【監修:青山健一】
目 次
みなさんは「捻転歯」という状態をご存じでしょうか。あまり耳慣れない言葉で、怪しいものではないかと不安になっている方もいるかもしれません。
しかし捻転歯は矯正分野の中において決して珍しいことではないです。
そこで今回は捻転歯の原因から放っておくことのリスクや治療方法、そこに掛かる費用に至るまで詳しくお話していきます。
ご自分やお子さんの歯が「もしかしたら、これは捻転歯かも…?」と心当たりのある方は、ぜひ参考にしてみてくださいね。
捻転歯の特徴
捻転歯とは漢字の通り「捻じれて回転している」状態の歯のことを指します。
歯並びの問題には大きく分けて2種類あり、歯そのものの並びが前後にズレて歪んでいる場合と、歯は一列に並んでいるが歯の表面が正しい方向を向かず回転している場合です。
そのうち後者の歯を捻転歯と呼び、捻れの程度はバラバラで正面から数度ほど回転しているものから、180度捻じれてしまっていることもあります。
捻転歯は前歯で生じることが多く、そのほとんどが子供の頃に形成されてしまいます。
捻転歯の原因
捻転歯がどのようなものかおわかりいただけたところで、なぜ捻じれて歯が生えてしまうのかという原因についてお話します。
捻転歯にはいくつかの原因が考えられ、残念ながらその原因の中には予め対策することが難しい場合が多いです。
それでも予め原因を知っておくことで治療を早く始める糸口にはなります。ぜひ原因についても把握しておきましょう。
スペースが足りない
生え変わりのときに起こる原因として、永久歯が生えてくるスペースが足りないことがあります。
乳歯よりも永久歯は大きいため、次々に生え変わっていくと顎の成長が追いつかず、十分な空間がないところへ無理に永久歯が生えてきます。
結果として他の歯を避けるように生えてくるため、正しい位置とはズレたり、捻じれてしまうのです。
「小さいころは歯並びがとても綺麗だったのに…」という方に多いといえます。
過剰歯がある
過剰歯は捻転歯の原因の一つです。過剰歯とは通常の数よりも多く生えてくる歯のことを指します。
ヒトの歯は親知らずも含めて合計32本ですが、それよりも多い数の歯が生えてくる方がいます。
過剰歯は歯茎の根本で歯が作られる際に歯の卵である「歯胚(しはい)」が多く作られたり、2つにわかれたりすることで生まれます。
原因には遺伝が影響しているとされますが、詳しい実態はまだ解明されていません。
通常の本数でもスペースが足りない場合がある上に、そこに過剰歯が生えてくると歯が捻じれてしまうことは想像に難くないです。
親知らずによる圧力
この原因は生えそろった後、大人になってから起きる可能性がある原因の一つです。
現代人は以前よりも骨格がやや小さい方が多く、親知らずのスペースが足りないことがあります。
そのため、知らず知らずのうちに親知らずが他の歯を圧迫してしまい、徐々に歯が回転して捻転歯になってしまうのです。
捻転歯は幼少期の歯の生え変わりが原因になることが多いですが、大人になってからも起きることは十分にあり得ます。油断せずにおきましょう。
永久歯の生え変わりが遅い
永久歯の生え変わりが遅いことも捻転歯の原因になり得ます。
本来歯が生え変わるときには、永久歯が作られるのと同時に乳歯の歯の根本が溶けて吸収され、自然と抜けていきます。
しかし、乳歯の吸収が遅くなかなか抜けずにいると、乳歯を避けるように永久歯が生えてくるため捻じれてしまいます。
捻転歯を放置するリスク
「前歯ならともかく、奥歯は見えないし放っておいても大丈夫じゃない?」、「見た目が気になるだけで大したことないでしょう?」と考えている方もいるかもしれません。
実は捻転歯をそのままにすることには大きな「リスク」が潜んでいるのです。次はその危険性についてお話します。
歯並びへの影響
言わずもがな、捻じれてしまうと歯並びが歪んでしまいます。歯並びが悪くなると見た目の問題だけでなく、噛み合わせまでもがズレてしまいます。
噛み合わせがズレていると歯に十分な力が加わらず食事に支障がでてしまったり、口や肩まわりの筋肉に余計な力が加わり肩こりや頭痛の原因になります。
虫歯や歯周病に侵される
捻転歯の周りには隙間ができやすくなります。そこに食べ物が詰まったり、また歯が捻じれているため上手くブラッシングできない場合があります。
自分ではしっかり磨いているつもりでも、捻転歯の隙間は死角になる部分も多いため、気づかないうちに磨き残しが溜まっているかもしれません。
長時間磨き残しがあると虫歯や歯周病のリスクを引き起こし、今はよくても数十年後には歯がぐらついたり、大きな炎症につながる可能性があります。
捻転歯を治療する方法
捻転歯が抱えるリスクについて確認してきたところで、実際に捻転歯の治療法についてご説明します。
その前にここまでの話を聞いて「こんなに曲がって生えている私の歯を正しい場所に戻せるの…?」と思っている方もいるはずです。
さらに、矯正は痛みがあるという話を耳にして骨格に負担はないのかと不安になる方も多いです。
確かに矯正の開始当初は歯が正しい位置に戻ろうとするため、個人差がありますが痛みは出てきます。
その痛みは数日~長くても1週間程度で痛みはなくなり、どうしても我慢できないときは歯痛の薬を飲めば和らげることが可能です。
また、矯正は予めレントゲンや型取りなどを行い、患者さんそれぞれの状況に合わせた治療をしっかりと検討した上で始めるため、無理のない治療をしていきます。
具体的な治療方法は大きく分けて3つありますが、どの治療方法を選ぶかは患者さんと担当医が相談の上決めていきます。
相談の際に予め知識を入れておくと、歯科医の説明の理解も深まるため、ぜひ下記の治療方法を確認してみてくださいね。
ワイヤー矯正
代表的な矯正治療方法として「ワイヤー矯正」があります。
文字通りワイヤーを歯表面に張り、そのワイヤーが真っ直ぐになろうとする力を利用して、正しい位置に歯を動かしていく治療方法です。
矯正治療している方が歯に銀色の器具を付けている姿を見た経験がある方もいるかもしれません。あの器具がワイヤー矯正です。
ワイヤー矯正はみなさんお気づきの通り、口を開けると器具が見えてしまうため、見た目を気にする方にはやや不向きといえます。
さらに、硬い食べ物やガムなどの粘度が高い食べ物を食べると金具が取れてしまうことがあるので注意が必要です。
一方、歯の1本ずつにブラケット呼ばれる小さな金具を取り付けて、そこへワイヤーを通すためどんな状態の歯に対しても臨機応変に治療が可能です。
定期的な検診以外で自己メンテナンスなども必要ありません。
マウスピース矯正
マウスピース矯正は予め型取りをして作製したマウスピースを口にはめて治療する方法です。
マウスピースは透明で見た目が目立ちにくく、大切な行事のときや写真撮影時など自由に取り外すことが可能です。
また取り外して食事や歯磨きができるため、ワイヤー矯正に比べて口の中に食べかすが残ってしまうことが少ないといえます。
一方、かなり並びが歪んでいたり歯の状況によってはマウスピースで治療できない場合があります。
さらに、マウスピースは取り外しができてしまうことで、なかなか装着せずにいるといつまでも治療を進められません。
マウスピースは1日20時間以上の装着が推奨されているため、治療には自己管理が大切になりますね。
抜歯
捻転歯の治療のほとんどはワイヤー治療またはマウスピース治療で行われますが、捻転歯の状況によっては抜歯が行われる場合があります。
例えば、捻じれた歯を正しい位置におさめるだけのスペースがない場合です。
捻転歯は生えてくる空間が狭いことで生じることがあるとお話しましたが、そもそもスペースがなくて回転してしまったのであれば、元に戻すスペースもないということがあり得ます。
その場合は捻転歯あるいは周りの歯を抜歯してスペースを確保しなければなりません。
抜歯をすると結果として通常より歯が1本少なくなりますが、見た目は何も変わりませんし、抜いた場合の噛み合わせに問題がないかをチェックしてから抜歯するため心配はいりません。
歯医者さんで歯を見せたときに初めて気づかれる程度です。
歯列矯正で捻転歯を治す場合の費用・期間
では、次に実際治療にかかる費用と期間についてご紹介します。
矯正治療にかかる期間はワイヤー治療もマウスピース治療も1年半~3年くらい、費用の相場は60万~150万円程度です。抜歯を行う場合は別途費用がかかります。
上だけの部分矯正なら約半年で、費用の相場は25万円~50万円程度です。
虫歯治療とは桁違いの金額でビックリされている方もいるかもしれません。これは矯正治療が保険適応外で行われることが起因しています。
最近ではデンタルローンという無利子で治療費のローンを組める歯科医もあります。
高い出費であることは歯科医側もちゃんと理解しているため、費用について不安があるときは気軽に相談してみてください。
患者さんの状況に合わせて、最善の治療方針を提案してくれますよ。
子供が矯正する場合の特徴
子供の骨格は大人と違いまだ定まっていません。言い換えれば痛みや負担がより少ない状態で矯正できます。
可能であれば、子供のときに生じた捻転歯は子供の間に治療を行うのが理想的です。では、子供の矯正には大人と異なる部分があるのか、その特徴についてご説明します。
顎の成長をコントロールできる
子供のうちに治療を行う上で最大のメリットは「顎の成長をコントロールできる」ことです。
子供の骨格は大人と違い柔軟なため、成長過程で生じた歪みはその都度対応すれば負担が少なく治療できます。
顎の成長と歯の状態を加味しながら治療するため、永久歯が全て生えそろう頃には綺麗に歯を並べることが可能になります。
また歯並びだけでなく、上顎より下顎が前に出ているような骨格異常も幼少期であれば比較的矯正が容易です。
捻転歯の治療に床矯正という選択肢
子供の治療で「床矯正(しょうきょうせい)」という方法を提案されることがあります。
床矯正は歯を抜かずに顎を広げて、歯がおさまるスペースを作る治療方法です。歯がおさまる顎(床)を矯正することから床矯正と呼ばれます。
取り外しのできるバネのついた装置を口にはめて少しずつ顎を広げます。この治療の最大のメリットはスペースがなくても、土台を広げるため、「抜歯」をしなくて済むことです。
しかし、適応できるタイミングに制限があり、いつでも適応できる治療法ではない点がデメリットでもあります。
捻転歯は放置せず歯科医に相談しよう
捻転歯は歯並びや見た目の問題はもちろんのこと、さまざまなリスクが潜んでいるとわかりました。
残念ながら捻転歯を自力で治すことは難しいです。
また、捻転歯は放っておいて正しい位置におさまることもありません。起こり得るリスクを考えると早めに歯科医で治療することをおすすめします。
まとめ
今回は「捻転歯」についてお話してきました。捻転歯の治療を検討している方の参考になれば幸いです。
治療に不安を抱えている方は、まず歯科医に行って相談してみましょう。あくまで治療に行くのではなく、相談に行くだけで大丈夫です。
たくさん相談や質問をして納得ができましたら、治療を開始しましょう。綺麗な歯並びで素敵なスマイルライフをお過ごしくださいね。