらべると短期間かつ体への負担も少ない治療法です。
セラミックの歯をかぶせる・歯列を矯正するだけでは突出した下顎の骨格自体にアプローチしないため、受け口の改善までにはいたりません。
【外科手術】
・セットバック法(下顎骨切り術)
顎の骨を切り下顎を後方へずらす、または上顎を前方に出して改善する治療法です。
入院を要し術前・術後矯正や保定などすべての治療が終わるまで2~3年かかります。費用は保険適用で30~50万円程度です。
受け口を治療するメリット
口を閉じていても下のあごが突き出た状態になるため、とくに横顔のラインに影響をおよぼします。
患者さん自身がコンプレックスに感じるケースが多く、体調面の不調とともに生活の質を下げかねません。
また見た目の問題だけでなく、悪い噛み合わせのままで咀嚼を続けると歯肉が下がる歯肉退縮を引き起こし歯が欠けてしまうこともあります。
このような噛み合わせの状態を外傷性咬合といいますが、深刻な症状を防ぐためにも早めの対応や処置が重要です。
噛み合わせの改善
マルチブラケット装置などを用いた歯列矯正治療で下の歯を後方に動かす、あるいは上の歯を前方に動かすなど歯列を整えることで噛み合わせが改善されます。
噛み合わせがよくなれば食べ物の咀嚼などに不具合はありませんが、矯正治療のみでは骨格は変えられないため、強く効果を感じられるのは受け口の状態が軽度~中程度の患者さんです。
滑舌の改善
受け口は発音・滑舌にも支障をきたすリスクがあります。
上下の歯と舌の位置が正常であれば問題ありませんが噛み合わせがうまくいかない場合、とくに「さ行」・「ざ行」・「た行」が発音しづらいのが特徴です。
治療をおこなえば噛み合わせが改善され舌も本来の正しい位置に戻るため、これらの発音や滑舌もスムーズになります。
顎関節症のリスクを軽減
あごの関節や頬・こめかみに痛みがあったり口を開閉するときに関節がカクカク鳴ったりする(クリック音)症状をともなう状態を顎関節症とよびます。
20~30代の比較的若い女性に多くみられる疾患で、痛みも強いため食事もしっかり咀嚼することが困難になります。
またお口まわりの不定愁訴だけでなく肩こりや頭痛・めまいを引き起こすこともあるため、症状が重篤になる前に早めのケアが必要です。
顎関節症は心理的ストレスや口腔習癖による強い歯ぎしりなどが原因により引き起こされますが、下顎に強い力が加わり続けることで骨がずれて噛み合わせが悪くなります。
受け口は下顎の噛み合わせの不具合が原因のため、治療をおこなえば顎関節症のリスクもおのずと軽減されます。少しでも違和感を覚えたらまずは矯正歯科で診断を受けましょう。
外科手術を伴う治療の流れ
不正咬合など歯並びだけでなく、上顎・下顎の骨の位置がずれ骨格自体に影響をおよぼしている場合は矯正治療のみでは改善されないため、外科手術による治療をおこないます。
外科手術に矯正治療を併用する治療法が外科矯正治療です。
流れとしては手術前に術前矯正を施してから手術をし、手術後に術後矯正をおこない噛み合わせを安定させ経過を観察していきます。
検査・診断
受け口の原因が骨格によるもので、咀嚼機能や発音機能に障害が認められ、改善には外科手術と矯正治療を併用しなければならない状態であれば「顎変形症」と診断されます。
手術前の矯正治療
歯並びが悪いままだと、例え外科手術であごを正しい位置に動かしても、噛み合わせがうまくいかないことにより術後にあごの位置が固定できない不具合が引き起こされます。
そのような事態を防ぐために、あらかじめ手術前に術後の噛み合わせを予測しながらマルチブラケット装置を用いて歯列を整えておく必要があります。
入院と手術
受け口の外科手術には下顎の骨を切り歯列を後ろに下げる「下顎骨切り術(セットバック法)」とよばれる施術法が選択されます。
手術は全身麻酔をともなうため、入院前に血液検査・尿検査・胸部X線などの検査もおこなう必要があります。
入院は術前術後で2週間程要しますが、この間の食事は鼻からとる流動食となり、退院後数か月もいわゆる普通の食事はとれません。
手術後の矯正治療
術後の噛み合わせを安定させるためマルチブラケット装置などを用いた治療を開始します。
装着期間は6か月~1年程度ですが、術後の矯正治療には手術で実施しきれなかった歯並びの微調整をおこなう目的もあります。
経過観察
矯正治療が完了したらマルチブラケットを外し、後戻り防止と矯正後の歯並びを微調整させる目的でリテーナーとよばれる保定装置を装着します。
術後1年程は手術を施した顎の骨が元に戻ろうとする力が働くため、リテーナーは日中や夜間できるだけ長時間・正しく装着しましょう。
外科手術以外で受け口を矯正する方法
受け口の原因が骨格性のものでなく歯列に由来する場合は、外科手術を選択せず矯正治療で改善することが可能です。
症状が軽度であれば、セラミック矯正・ワイヤー矯正・マウスピース矯正が適用され、中程度なら小臼歯の抜歯矯正をおこないスペースを作ることで下あごの歯を後ろに下げます。
ただしいずれも歯並びは整いますが、口元の突出感に対して劇的な改善はみられないです。
歯列矯正のみの治療法を選択するかどうかは患者さん自身の希望や意思だけでなく歯科医師とよく相談する必要があります。
受け口の治療法で悩んでいるなら歯科医に相談しよう
受け口の治療は症状により選択肢が異なるため慎重で正確な診断が重要です。
そして患者さんの費用面や「審美的な目的で治療したい」「口腔疾患として徹底的に治療したい」といった希望を考慮する必要もあります。
そのうえで担当の歯科医師と情報共有し、治療を矯正治療のみか外科矯正か選択することは少しでも患者さんご自身の理想に近付くうえで欠かせません。
機能的な口腔環境を取り戻す一番の近道は、信頼のおける専門の歯科医師へ相談することです。
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まとめ
治療の選択肢があるとはいえ、受け口は成長するにつれ治療が困難になります。
お子さんで受け口の症状がみられる場合は、治療開始が早ければ矯正治療で済む場合もあり、気になる費用負担も比較的少額に抑えることができます。
見た目や噛み合わせの違和感・痛みなど少しでも不具合を感じたら放置せず、必ず矯正歯科で適切な診断を受けましょう。