【監修:青山健一】
目 次
舌にはさまざまな役割があります。味を感じる役割や言葉を発する場面、または食事のサポートなどもしてくれているためです。
それ以外にもありますが、実は舌には悪い役割も存在します。
それは、舌の位置によって歯並びに悪い影響を与える可能性があるということです。
ここでは正しい舌の位置やそれに影響する歯並び、治療方法も解説していきます。ぜひ参考にしてください。
あなたの舌は正しい位置にありますか?
目や鼻に正しい位置があるように、舌にも正しい位置があります。
普段、何気なく生活していると「自分の舌は今どの位置にあるのだろう」と、改めて気にすることはあまりありません。
正しい舌の位置の条件は次のようなものになります。ぜひチェックしてみてください。
- 舌先が上前歯の裏側にある膨らみ部分に触れている状態
- 舌の広い部分が上顎に軽く触れている状態
本来あるべき位置に舌がない人は、歯並びが悪くなっていたり、歯を食いしばっていたりして歯に大きな力が加わっている状態にあります。
舌が正しい位置にあることで上顎の成長を支えてくれる役割も担っているためです。また虫歯や歯並びなどに悪い影響を与える可能性を少なくします。
正しい舌の位置「スポットポジション」とは?
スポットポジションとは、上前歯の根本付近にあるふくらみ部分に舌が当たる場所のことを指します。
舌は普段の会話や食事などのあらゆる場面で、私たちを大きくサポートしてくれています。
普段から舌がスポットポジションにあることが理想です。
しかしスポットポジションにない場面ももちろんあります。
例えば仕事や勉強に集中して舌に意識が向いていないときに、無意識に舌が下顎に下がっている状態などです。
ほかにも、舌が上下の前歯の隙間から少し出てしまう状態なども挙げられます。
このように舌が食事や会話以外の場面で活発に動いたり、スポットポジションから動いてしまったりする癖を舌癖といいます。
舌が下がる「低位舌」の影響
舌が本来あるべきスポットポジションではなく、下顎に下がる現象を低位舌といいます。
低位舌になると、私たちの体にはいくつか影響をもたらします。
どのような影響をもたらすのかみていきましょう。
口呼吸
低位舌になることで、呼吸するための気道が圧迫されて口呼吸になることがあります。
必ず口呼吸になってしまうわけではありませんが、注意する必要があります。
鼻呼吸なら鼻毛がウイルスや菌を絡みとってくれますが、口呼吸だとウイルスを直接体内に取り込んでしまうリスクがあるためです。
ほかにも口呼吸の回数が増えると、口内や喉が乾燥してウイルスなどが喉に付着しやすくなってしまいます。
直接的な風邪の原因にもなるため注意しましょう。
虫歯・歯周病
低位舌になると、唾液循環不全になり虫歯や歯周病に影響してきます。
唾液には、口の中の粘膜を全体的に覆って保湿・保護してくれる効果があります。
また歯の再石灰化を促して、虫歯になりにくくする作用のリンやカルシウムなども含まれているため唾液の役割は重要です。
いびき
低位舌で気道が狭くなると、睡眠が浅くなり寝ている最中にいびきをかきやすくなります。
また舌がスポットポジションにある人に比べて、舌を支える筋肉が弱い傾向にあります。
そのため舌を支えきれずに気道を塞いでしまい睡眠時無呼吸症候群に陥る可能性もあるのです。
歯並び
低位舌になると舌はスポットポジションから下がり下顎に触れている時間が多くなります。
その触れている時間が多くなることで上顎の成長を妨げる可能性もあるのです。
上顎の成長を妨げられると、歯並びを悪くする原因へと繋がります。
舌の位置に関係する歯並び
舌の位置により歯並びに大きく影響してくる可能性があります。
どのような歯並びに関係してくるのか解説していきます。
ガチャガチャ歯並び
舌は上顎の成長をサポートするためにも、通常ならスポットポジションにあることが理想です。
しかし低位舌の影響により舌が下がっているため、上顎が狭窄歯列になるのです。
狭窄歯列とは、歯の幅が狭い並びのことを指します。
この狭窄歯列により、一般的な緩やかな歯列よりも極端に狭くなることで、ガチャガチャな歯並びとなってしまうのです。
ガチャガチャ歯並びとは、歯列が綺麗なカーブではなくデコボコしている状態のことです。
ガチャガチャな歯並びとなると見た目が気になる人が多くいます。
また歯ブラシで上手く汚れが取れず虫歯になってしまう要因にも繋がります。
すきっ歯
すきっ歯とは、歯と歯の間に隙間ができている歯のことです。
すきっ歯になってしまう影響にも、低位舌が関係しています。
低位舌によって舌が下がった状態が長引くと、舌が下顎を前に押し出してしまいます。
下顎が舌先に押しやられると歯同士に間隔が生まれ、すきっ歯になってしまうのです。
受け口
受け口とは、上の歯よりも下の歯の方が前に出てしまう状態を指します。
通常は下顎よりも上顎が前に出ますが、受け口になると下顎の方が前に出てしまうのです。
別名、下顎前突症や反対咬合とも呼ばれます。
すきっ歯と同じく低位舌の影響で、下顎が舌先により押し出されてしまうためです。
他の歯並びと違って、骨格に大きく影響する症状になります。
成長が進むにつれて治療が困難になってしまう厄介な症状なため、注意しなければいけません。
出っ歯
出っ歯とは、前歯が前に飛び出しているような状態のことを指します。
出っ歯の原因は、物を飲み込んだり会話したりするときに、無意識に舌を前に押し出す舌突出癖と呼ばれる癖が原因のことが多いです。
ほかにも、指しゃぶりが原因で発症することもあります。指しゃぶりの場合、乳幼児期であれば問題はありません。
しかし、3~4歳を過ぎても指しゃぶりの癖が抜けない状況が続くと、歯並びにも影響が出てきてしまいます。
歯並びを治す方法
歯並びを治すためには、部分矯正や全体矯正で治していく方法があります。
それぞれの治療方法についてみていきましょう。
部分矯正
部分矯正とは、部分的に治療する方法のことです。
歯並びがガチャガチャしている部分を矯正したり、前歯の出っ歯を部分的に矯正したりします。
大きなメリットは、気になる箇所をピンポイントで治療できることです。
また全体矯正と比べて治療期間が短く、治療費を抑えられる面もあります。
気になる部分を必ずしも部分矯正できるというわけではありません。
歯並びの状態により部分矯正をできない場合もあるため歯科医師に相談するようにしましょう。
全体矯正
全体矯正とは、上下のすべての歯を対象に矯正することです。
全体矯正は、ガチャガチャな歯の場合や歯並びが悪い場合などに選ばれる治療方法になります。
大きなメリットは、希望通りに歯を動かせることです。
また綺麗な歯並びにするために、邪魔な歯を抜く場合があります。
しかし歯を抜くことで歯を正しい位置に戻せるため、噛み合わせを良くすることができ顎関節症の予防にも繋がります。
部分矯正と比べると治療期間が長く、費用が割高になることがデメリットです。
舌の位置を改善する方法
さまざまな歯並びの原因になっている舌の位置を、スポットポジションに改善する方法について解説していきます。
多くの場合が、口に関する筋肉量が低下していることが原因として考えられています。
紹介するトレーニング方法を実践して、舌を本来のスポットポジションに戻しましょう。
あいうべ体操
あいうべ体操とは、福岡県にある「福岡のみらいクリニック」の今井一彰先生が発案したトレーニング方法です。
トレーニング方法は、次のような順番で行います。
まず「あー」と口を大きく開きましょう。次に「いー」と口を大きく横に広げてください。
次に「うー」と口を強く前に突き出します。最後に「べー」と舌を突き出して下に伸ばしましょう。
この4つの工程を1セットとして、食後などに10セット行ってみてください。
1日に30セットを目安に毎日続けてみましょう。
あいうべ体操を行うことで、低位舌の影響で口呼吸だったのが鼻呼吸に改善されます。
地道なトレーニングを続けることにより、口まわりの筋肉が鍛えられて舌力が上がります。
最終的には舌がスポットポジションに戻ることが理想です。戻すためにも継続してトレーニングを行うことが大事です。
ポッピング
ポッピングとは、舌を上顎に強く上げて低位舌を改善する方法です。
口を大きく開けて、舌を上顎に上げることで舌裏の舌小帯を伸ばす目的があります。
口を開けて舌全体を上顎に吸い上げ、舌小帯を伸ばしたときに「ポンッ」と音が鳴ることをポッピングといいます。
ポッピングを行う際は、次のようなことをポイントにしてください。
- 舌先がスポットポジションにあること
- 舌先と舌全体が左右対称に上顎に吸い上げられているか
- 舌先を上の歯の内側に収めること
- 舌先や舌左右、舌奥すべてが上顎に吸い上げられているか
「ポンッ」と音が鳴り舌を下顎に下ろす際は次のようなことをポイントにしてください。
- 口を大きく開けながら、上顎に吸い上げている舌を呑み込むようなイメージ
- 「1・2・3・ポンッ!」と、ゆっくり数えるスピードがベスト
このトレーニングを10回~20回を目安に行いましょう。
20回が大変な人は、10回に減らしても問題ありません。無理のない範囲で継続させることが大切です。
トレーニングにスピードは関係ないため、最初は音を出すことが大切です。
舌全体を上顎に吸い上げられるようになると、よい音が出せるようになり舌小帯も伸びるようになります。
正しい舌の位置と歯並びの相談は信頼できる歯科医へ
歯の矯正で「治療後の後戻り」について聞いたことはありますか?
矯正後に元の歯並びに戻ってしまう原因は、舌の位置に関係しているのです。
悪い歯並びの多くが、舌がスポットポジションにいないことが原因として考えられます。
そして低位舌などになってしまうのは、口まわりの筋肉が衰えているからです。
また、低位舌の原因には硬い食べ物を食べなくなったり、口まわりの筋力低下などの生活習慣であったりも大きく影響しています。
健康に欠かせない歯と、長期的に付き合っていくためにも舌の位置や歯並びに悩みがある場合は歯科医師に相談しましょう。
まとめ
舌が正しい位置にあるかないかで、さまざまな影響がでてきます。
自分自身の舌が正しい位置にあるのか、また舌の位置の関係で歯並びに影響しているのかこの機会に確認してみてください。
ご紹介したように自宅で気軽にできるトレーニング方法もあります。
健康な歯を保ち続けるためにも、舌の位置や歯並びで悩んでいる場合は歯科医師に相談しましょう。