【監修:青山健一】
目 次
歯並びが極端に悪いことで矯正治療を諦めたことはありませんか?そんな方に朗報です。1990年台後半に矯正用アンカースクリューを用いた治療法が開発されました。
この治療法によって、これまで難しいとされていた症例でも治療が可能になりました。
金属製の小さなネジを歯茎に埋め込むため恐怖心もあります。この治療をできるだけ多くの方が受けて、思いっきり口を開けた笑顔を見せて欲しいです。
この記事では、矯正用アンカースクリューの治療法やメリット・デメリットを分かりやすく解説します。
アンカースクリューを使った歯科矯正(インプラント矯正)の特徴
インプラント矯正は、アンカースクリューという金属製ネジを歯茎に埋め込んで行う治療法です。
このアンカースクリューを固定源にして、矯正したい歯を希望する方向に引っ張ります。固定源が安定しているため、これまで難しいとされていた歯並びにも対応できる治療法です。
アンカースクリューを使ったインプラント矯正は、これまでの矯正方法に比べて歯の移動量を大きくできます。その結果これまでより治療期間が短くなり患者さんの負担も軽くなります。
アンカースクリューを用いるメリット
アンカースクリューを用いる最も大きなメリットは、これまで諦めていた症例でも治療が可能になったことです。
歯茎の歯槽骨の部分に埋め込むアンカースクリューは強固な安定源です。これにより上下左右いろいろな方向に歯を移動できるようになりました。
また、丈夫な歯を抜いたりヘッドギアなど大がかりな矯正装置をつける必要なくなり、患者さんの負担を軽くできます。
アンカースクリューを用いる矯正治療のメリットをご紹介しましょう。
通常の矯正治療が困難な症例に対応できる
インプラント矯正はアンカースクリューを歯茎に埋め込み、それを固定源にして治療対象の歯を引っ張るように力を加えます。
そのため、複雑に乱れた歯列でも一本一本に上下左右の思った方向に力を加えることが可能です。
通常の矯正治療では難しかった上下方向へも力を加えられるため、ガミースマイルなどこれまで難しかった症例にも対応が可能です。
また、アンカースクリューを固定源にして治療する歯にテンションをかけるため、周囲の歯に影響することなく動かしたい歯だけをピンポイントに動かせます。
抜歯をせずに治療できる
これまでは前歯を後方に移動させるような症例の場合、矯正装置を装着するために一部の歯を抜かざるを得ませんでした。
他の歯の治療のために丈夫な歯を抜くことは、患者さんにとっては体力的にも精神的にも負担です。
そのような症例でも、アンカースクリューを用いるインプラント矯正では抜歯をせずに治療をすることができます。
歯を大きく動かせる
一般的に行われるブラケット矯正ではワイヤーの反発力で歯を移動させますが、インプラント矯正治療ではアンカースクリューを固定源にして治療対象の歯を引っ張ります。
アンカースクリューは歯茎に埋め込んでいるため安定して強固です。そのため強いテンションをかけて歯の移動量を大きくできます。
重度の出っ歯のように前歯を大きく後方に移動させるような治療で効果を発揮します。
ヘッドギアの装着が不要になる
出っ歯の矯正治療のように前歯を後方移動させる場合に、通常の治療方法では引っ張るための固定源になる物がないため、口腔外に装着したヘッドギアを固定源にします。
ヘッドギアは、子どもの場合は装着時間を確保しやいですが、大人の場合には仕事があり時間的にも外見的にも装着は難しいです。
そのような症例でもインプラント矯正治療では、口の中に固定源を確保できるためヘッドギアを使用しなくても矯正治療が可能になります。
ヘッドギアの装着が不要になることは、外見的なことによる精神的な負担が軽くなります。とくに子供には歓迎される治療法です。
外科的矯正治療を回避できる
極度に歯並びの悪い場合やガミースマイル、重度の出っ歯などは通常のブラケット矯正やマウスピース矯正では困難な治療です。
これらの症例では外科的な手術で矯正をせざるを得ません。ガミースマイルのように圧下が必要な諸例では、これまで外科的な矯正治療を行っていました。
アンカースクリューを用いた治療では、これらの外科的な矯正治療をしていた症例でも手術をしないで治療ができるようになります。
アンカースクリューが必要な症例
矯正治療を必要とする症例の中でも、通常の矯正治療ではなくアンカースクリューが必要な症例がいくつかあります。
これまでの治療法では難しかったガミースマイルや重度の出っ歯にも適用できる治療法です。アンカースクリューが必要な症例をご紹介します。
ガミースマイル
アンカースクリューを使った治療法では、これまで難しかったガミースマイルの治療ができるようになりました。
通常の矯正治療では前歯全体を上方に引き上げる「圧下」という動かし方はできず、治療するには外科手術が必要でした。
インプラント矯正では、アンカースクリューを固定源にして安定した力を顎の上方向に加えます。それにより、これまでできなかった圧下という技術が使用できるようになります。
重度の出っ歯
出っ歯を矯正する場合、従来の治療法では奥歯を固定源にして前歯を奥の方向に引っ張っていました。
重度の出っ歯の場合は、長い期間引っ張る力がかかる奥歯は固定源としての役割に耐え切れず、ぐらついたり前の方向に動いてしまいます。
奥歯が固定源としての役割を果たせなくなるため、動かしたい前歯の移動量が少なくなり十分な治療効果が得られませんでした。
重度の出っ歯の治療でもアンカースクリューを用いることで、固定源が安定するようになりました。前歯の移動量が大きくできることで、インプラント矯正治療によって重度の出っ歯でも治療が可能になります。
奥歯を後方に移動する必要がある
アンカースクリューを用いるインプラント矯正では、通常の矯正治療では難しかった奥歯を後方に移動する治療が可能になります。
歯を後方に移動する治療では、奥歯を固定源にして引っ張る方法をとりますが、奥歯を後方に移動するのは固定源がないため難しいこれまでの技術では難しい治療でした。
インプラント矯正治療は、アンカースクリューを奥歯のさらに奥の歯茎に埋め込むことができるため、奥歯を後方に移動することを可能にした治療法です。
インプラント矯正でのアンカースクリューを埋入する流れ
インプラント矯正では次の手順でアンカースクリューを埋入します。不安に思うこともありますが、痛みはないため安心して施術を受けてください。
1.レントゲン撮影
レントゲン撮影で、アンカースクリューを埋め込む場所や方向を決めます。
2、口の中のクリーニングと消毒
口の中の歯垢や汚れを落とします。細かい部分までクリーニングするために染め出しも必要な処置方法です。クリーニング後は消毒薬を使用して消毒します。
3、ガイドの装着確認
フィッティングは前もって作っていたガイドを実際の歯に合わせて装着状態の確認です。
4、麻酔
従来の麻酔は歯槽骨まで注射針を差し込んでいたため痛みを感じることもありましたが、今では電動注射器で少しずつ麻酔液を入れます。注射の前に表面麻酔を塗るためほとんど痛みは感じません。
5、植立
ガイドに合わせて、アンカースクリューを埋め込みます。穴をあけてネジを差し込む方法はなく、ドライバーでネジを回しながら入れていきます。骨が押される感じはありますがほとんど痛みは感じません。
6、薬の処方と説明
痛み止め・化膿止め・消毒薬が処方され、注意事項などが説明されます。痛み止めは痛みがなければ服用はしなくて良いですが、化膿止め・消毒薬は必ず使用しましょう。所要時間は約1時間程度で、植立したアンカースクリューは1ヶ月程度で安定します。
アンカースクリューのデメリット
これまでの技術では治療が難しかった症例でも対応できるインプラント矯正ですが、デメリットも少なくはありません。
新しい治療法のため情報が少ないこともそのひとつです。歯茎にネジが埋め込まれた写真を見せられると、痛そう・なんだか怖いという恐怖心だけが広がっていきます。
アンカースクリューを用いた矯正治療を検討しているなら、知っておくべきアンカースクリューのデメリットをご紹介しましょう。
歯茎にネジを埋め込むことへの不安
インプラント矯正は、歯茎にネジを埋め込むというイメージから、治療に踏み切ることに不安を感じることが多いです。
治療を行う前には、治療法について医師から説明があります。ネジが歯茎に刺さっている写真を見せられることもあるため、不安が一層増していきます。
痛いかもしれないと不安になりますが、治療中は麻酔もかけるためほとんど痛みを感じることはありません。安心して治療を受けてください。
動揺や脱落のリスク
植立したアンカースクリューは一度埋め込んだらずっとそのまま治療を続けられることではなく、動揺や脱落のリスクがあります。
アンカースクリューは治療が終わると抜かなければならないため、骨との結合はしないようになっています。そのことが動揺や脱落の主な原因です。
しっかりとした施術が行われても、ぐらついたり抜け落ちらりして再植立しなければならないリスクがあります。
再植立をしても安定しない場合は、別の場所に植立するかアンカースクリューを使用しない治療法を選択しなければなりません。
アンカースクリューの注意点
今まで対応が難しかった矯正治療がアンカースクリューを用いることで可能になるなど、患者さんにとって多くのメリットがありますが矯正治療中には注意すべきこともあります。
アンカースクリューを植立したあとの養生を怠ると、折角の治療が台無しになりかねません。アンカースクリューを使用した矯正方法の注意点をご紹介するからぜひ守ってください。
口腔内を清潔にしておく
アンカースクリューを埋め込むことで会話や食事など生活に制限はありませんが、いつも以上に口の中を清潔にしておく必要があります。
スクリューを埋め込んだ場所が不衛生になると感染症を起こすため注意が必要です。埋入部位に炎症を起こすと、アンカースクリューの動揺や脱落の原因になります。
動揺や脱落があれば受診する
アンカースクリューが脱落するときは、ある日突然抜け落ちるわけではありません。脱落するまでにはぐらつきがあるなど少しずつ変化がみられます。
抜け落ちてからは再植立など最初から治療をやり直しになります。最悪の場合はアンカースクリューによる治療を諦めることにもなりかねません。
ぐらつきなど少しでも異変を感じたらすぐに歯科医を受診しましょう。対処が早ければ治療の後戻りなど治療への影響を少なくできます。
アンカースクリューを使う矯正治療は専門医に相談
インプラント矯正のメリットを知ると、通常の矯正治療では難しいと言われて治療を諦めていた方は、インプラント矯正治療を受けようと希望を持つことも少なくありません。
確かに、アンカースクリューを使う矯正治療は多くのメリットがあり難しいとされてきた症例も治療ができるようになりました。
しかし、アンカースクリューの植立には高度な技術を必要とします。矯正治療中の経過観察も必要です。アンカースクリューを使う矯正治療を受けたい場合は、まず専門医に相談しましょう。
まとめ
新しい治療法ですが、安心して治療を受けていただくために治療法やメリット・デメリットを解説しました。治療に対する抵抗感はなくなりましたか?
デメリットもありますが、これまで難しかった症例が可能になること、患者さんの身体的精神的負担が軽くなること、治療期間が短くなること、など多くのメリットがあります。
これまで矯正治療を諦めていた方はチャレンジしましょう。まずは勇気を出して専門歯科医を訪ねてください。