【監修:青山健一】
目 次
歯科矯正につきものだった「痛み」は、矯正器具の改良によって軽減されつつあります。
しかし口の中に器具を入れ、歯に力をかけて動かす治療ですから、程度の差はあっても痛みを感じる方がほとんどです。
こうした痛みには必ず原因があり、適切に対処すれば痛みの程度も時間も軽く・短く済みます。決して怖いものではありません。
痛みに対する不安を解決するために、歯科矯正における痛みの原因と対処法を知っておきましょう。
歯科矯正中の痛みについて
歯科矯正は数日で終わるものではありません。
矯正開始後に痛みを感じ始めると、矯正が終わるまでずっと痛みが続くのではないか、酷くならないかと不安になります。
数十年前までは、矯正を中断したくなるほどの耐えられない痛みが出ることもまれにありました。
現在は病院に飛び込みたくなるような強い痛みはほとんど出ません。
とはいえ、弱い痛みだから放置していいわけではなく、弱い痛みがじわじわと続くほうが辛い方もいるはずです。
痛みの程度の強弱にかかわらず、体が発する痛みは生活の質を低下させます。
矯正歯科では「我慢してください」とは言いません。
矯正治療は年単位で続くため、生活の質を下げずに治療が継続できるよう歯科医師が痛みをコントロールしますので、ご安心ください。
矯正中に痛みを感じる原因
矯正中の痛みは矯正そのものが原因であったり、口に入れる装置が原因であったり様々です。
代表的な痛みの原因を4つ挙げてみましょう。
矯正装置による痛み
矯正装置が口の中に接触することが原因で痛みが発生します。
よくあるのは、ワイヤーやブラケットなど硬い素材の矯正装置が粘膜を傷付けるケースです。
矯正器具を装着するときは問題なくても矯正が進むと歯が移動するため、器具がズレたり飛び出したりすることがあります。
またワイヤー矯正では歯と歯の間にセパレーションリングを差し込みますが、これも痛みの原因の一つです。
ワイヤーを交換するごとにリングも交換する必要があります。
器具そのものによる痛み以外で挙げられるのが、口内炎による痛みです。
矯正器具が口の中の1ヶ所にあたり続けると、そこに炎症が起きることがあります。
歯が動くことで感じる痛み
矯正器具で歯が動くこと自体が痛みの原因の一つです。
器具で力をかけて歯を動かすという一見単純な工程ですが、実に様々な反応・作業が行われています。
この中で痛みに関係するのが歯の根元の炎症反応です。
今までしっかりと固定されていた歯を、ある意味力ずくで動かそうとするため周辺に炎症が起きます。
この状態を改善しようと新しい細胞が作られ、歯を安定させるために歯茎が変化し、歯の移動が完了します。
歯列矯正ではこうした人体の反応を利用して、無理なく歯を動かしているのです。
そのため必ず炎症が起き、これが違和感程度で済む人もいれば「痛み」として感じる人もいます。
食事の際に感じる痛み
食事も痛みの原因として挙げられます。
歯の根元に炎症や骨の一部が溶けて新生するような反応が起きているため、矯正中の歯は刺激に対してとても敏感です。
食べ物を噛むと歯そのものに衝撃が伝わるため、痛みを感じます。
歯茎の痛み
歯科矯正で歯茎に痛みを感じる場合、その原因は口腔内のトラブルや歯列矯正による歯茎の変化です。
ワイヤー矯正では歯を磨くときもワイヤーを付けたまま。当然ブラッシングがしにくくなります。
磨き残しはプラークとなり、歯茎の腫れ・出血・痛みを伴う歯肉炎に至るのです。
また歯列矯正によって歯の位置が変わると、歯と歯茎の間に隙間ができたり、歯茎が下がったりします。
今まで歯茎で守られていた歯の表面は、刺激に敏感な状態です。
突然空気にさらされることが刺激となり、沁みるような痛みが生じます。
矯正装置ごとに痛みは異なる
痛みの原因を追っていくとワイヤー矯正は痛みが出やすいような印象を受けますが、マウスピース矯正でも痛みが出ることはあります。
どちらも歯を動かす治療であり、口の中に装置を置くという点は共通です。
両者の違いは痛みの質や、痛みが出たときの対処のしやすさにあります。
それぞれの矯正装置でどういった痛みが出るのか、確認しておきましょう。
ワイヤー矯正による痛み
細い金属を使うワイヤー矯正では、ワイヤーの先端が口の中を刺激することがあります。
柔らかい粘膜を針金で突くような形になるため、チクチクとした痛みです。
またカバンを持とうとして顔にぶつかったりボールが頬にぶつかったりすると、硬いワイヤーが口の中を傷付けることもあります。
口の中にワイヤーが刺さって痛い場合はワイヤーを切ったり、カバーしたりといった処置が必要です。
ワイヤーは簡単に取り外せないため、こうした処置は歯科医院で行うことになります。
インビザライン矯正による痛み
インビザライン矯正に使うマウスピースは比較的柔らかい素材を使っているため、ワイヤー矯正のような痛みはありません。
ただしマウスピースの縁が歯茎にあたって痛みを感じることはあります。
またマウスピース表面にあるアタッチメント用の突起も痛みの原因の一つです。
もちろんチクチクとした痛みではありませんが、粘膜を刺激し続けるため炎症化することも少なくありません。
さらに、マウスピースの交換時に痛みを感じる方もいます。
マウスピース矯正では、矯正が進むたびに歯列に合わせたマウスピースに取り換えるため、初めてマウスピース付けたときに似た違和感や痛みを感じる方もいるでしょう。
インビザラインのマウスピースは通常のマウスピースよりも弱い力をかけ、1週間ごとに交換します。
通常なら1ヶ月分の力が一気にかかるところを、インビザラインでは25%ずつに分割できるのです。
そのため歯を動かすときの痛みが軽減できます。
マウスピースの利点は、痛みを感じたときに取り外せることです。
歯茎にあたって痛いときは、その部分をヤスリで削ることで対処できます。
またどうしても痛みに耐えられないときは一旦外し、翌日診察を受けることも可能です。
この点はワイヤー矯正との大きな違いだといえます。
痛みの期間は
個人差はありますが、器具装着後5時間ほど経過してから痛みが出始め、2~3日程度で治まります。
食べ物を噛むときの痛みはもう少し長くかかり、治まるまでおよそ1週間ほどです。
痛みの対策・対処法について
歯科矯正で痛みを感じたら我慢する必要はありません。
とはいえ、痛みを感じるたびに歯科へ駆け込むことは難しいでしょう。
痛みに対する処置としては病院で行うものと、ご自身で行えるものがあります。
少しでも早く痛みを解消するためにも、あらゆる方法を知っておきましょう。
矯正装置を覆う
口の中に矯正装置があたって痛みが出ているときは、矯正用のワックスで装置そのものをカバーします。
ワックスはシリコンのような弾性素材でできており、口の中に入れても、たとえ飲み込んでしまっても無害です。
これを装置の気になる部分に塗って刺激を軽減させます。
矯正歯科では大抵取り扱いがあるので、治療を開始する際に購入して使い方をレクチャーしてもらうといいでしょう。
軟らかいものを食べる
食べ物を噛むときに生じる痛みは強い力をかけるほど強く痛み、弱い力で噛めば痛みも軽く済むのが特徴です。
そのため食事中の痛みが気になる間は、できるだけ軟らかいものを食べるようにするといいでしょう。
特に痛みに慣れていない矯正初期では、強度によらず「噛む」という動作で痛みが出ることもあります。
その場合はおかゆや緩く茹でたうどんなど、できるだけ軟らかい食事からスタートすることをおすすめします。
口内ケアを徹底する
歯や歯茎に違和感があるとブラッシングの力が弱くなりがちですが、痛みが辛いときは歯間ブラシを使うなど工夫して口腔内を清潔に保ちましょう。
口内ケアを怠って歯肉炎になれば痛みを伴いますし、歯周病にまで進行すると矯正治療が継続できないこともあります。
ワイヤー矯正の場合は取り外しができないため、歯を磨くときは念入りにブラッシングしてください。
特に歯の裏側から矯正しているケースでは注意が必要です。
マウスピースは取り外しできますが、だからといって安心できません。
マウスピースで覆われている部分は唾液が届かず自浄作用が働きにくいため、汚れが残ると菌が繁殖しやすくなります。
矯正中のブラッシングでどういったことに気を付けたらいいか、痛みがあるときはどうしたらいいか、歯科医師に相談してみるのも一つの方法です。
歯茎をマッサージする
歯が動くときは根元で炎症が起き、血行不良も起きています。
凝り固まった歯茎を緩める歯茎マッサージは、矯正中の痛みの軽減に効果的です。
歯ブラシを使ったマッサージが知られていますが、痛みがある場合は指(人差し指の腹)を使ったマッサージをおすすめします。
歯と歯茎の境目に指を当て、歯磨きをするように小刻みに動かしたり、小さな円を描くように動かしたりして歯肉を緩めましょう。
歯茎のマッサージにはリラックス効果があり、痛みを和らげてくれます。
またマッサージによって唾液の分泌量が増えるため、口腔内ケアとしても効果的です。
歯科矯正を始める前に
歯科矯正は歯を動かしたことで生じる様々な反応を利用し、無理なく歯並びを改善する治療です。
無理なくといっても力をかけて動かすため、誰にでも痛みが出る可能性があることを理解しておきましょう。
そして痛みの原因を知っていれば対処できることも併せて知っておいてください。
一般的には歯の周りの組織が柔らかい子どもや若い方は痛みが出にくいとされています。
とはいえ痛みの感じ方には個人差があるため、一概にはいえません。
たとえ痛みが出ても対処できる、担当医に相談できるという安心材料を持っておいてください。
歯科矯正の痛みが不安なとき
痛みの原因と対策が分かっていても、やはり痛みは怖いものです。
歯科矯正に関するたくさんの情報を見聞きするほど、不安が増大していくかもしれません。
痛みが心配で歯科矯正に踏み切れない場合、一人で悩まず矯正歯科に相談してみてください。
実際に口の中を確認した上で、痛みについてどういったリスクがあるか、どうすれば緩和できるかアドバイスをもらいましょう。
まとめ
歯科矯正が珍しかった時代は終わり、今では子どもから大人まで多くの方が矯正治療を受けています。
幅広く普及した背景にあるのが痛みの少ない治療法の確立と、痛みに対するケアの充実です。
痛みが不安な方や痛みに弱い方に対して、「仕方ない」「我慢して」ということはありません。
ご自身にとって一番安心できる歯科・矯正方法を選ぶためにも、まずは矯正歯科に相談してみましょう。