【監修:青山健一】
目 次
無意識のうちに歯を食いしばる「食いしばり」の癖がある人は少なくありません。
食いしばりは歯に負担を与えるだけではなく、頭痛や顎の痛みなど身体のさまざまな不調を引き起こす恐れがあります。
歯並びや睡眠中の歯ぎしりにも大きく関係しており、健康のためにも食いしばりは改善したい癖です。
口腔内だけではなく全身の健康にも影響する食いしばりについて、その原因や治療方法について解説していきます。
食いしばりの原因
食いしばりの原因は、人によって異なるものです。
大きく分けると物理的要因と精神的要因の2種類に分けられます。
通常上下の歯は、1㎜ほどの隙間がある状態が正常です。口を閉じた際に、上の歯と下の歯が接触していたら、歯を食いしばっているといえます。
強い力で歯を噛みしめている自覚はなくても、無意識に噛みしめる癖がついている人は多いです。そのため、食いしばりの癖に無自覚な人も少なくありません。
なぜ食いしばりが起きてしまうのかその原因を詳しく解説いたします。
歯並び・噛み合わせの悪さ
食いしばりの原因のひとつは、歯並び・噛み合わせの悪さです。
噛み合わせが悪いとバランスよく噛めず、噛む力が過度に強くなり食いしばりにつながります。
特に過蓋咬合と開咬は、奥歯で噛もうとする力が強くなるため食いしばりにつながりやすいです。
過蓋咬合とは、下の前歯が上の前歯に深く被さっている状態です。
開咬は、口を閉じても前歯の上の歯と下の歯に隙間ができる状態を指します。
詰め物や被せ物があっていない
詰め物や被せ物があわないことも食いしばりの原因です。
詰め物や被せ物によって歯並びに高低差ができてしまうと、嚙み合わせが悪く、食いしばりにつながります。
また、金属製の詰め物や被せ物が身体にあわないことも食いしばりの原因となります。
身体にあわない金属が口腔内にあるために、アレルギーなどの症状が出ることもあるため注意が必要です。
ストレス・疲れ
食いしばりの多くの原因は、ストレスや疲れといった精神的要因がほとんどといわれています。
強いストレスを感じると、交感神経が優位に働きます。その結果、口の筋肉が緊張状態となり無意識に歯を食いしばってしまうのです。
また、一種のストレス解消の行為として食いしばりや歯ぎしりをしてしまうという考え方もあります。
食いしばりと歯ぎしりの関係性
歯を強い力で噛みしめ擦り合わせる歯ぎしりは、睡眠中の無意識な癖のひとつです。
ギリギリと音がする歯ぎしりは、本人だけではなく他人にもわかるものです。
そのため、日常生活の中で起きている際は、無意識に食いしばりをしても歯ぎしりをすることはまずありません。
しかし、睡眠中は意識がない状態であるため、ギリギリと音を立てるほど歯ぎしりをしても本人は無自覚です。
歯ぎしりは無意識のときに起きるものだからこそ、噛みしめる力のコントロールができず奥歯にかかる力は体重の2倍にもなるといわれています。
それだけの力が奥歯にかかるとなると、当然歯や顎には大きな負担となります。
「睡眠中の単なる癖」として見過ごせない歯ぎしりですが、日中食いしばりの癖がある人は歯ぎしりしやすい傾向です。
起きているときも寝ているときも、ストレスが食いしばりや歯ぎしりの原因になっているといえます。
また、常に歯を食いしばる習慣が寝ている際の歯ぎしりにつながっているとも考えられます。
つまり、食いしばり癖がある人は歯ぎしりもしている可能性があり、歯ぎしりを指摘された人は食いしばり癖がある可能性が高いです。
食いしばりのリスクと悪影響
食いしばりは、そのまま放置しておいてよい癖とはいえません。
どんな影響を与えてしまうのか、食いしばりのリスクと悪影響について解説いたします。
矯正中の歯を動きにくくする
矯正治療中の人にとって、食いしばりは見過ごせない癖です。
歯並びを矯正する際は、歯を前後左右に動かそうとします。
ここで食いしばりによって垂直方向に歯に力が加わってしまうと、期待通りに歯を動かすことが難しくなります。
また、矯正中は歯を動かすため、歯の根っこがぐらぐらしたり不安定な状態になったりすることも多いです。
そこに強い力が加わってしまうと、神経が刺激され強い痛みを感じてしまったり歯の根っこにヒビが入ったりする恐れがあります。
歯周病や知覚過敏のリスクになる
食いしばりは、歯だけではなく歯茎にも負担を与えます。
その結果、歯と歯茎の間に隙間ができたり神経が刺激されたりして、歯周病や知覚過敏になりやすいです。
また、もともと歯周病の人は、食いしばりによって歯茎に炎症が起きやすくなり歯周病が悪化する恐れがあります。
顎関節症のリスクになる
食いしばりは、顎が痛い・口を開けると顎が痛む・顎を動かすと音がするなどの顎関節症になるリスクもあります。
食いしばりや歯ぎしりは、長時間続けば続くほど顎の関節や骨に大きな負担となるため注意が必要です。
肩こりや頭痛を起こす
食いしばりによって生じた筋肉の緊張が広がり、肩こりや頭痛を起こすことも多いです。
慢性的な肩こりや頭痛に悩む人は少なくありませんが、食いしばりや歯ぎしりが慢性的な痛みの要因になっているケースも少なくありません。
顔が大きく見える
常に噛みしめる力が生じていることで、奥歯をかみしめる筋肉が発達しエラが大きくなるリスクもあります。
エラが張ってしまうとその分顔が大きく見えるようになります。
もともとの骨格によってエラが張っている場合もありますが、筋肉の発達によってエラが張ってしまっている人も少なくありません。
骨が大きくなることはまずありませんが、食いしばりによってエラが張っている場合は、筋肉がさらに大きくなる可能性があるため注意が必要です。
食いしばりの治療方法
さまざまなリスクがある食いしばりですが、噛み合わせを正しく治すことで、食いしばりや歯ぎしりのリスクを最小限に抑えることができます。
食いしばりや歯ぎしりの症状がある人は、食いしばりの治療方法を知って早めに対処していきましょう。
歯列矯正
歯並びや噛み合わせが食いしばりの原因になっている場合は、歯列矯正で治療できます。
歯並びが矯正され、前歯・奥歯をバランスよく使い噛めれば、食いしばりの改善につながります。
ただ、矯正治療中に食いしばりの癖が強いと歯がスムーズに動きにくくなってしまうため、食いしばりや歯ぎしりの癖を必ず歯科医に相談しましょう。
生活習慣の改善
ストレスや生活習慣が食いしばりの原因になっている場合は、生活習慣の改善によって症状が改善することもあります。
- 睡眠時間をたっぷりとる
- 適度な運動やストレッチで筋肉の緊張をほぐす
- 頬杖をつかない
- 口を閉じている際に上下の歯をくっつけないように意識する
- 過度な飲酒は控える
など、できることから実践してみましょう。
就寝の際は、寝る姿勢も重要です。うつ伏せや不自然な体勢は、筋肉の緊張につながり食いしばりや歯ぎしりにつながります。仰向けでリラックスして眠りましょう。
また、過度なアルコールは食いしばりや歯ぎしりに影響します。睡眠の質を下げる原因にもなるため、過度な飲酒は控えるようにしましょう。
マウスピース
睡眠中の食いしばり・歯ぎしりは、マウスピースを使用する治療方法もあります。
睡眠中にマウスピースを装着すると、上下の歯が直に接触しないため歯ぎしりをしても摩擦や欠損から歯を守れます。
マウスピースによって、睡眠中の食いしばり・歯ぎしりの回数が減ることも多いです。
また、マウスピースを装着することで歯ぎしり特有の不快な音が出にくくなり、周囲の人への配慮にもなります。
食いしばり改善のコツ
食いしばりを改善するためにできることはたくさんあります。
歯並びや噛み合わせが原因となっている場合は矯正治療が最善ですが、矯正治療をすぐに始めるのが難しいという場合はできることから始めてみましょう。
普段口を閉じているときに上下の歯がくっついている人は上下の歯をくっつけないように意識するだけでも食いしばり改善につながります。
また、日常生活のストレスが食いしばりの原因になっている場合も多いですから、ストレスを溜めないように心がけることも大切です。
食いしばり癖のある人の矯正トラブルと対策
前述でもお伝えしたとおり、食いしばり癖のある人が矯正治療すると、食いしばりがスムーズな歯の動きの邪魔をしてしまう可能性があります。
そのため、想定していた治療期間よりも長引く恐れがあります。
また、歯が欠けたりヒビが入ったりする、歯周病になるなどのトラブルが生じる可能性もゼロではありません。
インビザラインで歯列矯正をする場合も、食いしばりによる矯正トラブルが起きやすいです。
インビザラインで使用するマウスピースが歯を守ってくれる面もありますが、食いしばりの強い力によってマウスピースが変形・損傷する恐れもあります。
食いしばり癖が強い場合は、インビザライン矯正よりワイヤー矯正が適していると判断される場合もまれにあります。
自分に合った矯正方法を選ぶことも、矯正トラブルを防ぐ対策です。
矯正トラブルを回避するためにも、歯科医・矯正医にしっかり相談しましょう。
食いしばりの矯正治療は信頼できる矯正専門医へ
食いしばりの矯正治療は、食いしばりが治療の妨げになる恐れもありさまざまな注意が必要です。
細やかな対応が必要だからこそ、信頼できる矯正専門医を選ぶようにしましょう。専門医は、いわば矯正治療のプロです。
歯並びを専門的に治療しているからこそ、食いしばりや歯ぎしりの癖を理解したうえでその人に適した矯正治療をしてくれます。
まとめ
食いしばりは、お口の中だけではなく身体全体に悪影響を与える注意すべき癖です。
ストレスや歯並びが大半の原因ですが、食いしばりによる頭痛や肩こりなどの不調がさらなるストレスになることも考えられます。
ストレスの悪循環にならないよう、食いしばり癖がないかチェックし早めに対処していきましょう。