【監修:青山健一】
目 次
アンキローシスとは、強直や癒着するという意味があります。歯科医療用語のアンキローシスは、歯と顎の骨の組織が癒着している状態です。
主に、関節の癒着の症状を表現するときに用いられる言葉です。
歯を治すには歯科、骨を治すには整形外科へいきますが、矯正歯科は歯と骨の両方に関係するためどちらも精通しています。
アンキローシスと矯正治療の関係や矯正中にアンキローシスが見つかった場合などを解説していきます。
歯列矯正に影響するアンキローシスとは?
矯正治療でアンキローシスの患者さんは稀なケースです。歯列矯正を始められる方の中には、アンキローシスという言葉を知らない方もいます。
これから歯列矯正を始めようと考えている方は、アンキローシスの事例や対処を覚えておきましょう。そして、対処が可能な矯正歯科を選ぶべきです。
歯根膜がない
アンキローシスは、なんらかの理由で歯の根の部分と顎の骨が結合してしまう状況です。
歯が筋肉で隠れている部分には歯根膜(しこんまく)と呼ばれる膜があり、歯肉と歯の間で摩擦を防ぎます。
また、他にも歯にかかる衝撃をやわらげるクッションの役割もしています。ちょうど歯槽骨と歯の間に挟まれた存在です。
この歯根膜は歯肉の一部で、とても薄くデリケートな組織が集まっている箇所に筋肉が変化してできています。歯根膜は乳歯にも永久歯にも存在します。
歯根膜がない人は、体の中の細胞が上手く作れなかったり、内分泌の異常がある人です。
歯根膜がないと、歯根と歯槽骨がぶつかりあい、ちょっとした刺激も激痛に感じる事があります。また歯根と歯槽骨が癒着するアンキローシスの原因にもなりかねません。
膜や筋肉を修復するためには、人工的に組織を再生させる治療が必要です。この治療は歯科医院で行うことが可能です。
歯と歯槽骨の癒着
歯槽骨とは、顎の骨で最も歯に近い骨の部分です。顎の骨は歯がぐらつかないようにくぼみのような穴が開いてしっかりと歯をささえています。
歯根膜があっても歯根が膜を突き抜けてしまうと、歯槽骨と癒着する可能性はゼロではありません。
顎の骨がきちんと形成された後、石灰成分が固まって歯が生えてきますが一つだけ奥に引っ込んでいたり、歯肉に埋まっているような歯は注意しましょう。
すでに歯槽骨と歯が癒着している場合は、矯正しても歯が動きません。医学用語では骨性癒着といいます。
アンキローシスの原因
アンキローシスが起こる原因として考えられるのは、主に下記の理由です。いずれも後天的な理由ですが、実は具体的な理由までは解明できていません。
そのため、対処療法を中心に治療が行われますが予防することができないため、いかに対処するかは患者さんの状況と歯科医の技術によって異なります。
下記を読めば、いかに私達の歯がデリケートで精密にできているかがわかるはずです。
噛むという行為は、歯、歯肉や神経、歯根膜などどれか一つでも不具合があったら機能できないようになっています。
外傷
歯と筋肉や骨は微妙なバランスをとって私達の身体を支えています。外傷があった場合に最も重要な部分を守る機能、これが防衛本能です。
防衛本能では、守りたい所に血液や神経を集中させる代わりに通常機能している所を制御します。すると、制御された組織はダメージを受けますが致命傷にはなりません。
実はこの防衛本能の影響で首や頭に衝撃が加わった場合、後から歯に症状が出始めます。
例えば車がぶつかったとき、首や腰と同じ様に歯にも圧力がかかり、その影響で歯の位置がずれたり炎症を起こすという事です。
外見は変わらなくても、組織は弱くなり炎症を起こしやすくなったりします。歯根が歯根膜を突き抜けて歯槽骨にぶつかってしまっているかもしれません。
断定できないのは、すぐその場ではわからないからです。アンキローシスは全く痛みを伴わない事もあります。見た目も変わりません。しかしセメントに水が染み込んでゆっくりと崩れていくように変化します。
歯根嚢胞
歯根とは、歯の一番底の部分で普段は筋肉で埋まっている部分です。歯根の周りの筋肉を歯肉といいます。
歯肉は、余計な圧力がかかると緊張して弱ってしまうため細菌感染しやすいです。すると、ばい菌が集まりやすくなり一つの袋のようなスペースが生まれます。
この袋のようなスペースが嚢胞(のうほう)です。そして、歯根にできた袋を歯根嚢胞(しこんのうほう)といいます。
歯根嚢胞は、歯にできた膿の袋だと思ってください。免疫が下がればこの嚢胞の中の膿が悪化して組織を融解していきます。
この膿があるため、歯根は溶けて歯槽骨と癒着するわけです。その期間は数年かかるともいわれています。
原因不明
アンキローシスの原因が不明という事は、あまり珍しい事ではありません。
痛みや腫れを伴えば解りやすいですが、アンキローシスは癒着だけで痛みも腫れもない場合が多いです。
本来、歯は自然に生えて乳歯から永久歯に生え変わりますが、そのタイミングでアンキローシスの調査をしても、無意味になります。なぜならいつどんな状態で発生するかがまだはっきりと解っていないからです。
傾向としては、歯根が長い犬歯や奥歯がなりやすいといわれています。しかし、それも絶対ではありません。
外傷がなくても、歯骨嚢胞がなくてもアンキローシスになる可能性はあります。
痛みがなく問題がないようならアンキローシスはそのままにしておきますが、矯正治療を行う場合は対処が必要です。
アンキローシスの影響は?
アンキローシスによって起こる最大の問題は、歯が動かないことです。
普通なら歯が動くことはあまりないですが、成長とともに顎や歯は拡大していきます。この拡大についていけない歯になってしまいます。
そのため、歯並びが不ぞろいだったり、重なって生えてしまうことが多いです。
歯列矯正で歯が動かない
歯列矯正中に歯が動かず何日も同じ位置にある場合、それはアンキローシスかもしれません。
本数も1本だけのときもあれば、奥の歯4本が全て癒着している、などもあります。
アンキローシスは歯槽骨と歯根が癒着しているため普段は何ともない歯にみえますが、矯正しても歯が移動しません。
不正咬合の原因になる
アンキローシスはその性質上不正咬合の原因になる可能性があります。
なぜならアンキローシスになった歯は歯槽骨と癒着しているため、顎骨や歯肉の成長に伴った歯列移動ができないからです。
本来は顎骨の成長に合わせて歯列も移動しますが、アンキローシスの歯は移動できず他の歯の高さと異なって萌出します。
そのため高さが不揃いになり、周りの歯にも影響を及ぼすかもしれません。
アンキローシスは事前にわかる?
アンキローシスがいかに矯正治療にダメージをもたらすか、理解できたと思います。
できれば、矯正治療を始める前に見つけられたら安心ですが、殆どの場合で、矯正前にアンキローシスを見つけられず、矯正中に見つかることが一般的です。
自覚症状がない
アンキローシスは際立った自覚症状がなく、必ず痛みを伴うわけでもありません。気づかない間に検査をしたら起こっていたケースもあります。
アンキローシスは歯列矯正で障害になる?
アンキローシスは歯列矯正で障害になります。そのためアンキローシスが見つかると、矯正計画を修正し、治療をします。
アンキローシスで歯が動かないときの治療法
万が一、矯正治療中にアンキローシスが発見されても不安になることはありません。治療方法もありますし、矯正治療がそれによって中断されるリスクは低いです。
アンキローシスは、歯槽骨との癒着が原因のため外科的処置が必要です。ほとんどの治療を口腔外科か又は口腔外科処置ができる歯科で行います。
治療方法としては、不完全な脱臼状態を歯に起こし、接合部分を動かす治療です。抜歯ではなく、癒着している部分を脱臼させます。
他にも、アンキローシスの歯冠にかぶせ物をして咬合全体のバランスを整えていく方法です。歯の移動がどうしても必要な場合は、抜歯後必要な部分にインプラントを施すという方法もあります。
不安を解消して矯正治療を受けるなら
せっかく歯並びをきれいにしたいのに、歯が動かないと知るとがっかりするかもしれません。
しかしアンキローシスは外観からの判断が難しいため、矯正中に気づくことが大半です。
まとめ
アンキローシスの特徴や、対処法について説明しました。矯正治療は、技術の改良によって昔に比べると非常に増えています。
それによって、アンキローシスのような矯正計画が変更になる事例も増えてきていますが、矯正治療が延びる事はあっても中断はしません。
できれば矯正治療は歯や筋肉が動く10代から20代が理想です。矯正治療は後回しにせず、思いたったら早い方がよいにこしたことはありません。
アンキローシスの悩みが解消されて、皆さんの矯正治療の成功を祈っています。