【監修:青山健一】
目 次
子どものうちに顎変形症と診断されると歯列矯正で治すことができる場合がありますが、大人になってからの治療では歯列矯正のみで治すことは困難です。
顎変形症の治療は手術を伴うものとなるため、手術前に術前矯正を行うのですが、矯正期間がどのくらいかかるのかをみていきます。
矯正期間を含めて、顎変形症の治療の流れを解説していきます。今後治療を検討している場合はぜひ参考にしてください。
顎変形症の概要
上あごや下あごが小さすぎる・伸びすぎている・歪んでいるという状態で、上下の噛み合わせが著しくずれている状態のことをいいます。
上下の歯の間に隙間が多いため発音がしにくく、あごの歪みはあごの関節の病気や肩こりの原因となることがあります。
症状
あごの歪みなどにより噛み合わせに異常が生じる他、あごの関節の痛みや口の開閉がしにくいという顎関節症の症状が出てきます。
症状が悪化すると顔自体に歪みが生じ、口の開閉が無理をしなければできない状態となるのです。
下あごが小さい場合は気管が狭くなり、睡眠時無呼吸症候群の原因となる場合があります。
外科的矯正治療が必要
顎変形症は噛み合わせがずれているだけではなく、上あごや下あご、または両方の骨格の位置に大きな異常を生じている状態です。
骨格などが大きくずれている状態では、噛み合わせが大きくずれるなどの問題が出ているため矯正治療だけでは治らないことが多いのです。
その場合は、矯正治療だけではなく口腔外科による顎の位置を変えるなどの手術を行いますが、症状によって手術方法は異なります。
顎変形症の術前矯正の期間
顎変形症の治療は術前矯正から始まります。術前矯正を行う理由は、外科手術後の噛み合わせが後戻りするリスクを下げるためです。
術前矯正期間は症状や年齢によって異なりますが、およそ6か月~2年の間が術前矯正期間となります。
最初の診察で、治療の流れの説明と同時に矯正治療期間の目安を教えてもらえますから、その際に不安点や疑問点を聞くことをおすすめします。
顎変形症の治療の流れ
多くの矯正治療は検査の後に矯正治療・保定期間という流れです。
顎変形症の治療は、検査の後に術前矯正治療・手術・術後矯正治療・保定期間という流れになり、治療期間は3~4年と長期間に及ぶことが一般的です。
ここからは、治療の流れを解説していきます。
カウンセリング・検査
まずは、あごの変形具合や噛み合わせの状態をチェックします。検査内容は下記のとおりです。
- 歯型取り:型を取り模型上での噛み合わせ確認
- レントゲン:頭部レントゲン写真で骨格を計測、パノラマレントゲン写真で歯とその周囲組織を確認
- CTスキャン:あご骨の状態を立体的に確認、顔の正面と側面写真で軟組織の状態チェック
以上が治療前に行う検査内容です。
カウンセリングでは日常生活の悩み相談などを伺います。その後、2週間ほどで検査結果と治療方針が決定されます。
術前矯正治療
術前矯正治療は通常の矯正とは異なり、手術後に噛み合わせがきっちり合うように抜歯や歯の移動を行います。
治療が進んでいくにつれ噛み合わせが悪くなってくるため、歯磨きや食事の時にストレスを感じるかもしれません。
矯正方法は、ワイヤーやブラケットを使った矯正・ゴムかけを利用しての矯正など症状によって方法は変わってきます。
治療期間は6か月~2年という長期に及びます。
治療期間中の食事制限はないのですが、必ず食後の歯磨きをする必要があるため、出勤時や用事などで外出するときは歯ブラシを持ち歩きましょう。
手術
手術内容は症状によって異なるため、1つずつ特徴などを含めて解説します。
1.下顎枝矢状分割術
下あごの大きさが原因で見た目に支障が出ている場合に行う手術で、噛み合わせ調整のために上あごの治療と一緒に行うことが多いです。
この手術は、下あごの骨を切りその骨の位置を前方もしくは後方に移動するため、骨格を変化させることや見た目を改善させることができます。
2.下顎骨垂直骨切り術
口の中を切開して、そこから下あごの骨の一部を垂直に切り下あごの長さを短くします。
直接骨を切り取って顎を奥に引っ込めていく手術ですから、下あごに大きな出っ張りがある場合にこの方法が使われます。
この手術は口の中から切開して行うため、傷跡が目立つことはありません。
3.下顎枝水平骨切り術
これは下あごの一部を水平に切ることにより、したあごの長さを調節する方法です。
下あごが極端に長い場合にこの方法が用いられますが、下あごが極端に大きい場合は他の治療方法と合わせて、下顎枝水平骨切り術を使うこともあります。
4.下顎骨体一部切除術
左右複数の歯を抜歯してその部位の下あごの骨を切り、その後骨をつなぎ合わせることで、下あごを小さくしていきます。
下あごが前に出っ張っている場合に使われる手術法で、見た目の改善だけではなく噛み合わせを改善することができるのです。
5.下顎前歯部歯槽骨骨切り術
この手術では、左右両側の歯を数本抜歯して歯槽骨のみを切り取る特徴があります。
骨格が原因で噛み合わせの悪さが出ている場合に最適な治療法といわれており、見た目も改善することが可能です。
6.上顎歯槽骨骨切り術
上あごを後ろにずらすことで顎の大きさを調整するために、上あご両側数本の歯を抜歯し、その部位の骨を切り取る手術法です。
上あごの骨格が原因で出っ歯などの症状が出ている場合に使われます。
以上が顎変形症の症状別の手術方法です。ぜひ参考にしてください。
術後矯正治療
顎変形症の治療は、術前矯正の他に術後矯正があり、方法はゴムかけが中心となります。
上下にゴムをかけることにより、噛み合わせの調整を行いますが術後は複数箇所にゴムをかけるケースが多いです。
基本的にはゴムは毎日自分で交換することになりますが、最初は慣れずに交換する時間がかかるかもしれません。
ゴムかけは正しく行う必要があるため、かけ方がわからなくなった場合は治療をしている病院に連絡することをおすすめします。
術後の矯正期間は、症状などによって異なりますが6か月~1年半というケースが多く、術後すぐは、上あごと下あごが噛み合うようにきっちり固定されます。
日常的にゴムを装着するため、食事や歯磨きがしにくくなりますから虫歯にならないように注意しましょう。
保定期間
噛み合わせが完成してあごの骨の後戻りが治まった後は、歯並びなど安定させるために保定装置を使い一定期間様子をみていきます。
保定期間は手術内容や年齢によって違いますが、2~3年ほどの期間となります。
術前矯正を行う必要性
顎変形症の治療は歯列矯正とは異なり、骨格に問題がある場合に行われるものです。
目的は、手術で上下のあごを移動させたときに、噛み合わせが正常になるように歯並びを整える他に見た目の改善にあります。
術前矯正は、あくまでも外科手術後のことを考えて調整していくための方法です。
歯列矯正だけでは完全に治すことができず、あごの骨を削るなどの手術を経て噛み合わせや見た目が改善していきます。
抜歯などの矯正をあらかじめ行う必要があるのです。
術前矯正の費用相場
術前矯正の費用は、矯正治療の内容や治療期間によって変わりますが20万円~25万円が費用相場です。
マウスピースやワイヤー矯正のみの場合もあれば、抜歯や歯の移動をさせることもあります。
抜歯や歯の移動をさせる矯正であれば、術前矯正の期間は長くなりますから相場より費用が高くなるかもしれません。
軽度の顎変形症であれば術前矯正は、マウスピースのみというケースもあるため、この場合は費用が相場より抑えることができます。
顎変形症の治療で知っておくべきこと
顎変形症の治療は通常の矯正とは違い、手術を伴う矯正治療となります。
そのため治療の流れも異なりますから、顎変形症の治療で知っておくべきことを説明していきます。
入院が必要
外科手術の前日から入院をして入院2日目に全身麻酔を使用して手術を行うことが多いです。
手術前後の入院期間は1~2週間となります。
術後はゴムで上下の歯をガッチリ固定しているため、入院期間で徐々に口を開ける訓練をしていくのです。
退院までの流れは、自宅で柔らかい食事がとれる状態となるまでリハビリを十分に行うことになります。
術後は口が開けづらい
上記でも述べましたが、術後1週間程度はゴムで固定されているため口を全く開けることができません。
ゴムを緩めて徐々に口を開ける訓練をしていき、食事は流動食から半固形食へ変化していきます。
柔らかい食事が可能と判断された時点で退院となります。
術後に通院が必要
手術が終わり退院した後は、週1度のペースで通院することとなります。
通院中は、術後の咬み合わせの状態やレントゲン写真による手術箇所、顎関節などの状態の確認などを行います。
術後1か月が経過したあたりから術後矯正へ移行する検討が始まるという流れです。
顎変形症の治療の悩みは歯科医に相談しよう
顎変形症の治療は終了するまでに3~4年という長い時間がかかるため、担当医との信頼関係を作ることが必要不可欠です。
治療中の悩みはもちろんですが、治療前のカウンセリングの段階で「この先生にお任せしよう」と思える先生か判断をしなければなりません。
外科手術が伴うため、不安な点が多くでてきますからどんな場合でも寄り添ってくれる先生が理想です。
矯正歯科を探すときは、1つの病院だけではなく複数の病院で説明を聞き、あなたが納得できるところで治療を受けることをおすすめします。
まとめ
ここまで顎変形症について説明をしてきました。
歯列矯正とは違い治療行程が多く、治療終了まで時間がかかり高額な治療費用もかかります。
費用に関しての注意点は、外科手術を伴う矯正治療は保険適用で受けることができるということです。
保険適用の治療を受けるためには、国によって指定された病院での顎変形症の診断が必要となります。
どこでも保険適用で顎変形症の治療を受けられるわけではないため、あらかじめ国の指定の病院を調べておくことをおすすめします。
治療方法は症状によって異なり、治療費用は病院によって異なるため、いくつか病院をピックアップした上で説明を聞くことが必要です。