【監修:青山健一】
目 次
顎変形症とは、上顎や下顎の発育異常により咬み合わせが悪い状態のことです。原因は解明されておらず、多くは遺伝によるものと考えられています。
思春期になってから顎が急成長することも多く、多くの方のコンプレックスとなります。
重度の顎変形症の場合は歯並びの矯正だけでは完全に治すことは難しく、外科的手術が必要です。
この手術を顎変形症手術といいますが、口の中を切開して行われるため、顔に傷跡が残る心配はありません。
手術の前後には歯列矯正を行い、矯正歯科医と形成外科医もしくは口腔外科医師との連携のうえで治療は進められます。
多くの場合、この治療を行うと顔貌が改善されます。保険適用されることも多いため、外見的な理由で顎変形症手術を受ける方も少なくありません。
顎変形症の特徴
顎変形症には、さまざまな症例があります。たとえば、下顎が大きく突き出た状態になるのは下顎前突症と呼ばれ、顎変形症の一つです。
咬み合わせは受け口になり、発音に支障をきたすこともあります。見た目にも影響を与え、コンプレックスの原因になると考えられます。
この他にも「上下のあごが左右にずれている」「上顎が前に出ている」なども典型的な顎変形症の症例です。どの場合も噛み合わせが悪く、見た目に影響を及ぼします。
「顔の下半分の見た目を改善したい」と来院される方が多いのが、顎変形症の特徴です。
上下の顎の位置関係に異常がある
顎変形症とは、上下のあごの位置関係に異常がある症状です。その中でも特徴的なのは「上顎が前に出ている」「下顎が前に出ている」という症状です。
いわゆる出っ歯・反っ歯といわれて、思春期の子どもさんには大きな精神的ストレスとなります。
この他にも「顎が左右でずれている」「上下のあごの大きさが極端に合っていない」などがあります。
どの場合も、食べ物が噛めなかったり発音が悪かったりと、機能異常を伴うのが特徴です。
機能異常を伴う場合の手術は、健康保険適用となります。
矯正治療のみでの改善が難しい
歯列矯正治療では、歯の土台となる顎を動かすことはできません。成長途中の子どもさんならば、矯正治療の中で顎の骨の成長をコントロールすることは可能です。
しかし、骨の成長が終わっている大人の場合は、矯正治療のみでの改善は難しくなります。
顎の骨を切除する外科手術を行い、咬み合わせに適切な位置まで顎の骨を動かすことが必要です。
この外科手術を行うことで、矯正だけでは治せない矯正を可能にします。通常では、この外科手術の前後に歯列矯正治療を行います。
長い期間の治療が求められますが、治療の効果は絶大です。
顎変形症治療の流れ
顎変形症治療は、歯科医と外科医とが連携して治療を行います。まずは顎変形症を多く扱っている、信頼できる歯科クリニックで治療を始めましょう。
手術を始める前に1年程度歯列矯正するのが一般的です。この矯正は、顎変形症手術後の下顎上顎の状態をシミュレーションして行われます。
手術は全身麻酔が行なわれ、術後の入院も必要です。術後にも歯列矯正が続きます。動かした顎を固定させるため、ゴムかけも必要です。
このように、顎変形症治療には時間と本人の覚悟が必要となります。
しかし、治療が終わり本来の顔貌を取り戻した喜びは大きいものです。ここでは、手術前から手術後の流れを紹介します。
検査
初診時に歯と顎の状態をシミュレーションして、治療計画を立てます。約1年間の歯列矯正を行い、手術前にも検査が必要です。
この検査の結果で、動かす顎骨の位置を最終決定します。手術では全身麻酔を行うため、麻酔医師の診断も不可欠です。
術前検査では通常の手術と同じく、尿検査や血液検査、レントゲン検査なども行われます。これは、隠れた病気がないかなどをチェックするためです。
また、手術中の出血に備えて、自己血貯血も行われます。
手術の実施
手術は形成外科もしくは歯科口腔外科によって行われます。手術内容によって異なりますが、通常は2~3時間を要します。
症状によって手術内容は異なりますが、顎骨を骨切りして分離し、適正な位置に固定するという手術です。
目が覚めたときには、ゴムかけやネジで顎が固定されている状態です。術後は入院し、回復状況によって退院という流れになります。
入院は通常1~2週間です。
手術後矯正治療・リハビリテーション
術後に骨がくっつくには2ヵ月程を要します。その期間は矯正装置にゴムかけは欠かせません。顎の骨が落ち着き、咬み合わせを調整したら矯正治療の続行です。
このときには、口腔筋機能療法を行うこともあります。口腔筋機能療法とは、舌や口周りの筋肉を正しく使うためのリハビリと思ってください。
舌や口周りの筋肉を正しく機能させるための訓練です。
矯正が終了すれば保定期間に入ります。この頃には、見た目もすっかり改善されているはずです。
顎変形症手術後に後悔する理由
歯列矯正と違って、顎変形症手術は口の中にメスを入れます。そのため、リスクが伴うことも覚えておきましょう。
特に、顔はさまざまな器官が集中している箇所です。骨の中には神経も通っています。そのため、手術後には口周りにしびれを感じる方も少なくありません。
また、顎変形症手術は全身麻酔を行います。もちろん術前の検査や診断をして実施しますが、全身麻酔によるリスクも考えておきましょう。
ここでは、顎変形症手術後に後悔する理由を紹介します。
顔が変形した
顎変形症手術では、上顎と下顎の骨を移動させます。そのため、手術後は顔の形が変わります。
術後の顔貌の変化が、患者さんの希望に沿わないことも有り得ます。
手術前に予想顔貌をシミュレーションしてもらう場合も、あくまでも予測であるということを覚えておきましょう。
後遺症が残った
顎変形症手術後に、後遺症が残ることも有り得ます。実際、唇や顎の周りにしびれを感じるなどの知覚異常を訴える方も少なくありません。
また、全身麻酔を行うため、そのリスクもあると考えます。どんな手術でも後遺症というリスクは付きまといます。
顎変形症手術で考えられる後遺症
顎変形症手術は外科的手術のため、後遺症がでることもあります。顎変形症手術の後遺症としては「知覚障害」や「鼻の変形」などが有名です。
手術をしたすべての人に、後遺症が残るわけではありません。しかし、これらのリスクがあることを覚えておきましょう。
ここでは、顎変形症手術で考えられる後遺症をみていきます。
唇・顎周辺の知覚障害
顎変形症手術によって、唇や顎周辺の知覚障害が出ることもあります。顎や唇の感覚が鈍くなる、ピリピリとしびれを感じるといった症状です。
ほとんどの場合は、1年以内に解消されます。顔の神経を損傷することはないため、大きな心配は不要です。
また、1年後に症状が残っても、日常生活に支障をきたすほどではありません。
鼻が変形する
顎変形症手術では顎の骨を動かすため、顔が変ります。顔の変化が患者さん本人の希望通りとは限りません。
特に上顎の手術では、鼻の形が変わる可能性があります。上顎の骨を動かすと、鼻翼部分の骨も動くからです。しかし、鼻の付け根の骨は移動しません。
その結果、鼻翼が広がってしまいます。最近では、鼻の変化を防ぐ術式も報告されています。不安のある方は、事前に相談が必要です。
顎変形症手術は、美容整形ではありません。必ず術前より美しくなるとは限らないのです。
顎変形症の手術で後悔しないためのポイント
顎変形症手術は外科的手術のため、いくつものリスクを伴います。また、受けてしまったら、元に戻すことは困難です。
手術を決意する前に、どうしても手術が必要なのかを考えてください。
顎変形症の治療は、咬み合わせを改善するためのものです。咬み合わせを治すことで、咀嚼や発音などの機能を改善することを目指しています。
見た目を改善するのが目的ではないことを自覚していないと、手術後に後悔することもあります。
ここでは、顎変形症手術で後悔しないためのポイントをみていきましょう。
リスクを事前に把握する
手術に伴うリスクを把握することが大切です。たとえば、術後に現れる知覚異常は約4割といわれています。
1年後にも知覚異常が解消されない方は、約5%という報告があります。これはけっして低くない確率です。
手術を受けたら、自分にも起こり得るリスクと認識をしましょう。
本当に手術が必要か検討する
顎変形症手術が本当に必要かを検討しましょう。顎変形症はすぐに直さなくても、命に別状はありません。
軽度の顎変形症ならば、歯科矯正治療だけでも問題はないと考えます。
ただし、歯科矯正治療のみの場合は、咬み合わせは改善されても、顔の外見は変わりません。まずは歯科医に相談をしてみましょう。
矯正治療で不安のある方は、無料の矯正相談を活用してください。下記のリンクから無料の矯正相談の予約ができます。
顎変形症手術の対象年齢
顎変形症手術は顎の骨を移動させます。そのため、骨の成長が終了している年齢の方が対象です。
男性なら17才、女性なら16才を目安にしています。実際、顎変形症手術を受ける患者さんは、ほとんどが20~40代の方です。
もちろん、50代でも60代でも手術は可能です。子どもさんの場合は、歯列矯正治療の中で、対応していきます。
顎変形症手術で後悔したくないなら歯科医へ相談
顎変形症手術で後悔したくないなら、まずは歯科医に相談してください。
咬み合わせが悪くても、日常生活には支障がないという方がほとんどです。また、通常の矯正治療単独でも、ある程度は噛み合わせの改善が可能です。
患者さん本人が「ある程度咬み合わせが改善できればいい」と考えるか、「見た目が気になるため、治してほしい」と思っているのかが問題となります。
信頼できる歯科医師に相談し、自分の気持ちを確認しましょう。
矯正治療で不安のある方は、無料の矯正相談を活用してください。下記のリンクから無料の矯正相談の予約ができます。
まとめ
顎変形症の治療では、歯列矯正だけでは限界があります。完全に治そうと思うと、外科的手術が必要です。
しかし、軽度の顎変形症の場合は、歯列矯正だけである程度は咬み合わせを改善できる可能性もあります。
顎変形症手術は、咬み合わせを改善する目的で行われます。より美しい見た目を追求するものではありません。
そのため、手術後に後悔する方もいます。後悔しないためにも、まずは信頼できる歯科医師に相談してみましょう。