【監修:青山健一】
目 次
歯ぎしりと聞いて皆さんはどんなイメージをお持ちでしょうか?
中年のおじさんが酔っ払って寝ているときにいびきと共にギリギリとたてる嫌な音…という方もいらっしゃるかもしれません。
あるいは、歯科医院での定期検診や、虫歯の治療の際に歯ぎしりをしているといわれて驚いたことがある方も相当数いるのではないでしょうか。
普段はあまり実害を感じないためにさほど重要視している人も少ない歯ぎしりですが、実は皆さんの歯の健康と大きな関係があることが分かってきています。
また歯ぎしりはその発生メカニズムについては近年解明が進んでいるものの、決定的な改善方法が現在でもわかっていないため、根本治療が難しいものです。
さらに就寝時の歯ぎしりのみならず、覚醒時の歯の食いしばりも歯ぎしりの一種としてとらえられることもある、と聞いたら驚かれるでしょうか。
この記事では、そんな私たちの身近にありながら意外と分かっていない歯ぎしりと、その影響について書いていきましょう。
歯ぎしりと歯並びは関係している?
歯ぎしりと歯並びについて、あまり密接な関係があるようには感じられない方も多いかもしれません。
しかしながら、長期間にわたる歯ぎしりや歯の食いしばりにより、歯の根っこが変形したり向きが変わってしまうことがあり、それが原因となり歯並びにも重大な影響を与えることが知られています。
歯ぎしりが歯並びに与える影響
さて、ここからは実際に歯ぎしりがどのように歯並びに影響を与えるか解説していきましょう。
歯や顎に負担がかかる
歯ぎしりは通常就寝時、無意識に行われますが、この際にかかる力は自分の体重の2~5倍ほどにもなるといわれています。
起床時には自身を傷つけないために無意識にリミッターがかかっているのですが、就寝時はそのリミッターが利かなくなってしまい、力がまともにかかってしまうことが原因です。
なお、平均的な咀嚼時にかかる力は10kg程度といわれているため、歯ぎしりの際は相当な力がかかっていることが想像できるでしょう。
長期的、かつ継続的にそのような過度な力がかかってしまえば、当然ながら歯や顎への負担も大きくなります。
歯が傾く
前述したとおり、歯ぎしりを継続的にしていると歯根が変形したり、向きが変わることなどが確認されており、この影響で歯が傾いてしまうことがあります。
また、歯が傾いてしまうとかみ合わせが悪くなり、それが引き金となって他のさまざまな症状を引き起こす原因となります。
歯ぎしりによる症状
では次に、歯ぎしりによって引き起こされる主な症状についてみていきたいと思います。
首や肩がこる
首や肩の凝りは、歯ぎしりをしていることによって歯並びの悪化や、それに付随して起こる噛み合わせの悪化で引き起こされる不調の代表的なものとして良く知られています。
顎の痛み
先ほども少し触れたとおり、歯ぎしりの際に歯や顎にかかる力は相当な大きさとなります。
それによって顎や周辺の関節(関節円盤)に炎症や位置のずれが起こったり、場合によっては穴があいてしまうことにより、顎関節症などを引き起こす原因となります。
なお、以前は歯ぎしりにより顎周辺の筋肉に異常な負荷がかかり、それによって長期間の筋肉の痛みが起こると考えられていました。
ただ、近年の研究では歯ぎしりが顎周辺の筋肉に及ぼす影響はごく短い時間のみと考えられています。
知覚過敏
歯ぎしりをすることによって歯の表面のエナメル質が摩耗していき、それによって知覚過敏を起こすことがあります。
通常の咀嚼でも歯の表面の摩耗は起こっているのですが、この場合は摩耗の程度が低いために自然と回復していきます。
しかしながら、歯ぎしりでの場合は歯の表面のダメージが大きいために自然修復が間に合わず、知覚過敏や虫歯などの痛みを伴う不調が発生する原因となってしまうのです。
歯ぎしりを放置するリスク
ここからは歯ぎしりを放置することによってどのようなリスクがあるか、詳しく見ていきましょう。
歯がすり減る
先ほど述べたとおり、歯ぎしりをすると歯の表面が削れてしまうのですが、それが進行するとエナメル質を通り越して象牙質まで露出してしまうことになります。
こうなってしまうと当然のことながら虫歯になりやすくなったり、知覚過敏を起こす確率が高くなってしまうでしょう。
また、歯が磨滅して象牙質まで露出してしまうと歯が黄色く見えてしまうということもあるため、思いもよらない外見的な影響を受けることもあります。
歯の寿命を縮める
これまで述べたような歯の表面の摩耗や歯根の変形が起こると、当然の結果として歯の寿命が短くなります。
エナメル質が磨滅しているため、虫歯になる確率も格段に上がりますし、歯根の変形による歯並びの悪化は歯周病も誘発することが分かっています。
そういった要因が組み合わさることにより、結果として歯の寿命が短くなってしまうということです。
噛み合わせが変わる
歯ぎしりをすると歯根の変形などが起こることはこれまでにも述べてきましたが、それが連続して起こることによって噛み合わせも変化していきます。
歯ぎしりをしている人に話を聞くと、起床時に歯ぎしりの影響を感じるのは主に奥歯が多いとのことです。
奥歯が徐々に変形したり傾いたりすることによって、他の歯も少しづつ移動をしてしまい、最終的には噛み合わせに影響を及ぼすほどの歯列の変化が起こるということがわかっています。
歯並びを治す方法
こうして起こってしまった歯並びの変化ですが、もうどうしようもないというわけではなく、下記のような治療を行うことにより改善を見れます。
ワイヤー・ブラケット矯正
こちらは一般的に歯列矯正といわれた場合に多くの方イメージするものです。
金属製のワイヤーと、ブラケットと呼ばれる受け具を歯に接着し、締め上げていくことで歯列を矯正する方法です。
歯の表面に器具を装着するため、目立ってしまうのが難点でしたが、近年では歯の裏面に装着する器具などもあり、目立ちづらいものも多くなっています。
ただ、口中に常に異物があるため口が閉じづらくなる、固いものが食べづらくなる、口内炎などの不快な症状が起きやすくなる、などのことが起こることがあります。
また、装着開始時に歯の痛みを感じたり、人によっては頭痛を併発することもあるようです。
マウスピース矯正
こちらは自分の歯並びに合わせた樹脂製のマウスピースを作り、それを常に装着することにより少しづつ歯並びをよくしていく、という方法です。
食事や歯磨きの際は外せること、ワイヤーブラケットに比べて痛みが少ないことなどもあり、近年利用している人が増えてきています。
ただ、着脱が自分の意志で行えるため装着しない時間が発生することがあり、効果を上げるまでに時間がかかるケースもあるため注意が必要でしょう。
なお、ある程度歯列を矯正したうえで、定着のためマウスピースを長期間着用する、といった使用法もあり、歯並び改善のいろいろな場面で活用の可能性がある器具となります。
矯正治療中は歯ぎしりの改善も重要
歯ぎしりは発生のメカニズムこそ分かってきたものの、根本的に改善するのが難しい性質のものです。
矯正治療中、特にワイヤーブラケットを装着している人の中には、意識が歯に集中してしまうため、以前よりも歯ぎしりが酷くなったように感じる場合もあるでしょう。
ただ、そういった場合に歯ぎしりだけを特にを改善する方法は残念ながらありません。
矯正を始めた目的にもよりますが、歯ぎしりに気付かずに歯並びの改善を目指して矯正を始めた場合、矯正が終わるころには歯ぎしりも改善していることがあります。
また歯ぎしりの改善を目的として矯正をしている場合であれば、当然ながら治療の進行に伴い歯ぎしりが改善していくでしょう。
ただ、ここでひとつ注意点があります。
もし矯正中に歯が欠けてしまった場合は、迷わずかかりつけの歯科医に相談してください。
欠けてしまった歯を放置して虫歯になった場合、矯正器具を付けたままの治療は装着者自身に大きな負担となる場合があるからです。
歯ぎしりと歯並びで悩んだら歯科医に相談
ここまでの説明で、歯ぎしりとそれが歯並びに及ぼす影響についてはご理解いただけたでしょうか。
歯ぎしりが気になったらまずは歯科医に相談するのが被害を最小限に抑える近道なのはこれまでに述べてきたとおりです。
ですが、うっかり歯医者に行ってしまったがために、自覚していなかった虫歯を発見されてしまい治療する羽目になってしまうことを恐れている方も多いかと思います。
ただ、歯ぎしりを放置していると軽微な虫歯以上の多大な影響を及ぼすことが分かっており、矯正治療の前には虫歯をすべて治療してから行うのが通常です。
今ある不調と、これから起こるであろう不調を未然に防ぐためには積極的に歯科医に相談した方が良いでしょう。
また、矯正までは必要ないが歯ぎしりによる影響を最小限に抑えたい、という場合にはナイトガードというマウスピースのような保護具を作ってもらうこともできます。
今のところあまり不調もないからと放置せずに、不調の影響が出ないうちに早めに歯科医に相談してしかるべき治療を始められることをお勧めします。
まとめ
さて、今回は歯ぎしりと歯並びについて述べてきましたがいかがでしたでしょうか。
今回の内容を簡単にまとめると
- 歯ぎしりは歯だけでなく全身に不調を及ぼす可能性がある
- 歯並びを治すことによって歯ぎしりを軽減できる可能性がある
- 歯ぎしり軽減のためにはナイトガードという器具がある
- 歯ぎしりや歯並びの改善にはまず歯科医に相談
となります。
ほかの疾病と同じで、歯ぎしりも全身に影響を及ぼすような症状が現れたときはすでに手遅れ、といったこともないとは言えません。
そこまでいかなくとも、歯ぎしりの拍子に前歯が大きく欠けてしまったり、口の中の粘膜を傷つけてしまい口内炎になってしまうこともあり得ます。
皆さんもたかが歯ぎしり、と侮ることなく、早めに歯科医に相談してはいかがでしょうか。
今回の記事が皆様のお役に立てれば幸いです。