【監修:青山健一】
目 次
咬合誘導という言葉は、なかなか聞くことは少ないかもしれません。
これは、大人の治療方法ではなく子どものうちから、装置を使いつつ子どもの成長力を利用し、歯並びや噛み合わせなどを治療する方法なのです。
今回は、咬合誘導の特徴などを詳しく説明していきます。子どもの将来を見据えながら理解を深めてください。
咬合誘導の特徴
子どものあごの成長の最中に治療を始めるため、あごの骨格を整えるのと同時に歯並びも治していくことができます。
また、歯の大きさに合わせてあごを拡大するように矯正するため、抜歯せずに治療することができるのです。
取り外すことが可能な矯正装置のため虫歯になりにくく、おでかけの場合には取り外すこともできます。
咬合誘導の目的
受け口や出っ歯などは不正咬合といわれ、歯のみならず骨格的な問題が要因となるケースも多く、将来的には顔つきにも影響がでる可能性があります。
咬合誘導治療では、あごの成長を促しながら治療をすすめ、骨格的な問題を改善することにより、あごや顔つきのバランスを整え、骨格のずれの原因となる要素を除き良好な成長発育を得ることが咬合誘導治療の目的です。
咬合誘導治療により、あごをきちんと成長させることができれば、永久歯のスペースが確保され正しく生えかわり、永久歯を並べる治療がいらなくなる場合もあります。
適応年齢
咬合誘導治療は、乳歯から永久歯に生え替わるような時期である5歳~12歳くらいが、治療開始に最適な時期といえます。
また、乳歯の場合でも受け口や出っ歯、骨格の成長に悪影響を及ぼす可能性がある場合は、4歳あたりから矯正治療を開始する場合もありますが、治療開始時期は症状などにより個人差があるため、歯科医師とよく相談した上で治療時期を決定してください。
主な装置
咬合誘導治療では、取り外しができない固定式の装置・取り外し可能な可撤式・口の中に取り付ける顎内装置・口の外に取り付ける顎外装置の4つに分類されます。
取り付ける装置は、日常生活に影響が出るほどではないのですが、取り付け後、数日は多少の違和感があるかもしれません。
しかし、多くのケースは1週間~10日ほどで慣れてくるため日常生活に支障はないです。この治療で使用する装置は、不正咬合の種類、年齢によってさまざまな装置を使い分けることになります。
咬合誘導と歯列矯正は異なる?
矯正治療とは、大きく分けると小児矯正と成人矯正の2つに分けられます。
小児矯正は、乳歯から永久歯への生えかわり期に行う咬合誘導治療であり、成人矯正とは、永久歯歯列に生えかわった後に行う歯列矯正治療のことです。
それでは、咬合誘導と歯列矯正の異なる部分はどこなのか、具体的にみていきます。
咬合誘導
咬合誘導は、歯並びやかみ合わせ・骨格の成長を正常な状態に誘導するという小児矯正治療です。
子どもの成長力を利用して、骨格のずれの改善やあごの正常な成長促進をはかるため、上下あごの骨の位置関係も正しく改善することができるのです。
乳歯から永久歯に生えかわるような時期は、子どもの成長期ということもあり矯正治療を始めるのに最適な時期といえます。
また、あごや歯列の発育を正常に導くため、大人になってから矯正が必要になった場合、抜歯などを回避する可能性が高まります。
治療が短期間で終わる上、歯周病などのリスクを減らすことも可能です。
歯列矯正
歯列矯正とは、永久歯に生えかわった成人が、歯並びや噛み合わせに不調を感じた際に行う矯正治療です。
骨格の問題で噛み合わせが悪い場合、子どもの成長力を利用しながら治療を行うことが可能です。
しかし、成人のケースでは骨格の成長が完了しているため、外科手術により骨格の矯正を行うことになります。
その後、マウスピースなどの器具を使い歯並び・噛み合わせ矯正治療という流れになります。
咬合誘導のメリット
不正咬合の改善は、成人してからでも矯正治療によって改善することが可能です。
乳歯から永久歯への生えかわり前後に咬合誘導治療を行うことにより、将来的にも多くのメリットが生まれるのです。
どのようなメリットがあるのかみていきます。
子どもの負担が少ない
いざ治療を子どもに受けさせようと思った時に気になることは、子どもが負担に感じるかどうかということです。
咬合誘導治療で使う装置は就寝時にのみ使う物もあるため、就寝時だけでいい装置の場合は、日常生活における負担が軽減します。使用する矯正装置は、不正咬合の状態によって変わることをあらかじめご理解下さい。
通院期間については、治療開始後は月1度の通院ですが、その後2ヶ月に1度程度の通院となります。
子どもだけではなく親御さんの通院に関する負担も軽くなります。
また、大人の受け口の場合は、外科手術が必要になるケースがあります。
子どものうちに受け口の治療ができていれば、外科手術を回避できる場合があるため、将来的なメリットも大きいのです。
治療期間が短い
咬合誘導は、生えかわりを待つ必要がなく乳歯からの生えかわりが終了した時点で治療が終了するため、成人してからの矯正治療より治療期間は短くなります。
比較的簡単な治療で終わるものであれば約3ヶ月、本格的な治療の場合は、1~3年で治療が完了します。
しかし、成人の治療期間より短いとはいえ、子どもでも1年以上の治療時間が必要なケースも多いのです。
1年という期間は、子どもにとってはとてもストレスを感じる期間でもあるため、家族全員で乗り越えるという意識が必要となります。
子どもの悪い歯並びを放置するリスク
もしあなたが、子どもの歯並びの悪さに気付いたとき、どのような行動を起こしますか?
歯並びが悪くなる原因は、遺伝的要素もありますが、柔らかいものばかり食べている、歯の裏側を舌で押すなどの癖がある場合も歯並びに影響を与えるのです。
また、指しゃぶりなどの癖も一部の歯だけが動く要因となり歯並びが悪くなる原因といわれています。
ここでは、歯並びの悪さを放置しておくとどのようなリスクがあるのかをみていきます。
虫歯になりやすい
歯並びが悪い場合、歯と歯の隙間ができるために磨き残しが多くなり、虫歯菌が繁殖しやすい環境を作ってしまいます。
また、隙間があるとその部分に食べ物がはさまることが増えるため、虫歯や歯周病の原因となってしまいます。
噛み合わせが悪くなる
歯並びが悪いと噛み合わせが悪く、前歯で噛みきれないケースや奥歯で噛みきれないなど、食事での不便を感じることがあります。
噛み合わせが悪いために、きちんと噛み砕いていない状態で飲み込むと消化に時間がかかり、胃や腸など内臓への負担がかかってしまうのです。
また、噛み合わせが悪いということは、上下の歯が正しくあたっていないということです。
この場合、うまく発音することができず会話がしにくい、言葉が聞き取りにくいなど日常生活に影響を与えることがあります。
身体の不調
歯並びが悪いと噛み合わせも悪くなり、通常とは異なる部分に力がかかることになります。
その場合、口周りの筋肉のバランスが崩れ、頭痛や肩こり、腰痛につながることもあり、身体に不調をきたす要因となるのです。
咬合誘導のタイミング
咬合誘導については、治療開始のタイミングは、子どもの症状によって、開始時期は異なるため1度歯科検診で歯科医に診てもらってください。
子どもの矯正治療は、第1期治療と第2期治療に分けられますから、ここでそれぞれ説明していきます。治療開始の目安にしてください。
第1期治療
第1期治療開始時期は、上下の中心に各2本、合計4本の歯(永久歯)が生えてきた頃が目安です。
また、不正咬合の状態によっては乳歯列の完成時期である3~5歳頃に治療を開始するケースもあります。
乳歯が生えそろう3~5歳から、乳歯から永久歯に生え変わるおよそ12歳までの時期に行なう治療が第1期治療期間です。
この期間中の治療では、ワイヤーなどの器具を使う歯の矯正は行なわず、子どもの成長力を利用して、骨格への働きかけによる上下あごの位置のバランスや大きさの調整などを行います。
第2期治療
第2期治療は、永久歯が生えそろう時期の12歳頃から行う本格的な治療です。治療方法は、大人の矯正治療と同じ方法となります。
永久歯の位置がずれている場合は、マウスピースなどの矯正器具を使い正しい位置に整えていきます。
第1期治療を行っていない場合でも第2期治療から始めることが可能ですが、あごの骨格が著しくずれている場合は、外科手術による骨格の調整の後に、矯正を行うことになります。
咬合誘導でも歯並びが悪くなったら?
咬合誘導の治療後は、歯に安定感がなく動きやすい状態のため、保定装置を使い安定させます。
保定装置を外してしまうと後戻りし、治療のやり直しとなることがありますから注意が必要です。
また、親知らずが生えてくる、歯を舌で押すなどの癖により歯並びに乱れが生じることがあります。
その場合は、治療内容の変更や悪い癖を矯正するためのトレーニングなどを行うこととなります。
咬合誘導の不安は、信頼できる歯科医に相談
咬合誘導は、子どもの症状によっては、治療期間が2年、3年と長くなることがある矯正治療です。
早期治療が良いといいますが、早ければ良いというわけではなく個々の骨格の状態や症状によって治療開始期間が変わります。
子どもの年齢や不正咬合の状態によって使用する装置が異なり、治療や経過観察期間も異なります。
乳歯から永久歯に生えかわるまでが治療期間となるため、あなたの信頼できる歯科医に診てもらいましょう。
まとめ
今回は、咬合誘導について説明をしてきました。
成人してからの矯正治療ではなく、子どものうちから咬合誘導すると、成人してから矯正治療を行う場合でも、歯を抜くことや外科手術を回避できる可能性もあるなどメリットがあります。
子どもの症状によって、治療期間が長期にわたることがありますが、子どもだけではなく家族全員で治療に向かうことが必要です
咬み合わせや歯並びの悪さが出てくる前に、3歳になってから1度歯科医に診せることをおすすめします。