【監修:青山健一】
目 次
歯列矯正の方法として、部分矯正という選択肢があります。
気になるところを矯正する部分矯正に興味を持っている方もいらっしゃるでしょう。
しかし、どのような治療法にも適応・不適応があるように、部分矯正ができない例があります。
今回は、部分矯正ができない例と対処法について詳しくご紹介します。
部分矯正がおすすめな歯並びについてもあわせて解説しますので、ぜひ参考にしてください。
部分矯正の仕組み
部分矯正ができない例をご紹介する前に、まずは部分矯正とはどのようなものか解説します。
歯列矯正は大きく分けて2種類あり、それが全体矯正と部分矯正です。
「矯正」といえば、以前は全体矯正が一般的でした。全体矯正とは、その名の通り口腔内の歯を全体的に矯正することです。
一方、部分矯正では気になる部分のみ矯正装置を装着して歯列を整えます。
見た目にも分かりやすい前歯に対して部分矯正を行うことが多く、整列させたい歯とその横の歯に装置をつけます。
一般的に行うことが多いのは、ブラケットという装置をつけてワイヤーを通す方法です。
ワイヤーの他に、インビザラインというマウスピース型の矯正装置もあります。
持続的に同じ方向に力が加わることで、歯を支える骨を溶かし、歯が動きやすい状態にします。
骨を溶かすというと不安に思う患者様もいますが、矯正治療が終了して力を加えないようになれば骨はまた固定されるのでご安心ください。
部分矯正の特徴
全体矯正とは異なる特徴があることから、部分矯正を検討する患者様も増えています。
ここでは、部分矯正の特徴を2つご紹介します。
全体矯正よりも安く短期間でできる
部分矯正には、全体矯正よりも安く短時間でできるという特徴があります。
歯の状態や治療部分(上下あるいはどちらかなど)、使用する矯正装置によって差はありますが、治療費と期間の目安はこちらです。
〈全体矯正〉
- 治療費:100万円~
- 治療期間:1~4年
〈部分矯正〉
- 治療費:20万円台~
- 治療期間:数か月~1年
そもそも部分矯正と全体矯正では動かす歯の本数が異なるので、治療費も期間にも差があります。
また、全体矯正では動かしにくい奥歯から矯正していくため、治療期間がかかるのは仕方ありません。
しかし、一般的に部分矯正では前歯部の矯正を行うことが多く、奥歯よりも動かしやすいのが特徴です。
治療に使う矯正装置も部分的で治療期間も短いことから、その分費用を抑えることができます。
このことは部分矯正の特徴であり、患者様にとって大きなメリットとなるでしょう。
比較的痛みが少ない
比較的痛みが少ないことも、部分矯正の特徴の1つです。
こちらも全体矯正との比較になりますが、動かす歯が少ないほど痛みが生じる可能性が低くなるからです。
全く痛みがないとは限りませんが、少ない痛みで済めば治療中のストレスを軽減することができるのではないでしょうか。
部分矯正ができない例
できるだけ安く短期間で済ませたい患者様にとって、部分矯正はメリットが多いといえるでしょう。
しかし、部分矯正ができない症例があることに注意が必要です。
ここでは、部分矯正ができない例を3つ解説していきます。
凸凹が激しい場合
矯正したい前歯部の凹凸が激しい場合、部分矯正ができないと判断することがあります。
全体矯正では奥歯から動かしていきますが、部分矯正で動かす歯は部分的です。
しかし、前歯部の凹凸をキレイに整列させるためには、それだけのスペースが必要になります。
つまり、出ている歯やズレている歯を整列させるスペースを確保しなければならないということです。
そうはいっても、奥歯を動かさない部分矯正ではスペースの確保が困難になることも少なくありません。
その場合は必要に応じて前歯を削りスペースを作りますが、それも困難な程の凹凸では部分矯正はできないのです。
部分矯正で歯を削る場合、エナメル質という部分を削るので麻酔の必要はなく痛みもありません。
歯を削って矯正できるのか、あるいは全体矯正にすべきなのかは医師の診断になるためまずは相談してください。
前歯や八重歯のスペースが足りない場合
部分矯正ができない例として、前歯や八重歯のスペースが足りない場合があります。
八重歯とは、歯が歯列から外れて他の歯と重なっている状態のことです。
犬歯に起こることが多い八重歯ですが、コンプレックスとして気にする方も少なくありません。
また、八重歯は歯が重なっていることから虫歯や歯周病のリスクが高まります。
見た目やリスクの観点から、八重歯の部分矯正を検討する患者様もいます。
しかし、八重歯を含め前歯部の状態によっては部分矯正ができない例があるのです。
先ほど凹凸が激しい場合のところでお伝えしたように、部分矯正には歯列を整えるためのスペースが必要です。
八重歯は他の歯と重なっていることから、スペースの確保ができるかどうかがポイントといえます。
そのため、前歯や八重歯の状態によってスペースの確保が困難の場合、部分矯正ができないのです。
噛み合わせに問題がある場合
噛み合わせに問題がある場合も、部分矯正という選択ではない方が良いでしょう。
それは、部分矯正では噛み合わせの改善はできないというデメリットがあるからです。
歯並びの悩みだけでなく噛み合わせに問題がある症例では、部分矯正が適しているとはいえません。
部分矯正ができない場合の対処法
部分矯正ができない例をご紹介しましたが、できないからといって治療法がない訳ではありません。
ここでは、部分矯正ができない場合に選択肢として検討する対処法を2つ解説します。
全体矯正を行う
部分矯正ができない例でも、全体矯正ならできるパターンは少なくありません。
前歯部の歯列を整えるためのスペースが足りない場合、奥歯を動かすことで必要なスペースを確保できる可能性があるからです。
また、噛み合わせに問題があるのであれば、全体矯正によって噛み合わせや歯並びの改善が期待できます。
手術で治す
歯並びや噛み合わせの悩みは、実は顎にズレが生じているのが原因ということもあります。
歯は上下の顎に収まっていますが、その顎自体がズレているということです。
顎のズレは全体矯正でも改善できないため、手術によって治すことになります。
手術によって顎のズレが治れば、歯科矯正をせずに噛み合わせの改善が期待できます。
ただし、単に部分矯正ができないから手術という選択を取るのではなく、「顎変形症」などの医師の診断が必要です。
全体矯正のメリット
部分矯正ができない例では全体矯正を検討することが多いです。
しかし、部分矯正を希望していた患者様にとって、全体矯正という選択肢はなかなか受け入れられないかもしれません。
そこで、ここでは全体矯正のメリットをご紹介します。
全体のバランスを調整できる
全体矯正のメリットとして、全体のバランスを調整できることがあげられます。
部分矯正は気になるところの矯正ですが、全体矯正は口の中にあるすべての歯を対象とするからです。
奥歯は見た目には分かりにくいかもしれませんが、奥歯の歯並びは前歯部にも影響を及ぼします。
前歯よりも奥歯の方がしっかりと根付いているため、矯正治療の際は痛みが出るリスクが高いです。
しかし、それによって前歯部の歯列を整えるためのスペースを確保することもできます。
部分矯正はスペース確保のために歯を削る場合がありますが、全体のバランスを調整することで、削らずに矯正できる可能性があるのです。
噛み合わせを改善できる
噛み合わせを改善できるのも、全体矯正のメリットの1つです。
奥歯を含めて全体的に歯列を整えるため、噛み合わせの改善が期待できます。
歯科矯正は何に重きを置くかという視点も大切です。
もし見た目だけでなく長期的な口腔内の環境を考えるのであれば噛み合わせの改善は大きなメリットとなるでしょう。
複数の問題を同時に解決できる
全体矯正では、複数の問題を同時に解決できるというメリットもあります。
歯並びが悪いと、見た目や噛み合わせなど様々な悩みや問題が生じることも少なくありません。
例えば、頭痛に悩んでいた患者様が噛み合わせの改善によって症状が軽くなったという事例もあります。
全体矯正は部分矯正と比較して費用がかかり、治療期間が長くなるのをデメリットと感じる方も多いでしょう。
しかし、全体矯正によって同時に複数の悩みが解消される可能性があるのは嬉しいポイントではないでしょうか。
部分矯正がおすすめな歯並び
ここまでは、部分矯正ができない例や全体矯正のメリットをご紹介してきました。
部分矯正を希望する方にとって、どのような歯並びなら可能か気になるところではないでしょうか。
部分矯正がおすすめな歯並びには、以下のようなものがあげられます。
- 前歯の歯並びが気になる
- すきっ歯
- 八重歯
- 軽度の出っ歯
全体的に矯正する程ではないけれど、今より見た目を良くしたいという方もいらっしゃいます。
前歯の歯並びが気になると、上手く笑えなかったり自身が持てなくなったりすることがあるので、そういった方に部分矯正がおすすめです。
また、歯と歯の間に隙間がある「すきっ歯」も部分矯正がおすすめな歯並びといえます。
八重歯や出っ歯も部分矯正の対象となりますが、状態によってはできない場合があります。
いずれにしても、部分矯正ができるかどうかは専門の医師の診断になるので、まずは医師に相談してください。
歯並びが部分的に悪いように見えて実は全体が悪いか
歯並びが悪いと見た目にもキレイとはいえず、コンプレックスに感じる方も少なくありません。
今より見た目を良くするという点では部分矯正がおすすめですが、歯並びや顎の状態によっては適応ではない例があります。
患者様自身は部分的に歯並びが悪いと思っていても、実際は全体のバランスが悪いといこともあるのです。
例えば、奥歯の歯列が悪く、前歯部が押される形でガチャガチャの歯並びになってしまったという例です。
歯列は1本ずつ成り立つのではなく、口腔内のすべての歯が影響しています。
そのため、歯科矯正を検討する際は、全体的なバランスも含めて医師に相談してみることをおすすめします。
まとめ
今回は、部分矯正ができない例やその場合の対処法についてご紹介しました。
部分矯正は気になるところを部分的に改善できますが、凸凹が激しい場合やスペースの確保が困難な場合は治療に向きません。
部分矯正ができない例では、歯並びや顎の状態によって全体矯正や手術を検討することになります。
全体矯正は費用や期間がかかるものの、メリットがあるのも事実です。
まずは歯の悩みを医師に相談し、最適な治療方法を検討してください。