【監修:青山健一】
目 次
みなさんは「セファロ分析」というものをご存知でしょうか?普段用いられない歯科領域における専門用語なため、耳慣れない方も多いかもしれません。
しかし、このセファロ分析は歯科、特に矯正分野においてとても重要な役割を果たしています。
今回はこのセファロ分析がどんなものかという基本的な内容から、メリット・デメリット、そして具体的にどのような場面で用いられるのかに至るまで詳しく解説します。
セファロ分析の特徴
「セファロ分析」とは側頭部のX線規格写真を用いて診断や治療方針を決める検査方法の1つです。
側頭部のX線写真のことを専門的に「セファロ写真」と呼ぶため、その写真を使う分析というところからセファロ分析と呼ばれています。
矯正領域において、治療を開始する前の状態を確認するデータとしてセファロ分析は重要な役割を担っています。
X線写真は簡単かつスピーディーに、骨格を確認できる有用な方法です。
セファロ分析の目的
セファロ分析は主に歯科矯正において用いられる分析方法で、骨格の状態を把握したり、形に異常がないか調べたりするときに用います。
視診や触診で判断できる場合もありますが、歯茎や顎の状態は歯とは異なり目視での確認が困難です。
そのため、最終的な状態の判断にはセファロ写真のようなデータが必要になるのです。
特に出っ歯や受け口のような歯だけでなく、顎などの骨格にも原因が考えられる場合の確認に利用されます。
セファロ写真は全世界で用いられる規格の1つのため、これまでの信頼できる蓄積されたデータが大量に存在します。
これらのデータをもとに年齢や人種に合わせた平均的な骨格の大きさやバランスなどを導き出すことが可能です。
このデータをもとに治療方針を検討したり、将来的な矯正後の形を想定したりします。
矯正前に行う検査の1つ
矯正治療を行う前にはさまざまな検査を行います。セファロ分析もその中の1つです。
現状どこに問題があるからどのような治療を行う必要があるのかという判断は、視診や触診だけでは補いきれません。
そこで口の中の確認以外にも顔の写真撮影やX線撮影、歯型取りなど綿密な検査を行います。
これらを総合して治療方針を想定し、患者さんとの希望の兼ね合いも考えながら最終的に決定します。
セファロ分析の必要性
矯正治療を行う上でセファロ分析を行う目的は、一言でいうと治療の「検討」と「評価」です。
上記でも述べたように、セファロ分析を行うことで現在の状況を目視だけでなく見えない部分までX線レベルで確認し、より綿密な治療方針が検討可能になります。
さらにセファロ分析は治療開始前の検査だけでなく、治療中あるいは治療終盤にも使用されることがあります。
この段階でセファロ分析を使う理由は、どこまで矯正治療が進んでいるかという評価を行うためです。
単純に治療前と治療後のセファロ写真を比較することで、どの程度矯正ができたかを評価できます。
さらにセファロ分析は世界的に用いられている方法なため、多くの膨大なデータから年齢や性別、人種に合わせて平均値を導きだせます。
その平均値と現在のセファロ画像を比較し、歯の並び具合や子どもであれば骨格の成長度合いなども確認することが可能です。
歯列矯正で行うセファロ分析で分かること
セファロ写真は顔の側面から撮影したX線写真です。すなわち、頭部から頸部にかけての骨の状態を確認できます。
歯列矯正の分野において用いるのは主に口まわりや顎部分の画像になりますが、整形外科や形成外科では横顔の状態や頭蓋骨、頸椎部分を確認するために使うこともあります。
セファロ分析を行うことでより具体的な原因を探ることが可能です。
例えば出っ歯の症状にも原因はさまざまで、前歯そのものが前に突出している以外にも、上顎が大きいことや逆に下顎が小さすぎることが原因の場合もあります。
前歯の突出は口腔内の視診でも確認しやすいですが、顎の骨格は筋肉や脂肪に覆われているため、詳細な確認が難しいです。
このような視診では的確に判断できないような部分がセファロ分析を用いるとわかるようになります。
セファロ分析の方法
セファロ分析にはTweed法・Downs法・Northwestern法といった分析方法があります。
いずれも分析方法の1つですが、これらはそれぞれ基準とする場所や、用いる測定部分が異なります。
Tweed法
Tweed法はフランクフルト平面・下顎中切歯歯軸(かがくちゅうせっししじく)・下顎下縁平面(かがくかえんへいめん)の3つを基準にします。
これらの線をもとに作られる三角形を描き、その三角形の内角をデータとして分析していきます。
フランクフルト面とは左右どちらかの目の下のくぼみと両方の外耳道上に線を結んでできる平面です。
また下顎中切歯歯軸とは1番前の下の歯を基準にした軸のことで、下顎下縁平面は下顎からエラあたりを結んだ線になります。
Downs法
Downs法はセファロ分析の中で最初に発表された分析法で、フランクフルト面を基準に分析する方法です。
この方法を用いることで骨格や歯の評価を行います。
Northwestern法
骨格や歯の評価を行う分析の1つで、SN平面を基準に分析する方法です。
SN平面とはトルコ鞍と呼ばれる脳部位をS点、ナジオンと呼ばれる鼻骨縫合部の最も高い位置をN点として両点を結んだ平面をいいます。
セファロ分析のメリット
セファロ分析は側頭部のX線撮影を行うだけで、さまざまな情報を得られることが最大のメリットといえます。
セファロ分析は世界規格の情報なため、過去のデータをもとに比較・検討を行うことが容易です。
また血液検査のような侵襲性のある検査でもないため、お子さんでも怖がらずに受けやすい検査といえます。
さらにX線撮影自体はほんの数秒で終わり、膨大なデータベースを基にした解析ソフトもあるため、検査結果を出力するスピードがとても早いです。
セファロ分析のデメリット
人の生体は骨・筋肉・軟骨・脂肪・皮膚といったさまざまな組織が幾重にも集まって構成されています。
そのため、X線撮影ではそれらの組織が重なって不明瞭な画像になってしまうことがあります。
X線撮影は特に骨や軟骨といった素材が硬いものを撮影するのに適した方法ですが、いろんな形の組織が重なることで骨格が見にくくなる可能性があるのです。
それらの欠点を解消したMRIといった高性能な撮影機器も存在しますが、検査費用が高く施設の管理や設置が困難なため、歯列矯正分野では取り扱いが難しいです。
またセファロ分析はX線写真を用いるという点から、被曝に対する懸念を抱く方がいます。
しかし今日の検査はデジタル化が進んでいるため、以前と比較して極微量なX線量で撮影ができます。
一般的な数枚のレントゲン撮影では身体に悪影響がでることはないため、ご安心ください。
セファロ分析で提示される資料
セファロ分析の分析方法がおわかりいただけたところで、その分析から得られる資料(データ)にはどのようなものがあるかをご説明していきます。
資料には複数の種類があり、それらの資料からそれぞれ得られる情報は変わってきます。
ポリゴン表
ポリゴン表は上記でお伝えした分析方法で得られた情報を総合的にまとめた表のことです。
分析して得られた数値や平均値から歯並びや骨格がどの程度ズレているかの程度を示すグラフが表示されています。
ポリゴン表はセファロ分析の中で最も土台となる基礎情報が読み取れる資料といえます。
CDS分析
CDSは日本語で平均顔面頭蓋図形と呼ばれ、人の平均的な横顔および骨格の形を模した図のことをいいます。
この絵と撮影したセファロ画像を重ねて、どれだけズレているかを図として確認できます。
ポリゴン表は数値やグラフで平均からのズレを評価していましたが、CDS分析は図での分析になるため、専門家でなくてもそのズレの程度を感覚的に認識することが可能です。
プロフィログラム
プロフィログラムはセファロ画像の分析に必要な点を結んで描かれる多角形の図です。
平均とのズレを図解できるという点はCDS分析と似ていますが、プロフィログラムは骨格の「点」を結びます。
そのためCDS分析よりおおまかな形状の分析になるとともに、あくまで骨格レベルでの解析となります。
軟組織の変化シミュレーション
セファロ分析では唇のような軟組織の変化に対するシミュレーションも可能です。歯並びが変化すると口元も変化する場合が多くあります。
例えば出っ歯や受け口の方は唇が閉じにくく、口ゴボといわれるような状態になりやすいです。
しかしこのような症状は矯正治療で改善が見込めます。この症状の改善をセファロ分析を用いることでシミュレーションできるのです。
矯正の検査で気になることは歯科医に相談
矯正治療ではさまざまな検査を行いますが、それらは全て自己負担で検査費用が掛かってきます。
矯正治療は基本的に保険が適応されないため、自己負担となるとかなりの費用が必要になります。治療だけでなく、検査にまでお金が掛かるとなると懐が痛いと感じる方も多いです。
しかしこれらの検査は全て必要な項目であり、無駄な検査はしていません。もし、検査費用について不安がある方は予め歯科医に相談しておきましょう。
この検査はどうして行うのか、その目的を知りたい場合も遠慮なく歯科医に質問してください。
また閉鎖恐怖症や嘔吐反射が強い体質など、検査に対して気になる部分がある方も遠慮せずに予め伝えましょう。
まとめ
今回は歯列矯正で行われる検査の1つ「セファロ分析」についてご紹介してきました。少し専門的な内容が多く、把握するのが大変な方もいるかもしれません。
しかし実際にセファロ分析の結果を見るときには、専門家が丁寧に説明してくれるため、そこまで身構える必要はないです。
今回の記事の内容を頭の片隅に少し置いていただく程度で構いません。説明を受ける際に全く知らないよりも、1度でも耳にしておくと理解度が各段に変わります。
実際にご自身やお子さんのセファロ分析結果を見たときに、情報を受け入れやすくなります。
何かのタイミングで「あっこの単語、記事で読んだな!」と思い出していただけると幸いです。