【監修:青山健一】
目 次
顎を広げる矯正治療は子どもの歯列矯正で用いられることが多い治療法ですが、実は大人にも適用できます。
顎が小さいせいで歯列が乱れてしまう・顎を広げてから歯列矯正を始めたいと考えている大人も少なくありません。
顎を広げる矯正治療を検討している方に向けて、矯正治療の方法・期間と費用・メリットとデメリットを解説します。
矯正治療を受けるうえで起こり得るリスクについても紹介するため、施術前の心構えとして参考にしてください。
大人が受けられる顎を広げる矯正治療
大人の顎を広げる矯正治療に用いられる方法は、主に2種類あります。
いずれも顎を拡大させるための装置を一定期間装着することで、効果が得られる方法です。
「大人がつけられる装置はどのようなもの?」と気になる方のために、装置ごとの治療法を解説します。
床矯正
床矯正とは「床装置」と呼ばれる矯正装置を使った治療法です。床装置はネジによる開閉式で、通常1か月に1㎜を目安に拡大させて顎を広げていきます。
装置は縦横斜めに広げられるため、患者さまの歯列や顎の状態に合わせて拡大させていくことが可能です。
床装置を作るためには歯科医で正確な歯形をとり、0.1㎜単位を調節しながら患者さまひとりひとりの歯に合わせた装置を作成します。
取り外しが可能なため外出時には外すことができ、ライフスタイルに合わせて使用できます。
ただししっかりと効果を出すためには、1日12~14時間という定められた装着時間を守ることが大切です。
違和感で喋りづらい装置なので、社会人の方にとっては使用が難しい可能性が高いです。
床矯正は症状によって適用できない場合もあるため、まずは歯科医に相談してみましょう。
歯列矯正用アンカースクリューを用いた治療
歯列矯正用アンカースクリューとは直径1.4mm・長さ6mmの医療用のネジのことで、顎の骨にネジを埋め込んで使用します。
アンカースクリューを固定源にすることで、動かすことが難しい歯や顎を動かせるため、対応できる症例の幅が広がっています。
世界的にも普及が進んでいる治療法で、従来の歯列矯正に比べてより理想的に矯正力を加えることができるのが特徴です。
ネジを歯茎あたりに植え込むことに不安を感じる方もいるかもしれませんが、アンカースクリューはチタン合金製で安全性が高い材質です。
治療後は麻酔をせずとも強い痛みを感じることなく取り外しができ、傷も目立たなくなるため安心して治療を受けられます。
顎を広げる矯正治療の治療期間
顎を広げる矯正治療のみの場合は、半年~1年程度で終わるケースがほとんどです。
2~3年程度の治療期間を要する通常の歯列矯正に比べると、治療期間が短く終えられる点が魅力です。
しかし歯列や口内環境によっては、別の治療をプラスする可能性があるため治療期間が長くなる場合があります。
また生活習慣などによって後戻りすることもあるため、定期的に歯科医に通い経過を観察していくことが大切です。
顎を広げる矯正治療の費用
顎を広げる矯正治療は約30万円の費用がかかります。歯列矯正と同様、保険適用外の扱いです。
子どもの場合は顎を広げやすいため治療期間が短く済む場合が多いですが、大人は治療期間が長引くことも考えられます。
大人は顎の成長が完了しているため、理想通りに顎が広がらないケースがあるためです。
治療期間が長引いた場合には当初の費用より高くなる可能性もあるため、余裕を持った予算設定をしておくと安心です。
大人で顎を広げる矯正治療を受けるメリット
大人が顎を広げる矯正治療を受けることによって、意外な部分にメリットをもたらします。
歯列以外に抱えている悩みがある場合は、顎を広げる矯正によって解消される可能性もあります。
どのようなメリットがあるのかを紹介するため、参考にしてみてください。
鼻呼吸がしやすくなる
上顎が小さいと鼻腔が狭まり、口呼吸になってしまうことがあります。
矯正で上顎を広げることによって鼻腔が広がり、鼻呼吸のしやすさにもつながります。
無意識で口呼吸になってしまうという方は、上顎の小ささが原因になっているかもしれません。
常に口呼吸をしていると細菌が扁桃腺に届いてしまったり、息がしづらいことから姿勢が悪くなったりします。
口呼吸はさまざまな健康被害を及ぼすため、改善したいという方は上顎の状態にも着目してみてください。
いびきの改善にもつながる
顎を広げて歯列の幅に余裕ができると、舌がおさまるスペースが確保されます。
舌をおさめるスペースができることによって、気道が広がるのと同時に鼻腔も広がるためいびきが出づらくなるのです。
いびきをしているときは睡眠が浅くなり、人によっては「睡眠時無呼吸症候群」のような症状が起こる方もいます。
いびきは翌朝の体調にも影響するため、歯列と同時にいびきも改善したいという方におすすめの治療です。
非抜歯での矯正治療ができる可能性がある
歯列矯正を始める方にとって抜歯をせずに矯正できるということは、顎を広げる矯正をする最大のメリットといえます。
大人が歯列矯正を始める際に抜歯をする目的は、歯がおさまるスペースを確保するためです。
抜歯に抵抗があるからといって、抜歯をせずに無理に矯正治療を始めてしまうと、おさまりきらない歯が前に出てしまうリスクがあります。
顎を広げる矯正をすることによって、自然とすべての歯をおさめるスペースができるため抜歯をする必要がなくなる可能性があります。
「抜歯をせずに矯正したい」という方は、顎を広げる矯正をしてから歯列矯正を始める選択肢も検討してみてください。
顎を広げる矯正治療を受けるデメリット
大人が顎を広げる矯正治療を受ける場合、デメリットもあるのが事実です。
子どもの歯列矯正の場合は顎を広げる治療が頻繁に用いられますが、大人の場合は容易なことではありません。
なぜなら子どもと違い、顎の成長が完了しているからです。顎の成長が止まっていることが、矯正治療にどのような影響を与えるのかを解説します。
受けられる歯科医院が限られる
大人が顎を広げる矯正治療を受けられる歯科医院は多くないため、歯科医院探しに苦労する可能性があります。
自宅や勤務地から距離がある歯科医院にしてしまうと通院することがストレスになってしまうため、まずは近くの歯科医院から探してみましょう。
すでに通っている歯科医院があれば、歯科医に相談してみるのもおすすめです。治療を受けられる歯科医院を紹介してもらえるかもしれません。
治療が長引く可能性もある
顎の成長過程にある子どもの矯正治療に比べると、治療期間は長くなる可能性が高いです。
顎が成長するのは10歳頃までで、成人する頃には顎の成長が完了している状態です。
顎の成長が完了しているということは骨格を動かしにくく、定められた期間を守って矯正装置をつけていてもなかなか顎が広がらない場合があります。
治療期間が長くなる可能性を理解しておくことで、実際に長引いてしまった際に過剰なストレスを感じることなく治療を続けられます。
大人で顎を広げる矯正治療を受ける際に考えられるリスク
成長が止まっている顎を広げていくためには、いくつかのリスクが生じることも考えられます。
起こり得るリスクを理解しておくことで、リスクを減らすための対応を事前に医師と相談できます。治療前の心構えとして、リスクの知識を深めておきましょう。
歯並び・噛み合わせが悪化する
拡大装置を使って無理に顎の骨を広げた場合、口元全体が前に出るため歯が前に出てしまう可能性があります。
つまり、出っ歯のように見える場合があるということです。また口元が突出することで、噛み合わせに影響が出ることも考えられます。
問題がない部分にまで影響を及ぼしてしまう可能性があるため、治療を始める前に歯並びや噛み合わせに悪影響がないかどうかを歯科医に見極めてもらいましょう。
後戻りが起こる
拡大装置をつける期間や時間が短いと後戻りが起こるリスクがあります。
拡大装置をつけていない時間が長くなると、顎の骨はすぐに元に戻ろうとしてしまうのです。
歯科医から指定された装着時間をしっかり守り、正しい使い方を意識していくことで後戻りを防げます。
自分で取り外しが可能な装置はつい装着するのを忘れてしまうこともあるため、気をつけましょう。
歯根露出する
歯の土台となる歯槽基底の限界を超えるほど過度な拡大を行うと、歯根が露出してしまう恐れがあります。
拡大装置を使う際は顎を広げたいからといって力をかけ続けるだけではなく、口内全体のバランスを見ながら力を調整していく必要があります。
歯根が露出するということは、「歯槽骨」や「歯根膜」さえもがなくなっている状態です。
1度なくなってしまった歯槽骨や歯根膜は元に戻ることがないため、顎の拡大矯正を受ける際は十分に知識がある医師に施術してもらうことが重要です。
大人で顎を広げる矯正が気になる場合は歯科医へ相談を
顎を広げる矯正を受けたい方は、まず歯科医に相談してみましょう。
大人の顎を広げる矯正は専門的な知識と技術を要するため、自分で調べるだけでは理解が難しいものです。
歯科医に相談すれば、口内の状態を見てもらいながら顎を広げる矯正が適しているかどうかを判断してもらえます。
症例によっては顎を広げる矯正ではなく別の矯正方法で悩みを解消できることもあるため、自分で判断せずに信頼できる歯科医に相談してみましょう。
まとめ
大人の顎を広げる矯正治療は、「床矯正」「歯列矯正用アンカースクリュー」を用いた治療が効果的です。
顎を広げる矯正治療はいびきの改善・鼻呼吸がしやすくなる・抜歯をせずに歯列矯正ができるなどのメリットがあります。
大人の拡大矯正は歯並びに影響を与える・後戻りが起こりやすい・歯根露出の恐れがあるなどのリスクがあるため、信頼できる医師のもとで治療を行うことが重要です。
顎を広げる治療は専門性が高く、十分な知識や経験が必要です。取り扱いがある歯科医院が近隣にない可能性もあります。
まずは歯科医に相談し、余裕があればセカンドオピニオンなども利用しながら安心して治療を任せられる歯科医を見つけていきましょう。