【監修:青山健一】
目 次
顎変形症は顎の骨が前に飛び出したり歪んだりする症状で、その飛び出しによって歯の位置も飛び出したり歪んだりするため悩まれる方が多くいらっしゃいます。
症状や年齢によっては、治療をしないで放置することにより症状が進んでしまったり他の部分に影響が出たりすることもあるため早めの診察が大切です。
今回は顎変形症の治療にかかる費用や治療の概要について説明します。少しでも皆様のお悩みの解消に役立てていただけると幸いです。
顎変形症手術が必要なケース
顎変形症とは、上顎の骨・下顎の骨の片方か両方の大きさや形の異常・位置関係の異常によって起こる顎顔面の形の異常や噛み合わせの不具合をいいます。
ご自身やご家族様で次のような状態がある場合は、歯科医の受診が必要です。
- 下顎が前に出ている
- 顎が横にずれている
- 下顎が後ろに下がっている
- 上顎が前に出ている
医師の診断をもとに、矯正治療で対応するか手術で対応するかを患者様のご希望を聞きながら決めていきます。
上顎前突症
上顎前突症は、一般的に出っ歯といわれる症状です。原因としては、遺伝的なものや幼児期に舌で歯を前に押し出すなどの癖によるものが考えられます。
上顎前突症が原因で虫歯や歯槽膿漏になりやすいだけでなく、心理的なストレスにもつながる事例が多いです。治療に適した年齢もあるため早めの受診をおすすめします。
上顎前突症は矯正治療で改善できる場合もありますが、矯正治療と手術を併用することでしか改善できない場合もあるため、歯科医に相談することが大切です。
下顎前突症
下顎前突症は、反対咬合や受け口と呼ばれている症状です。下顎の前歯が上の前歯より前に出ている状態を指し、噛み合わせや発音に不具合が出ることがあります。
放置すると顎の骨の成長に伴い前突が目立ってくることがあり、症状が進むにつれてうまく噛み合わないため、食事の際に不都合が生じることになりかねません。
軽度であれば歯列矯正での治療が可能です。骨の成長が症状の進行に関わるため、放置してしまうと外科的治療が必要になります。
顔面非対称
顔面非対称とは、口元や顎が曲がっていたり口角が左右どちらかが上がっていたりする状態を指します。原因は、遺伝的な要因や片方の歯で物を噛むなどの生活習慣などです。
軽度の場合は矯正治療での改善が可能ですが、重度の場合は矯正治療と手術を併用する場合があります。治療開始の年齢等が決まっているため、信頼できる歯科医師にご相談ください。
放置すると噛み合わせ・顎関節・歯列に悪影響が出るため、早めに治療が必要な症状です。確かな技術と豊富な治療実績のある専門の歯科医師に相談してください。
顎変形症手術のメリット
顎変形症は矯正治療で治療できる場合もありますが、治療前の検査をもとにした診断で矯正治療では対応できない場合には手術を選びます。患者様の負担の軽減を考えることが大切です。
矯正治療では顎の骨の不具合を歯の移動で改善するため、歯周組織全体に負担をかけます。手術を併用すると負担を軽減し、安定した噛み合わせに近づけることが可能です。
手術は顎の骨格を治療するため、歯の移動が少ない・抜歯を回避できるケースがある・治療期間が軽減できるなど患者様にとってのメリットがあります。
無理に歯を動かさない
矯正治療では、歯を動かして歯並びを整えていきます。重度の不正咬合の場合は、歯を動かす距離が大きくなるケースも少なくありません。
一方、手術の場合は顎の骨自体を治療するため、無理に歯を動かすリスクを抑えられます。
歯並びの改善にはスペースの確保は大変重要で、矯正治療の範囲が広がり大きなメリットが生じます。
治療期間を短縮できる
矯正治療は歯を動かすことで歯並びを整えますが、顎変形症では骨の位置や大きさを変えなければならない場合があります。
そのために手術を併用し、治療期間を短縮するのです。
矯正治療で歯並びの矯正をしてから手術で顎の骨を治療することにより、顎骨格の整形を短期間で終えて術後の矯正治療に移ることができます。
術後の矯正治療は噛み合わせの矯正だけとなり全体の治療期間を短縮することが可能です。
治療期間を短縮することは、患者様の身体的負担を軽減するだけでなく、費用負担の軽減につながります。
非抜歯での矯正治療が可能になる場合がある
矯正治療では口内の歯並びのスペースがもともと狭い患者様の場合は、歯の移動スペースを確保するために抜歯を選択しなければならないケースがありました。
手術では顎の骨を広げる治療ができるため、歯列の間隔を確保できることになり抜歯をしないまま矯正治療に進むことができる場合があります。
抜歯をしないことにより本来のご自身の歯並びを大切な自歯で確保できることは、大きなメリットです。
顎変形症手術の費用相場
顎変形症の治療は、矯正治療と手術を併用して行います。いくつかの条件がそろうと保険適用となり、費用負担が大きく軽減できます。
一般的に矯正治療で約25~30万円・外科手術で約30~50万円ですが、高額医療費の還付制度などの利用で還付される場合があります。
費用は病院によって(検査機器や装置によって)異なるため、事前に確かめることが大切です。
顎変形症手術は保険適用されるのか
顎関節症と診断されたら、いくつかの条件が整えば保険適用になります。必ず確認しましょう。
保険適用の条件は下記のとおりです。
- 顎変形症という診断
- 「通常の外側装置」で治療する
- 認定を受けた口腔外科病院で手術を行う
- 術前矯正を6か月以上行う
治療には矯正治療の専門医院と口腔外科医院が必要なため、治療実績の豊富な医院を選ぶことが大切です。
顎変形症手術を行うタイミングと治療期間
顎変形症の手術時期は骨の成長が終了する17~18歳ごろから25歳くらいまでが最適とされています。この年齢の範囲を超えている場合は専門の歯科医院にご相談ください。
顎変形症の手術は矯正治療と併用して行われます。手術に伴う矯正治療は手術前に手術のための歯の状態改善の矯正と、手術後の噛み合わせの安定のための治療です。
手術は骨全体の整形で噛み合わせの骨格を形成します。矯正治療期間は約6か月~2年です。
手術後矯正治療は、手術後の噛み合わせの不具合があれば矯正します。治療期間は1年程度です。
手術前に矯正治療を行う場合
手術前に一般の矯正治療と同じように矯正歯科医が歯科検査を行い、矯正治療前に虫歯などの治療を行います。
その後、手術に最適な歯並びの状態にするための矯正治療を行います。手術前矯正治療では歯並びを整えて、術後に噛み合わせの矯正だけになるようにするため大切です。
手術前矯正治療までは矯正歯科医が、手術は口腔外科医が行います。手術前矯正治療が終わったら、手術に対応できる状態かを再度確認して次の段階に進みます。
手術後から矯正治療を始める場合
手術が終わると6か月程度の観察期間を挟んで、矯正歯科医の手術後矯正治療の開始です。
手術前矯正治療で歯並びを矯正するため、手術後矯正治療は噛み合わせの治療が主です。期間は1年程度ですが、まれに手術後の矯正治療が不要な場合もあります。
治療後には一般の矯正治療と同じで保定期間が必要です。継続的な歯科検診は続けましょう。
顎変形症手術を受ける際の注意点
顎変形症の手術は口の中からの手術になるため、顔に傷が残ることはありません。しかし、口の中の傷が完全に治るまでは口を開けることはできません。
また、顎の骨が完全にくっつくまでは2か月ほどかかるため、通常の食事に戻るまでは時間がかかります。歯科医の指示に従い、無理をしないようにしましょう。
入院期間は10日~2週間程度ですが、その後も骨の状態を確認するために通院が必要です。
術後はリハビリが必要になる
手術は口の中の手術のため、手術後3~4週間口が開かないように固定具を取り付けます。
しばらくの間は鼻から入れたチューブを通しての流動食になり、普通食になるころに咀嚼の訓練があります。
しばらく口を開けないため顎の筋力が弱まり、傷口が閉じてから開口訓練が必要になります。少しずつ口を開けられるようになるため焦らないでゆっくり進みましょう。
手術後の矯正期間に矯正治療と並行して、手術によるリハビリが必要になります。矯正治療とリハビリで6か月~1年の治療期間が必要です。
手術にはリスクがあることを知っておく
手術は全身麻酔で行うため、手術前の問診で患者様の体の状態についてしっかり把握することが必要です。特に薬物アレルギーなどは正直にお伝えください。
手術に伴い、手術中の出血に対応するために事前に自己血液を採血・保存する病院もあります。輸血の可否などについても、しっかり話し合うことが大切です。
手術についての不安なことや疑問がありましたら、手術担当の医師に相談しましょう。
顎変形症手術の費用は歯科医院へ確認を
顎変形症は、健康保険対象になる場合があります。そのためにはいくつかの条件が必要ですから、歯科医に確認しましょう。
顎変形症の治療には、矯正治療をする矯正歯科医と手術をする口腔外科医が必要です。支払いはそれぞれになりますから、事前に確かめましょう。
治療費が高額になるため、高額医療費の還付金制度を利用できる場合があります。歯科医院か市町村役場にご相談ください。
まとめ
今回は、顎変形症の治療について説明しました。顎変形症は、手術を伴う治療で改善される症状ですし、矯正治療だけで改善できる場合もあります。
歯の状態や顎の骨について心配な方はぜひ歯科医院にご相談ください。お近くの歯科矯正専門の歯科医院を探してみましょう。
顎変形症治療は、矯正歯科医と口腔外科医が連携して治療にあたります。確かな実績と豊富な治療実績のある歯科医を選びましょう。