【監修:青山健一】
目 次
歯の矯正治療の中で、多くの相談があるのが上下顎前突という症例です。上下顎前突といってもさまざまな種類があり、それぞれ原因や治療法が違います。
では、矯正を考える多くの患者さんが悩む上下顎前突とは一体どんな種類があるのか、原因や治療法は何があるのか、治す際にかかる費用も一緒にみていきましょう。
上下顎前突の概要
上下顎前突とは、上の歯と下の歯が前に出ている状態の口元のことです。
出っ歯や反対咬合など、上だけ・下だけ歯や顎が出ている場合もありますが、どの種類も歯並びが気になって矯正治療を考える人が多いです。
顔を横から見たときに、おでこよりも口元が前に出ていたり、鼻先と顎を結んだラインから唇が大きく出ていたりすると、上下顎前突といえます。
上下顎前突は、矯正治療を考える人の中でもとくに多く、悩んでいる人が多い歯並びの症例の一つです。
上下顎前突の代表的な歯並び
上下顎前突といっても人によって歯並びが違い、詳しくみていくとさまざまな種類があります。
矯正治療を考えている上下顎前突の人の中でも、比較的多い症例の代表的な歯並びを詳しくみていきましょう。一般的な呼び名や見た目も解説していきます。
上下顎前突
上下両方の顎が前に突き出しているような口元の場合、上下顎前突といえます。
おでこよりも口元が出ている・普段から唇を閉じづらい・鼻の下の人中が長く見えるなどに当てはまると、上下顎前突の可能性が高いです。
唇が閉じづらい場合上顎だけが前に出ている人も多く、この場合は上顎前突といいます。いわゆる出っ歯といわれる症例で、下顎は正常な位置であることが多いため、上の歯を中心に矯正治療していきます。
反対咬合
一般的には受け口・しゃくれともいわれている反対咬合は、下顎が上顎よりも前に出ていて噛み合わせも上下反対になっている状態のことです。
反対咬合は、上の歯が内側・下の歯が外側に倒れているなど歯並びの関係で起こる場合と、下顎自体が前に出ていて噛み合わせが上下反対になっている場合があります。
下顎が前に出ている反対咬合を下顎前突といい、矯正治療だけではきれいな口元にならない場合は、外科的な手術を視野に入れる人もいます。
叢生
歯が重なっている部分があり、並びがガタガタしている症例を叢生といいます。
顎の大きさに対して歯が全て入りきらない状態で、顎に歯がぎゅうぎゅう詰めになっているようなイメージです。
叢生といっても、歯が少し重なっている程度の軽度の人もいれば、歯が顎に入りきらず全体的にデコボコしていたり前歯2本の後ろに歯が生えていたりするような重度の人もいます。
八重歯も歯が重なって生えているため叢生にあたり、重なっている部分は歯磨きしづらく虫歯にもなりやすいです。
開咬
開咬は、噛んでも前歯が上下当たらない状態のことで、前歯で噛みきれないなど食事にも支障が出てきます。
叢生や反対咬合など合併していることも多く、矯正治療は長期間になることが多いです。
見た目は上下顎前突で歯並びがそこまで悪くなくても、奥歯に負担がかかり続けることで奥歯の寿命が短くなるため、早めに治療をした方がよいとされています。
過蓋咬合
噛んだときに下の歯が上の歯で見えなくなることを過蓋咬合といいます。
上顎前突のため過蓋咬合になっている場合も多く、矯正治療で前歯を治せば口元の印象もかなり変わります。
矯正治療を行い噛み合わせも正しい位置に合わせることで、前歯に高さができ口まわりがスマートになる人も多いです。
空隙歯列
一般的にすきっ歯と呼ばれる空隙歯列は、歯と歯の間に隙間がある歯並びのことです。隙間があることで食べたものが挟まりやすかったり、歯磨きしづらかったりします。
部分的な空隙歯列であれば、矯正治療をせずにレジンで歯の形を整えて隙間を無くせます。
前歯には隙間があるけれど奥歯は重なっているなど、空隙歯列と叢生が併発していることもあり、この場合は全体的な矯正治療が必要です。
上下顎前突の原因
上下顎前突にはそれぞれ原因がありますが、先天的なものから後天的なものまでさまざまです。
歯並びや顎の大きさは遺伝することが多く、両親のどちらかが上下顎前突の場合は先天的な遺伝性のものといえます。
小さい頃から長い間指しゃぶりを続けていたため、上下顎前突になった人などは後天的な歯並びといい、この場合は矯正治療だけでなく歯並びが悪くなった原因を断つことが必要です。
他にも、口呼吸のため舌で下前歯を押して反対咬合になったなどの場合、口呼吸を改善する必要があります。
矯正治療をすれば上下顎前突を治せますが、後戻りしないためにも歯並びが悪くなった原因を知って改善していきましょう。
上下顎前突の治療法
上下顎前突は歯並びによってさまざまな種類があるため、症例や歯並び具合によって治療法も変わります。
基本的に上下前歯を動かす大きな治療になるため、ワイヤー・ブラケット矯正を行う場合が多いです。
では、具体的にどのような治療をしていくのか、子供・大人によって治療法が少し変わるため、順番にみていきましょう。
子供
子供の場合、まずは上下顎前突になっている原因を突き止めます。遺伝性もありますが指しゃぶりなどの癖でなっている子も多く、このような場合はまずは癖を治しましょう。
舌で前歯を押す癖がある子や口呼吸が習慣的になっている子もいるため、舌を元の位置に留めておく練習をしたり鼻呼吸に改善したりして矯正治療を始めていきます。
上下顎前突は前歯を内側・外側にする装置を付けて矯正をすることが多いですが、子供の場合は顎が発達途中のため矯正で顎の位置を改善できる可能性も高いです。
子供の矯正治療は歯並びを改善するだけでなく、顎の位置改善もできる場合があるため、歯並びや口元が気になったら早めに治療を始めましょう。
成人の治療
成人の上下顎前突を治療する場合、子供と違って顎が成長済みのため、顎を動かすのではなく歯並びを改善して矯正治療を行っていきます。
ワイヤー・ブラケット矯正やマウスピース矯正を行っていきますが、矯正治療だけでは上下顎前突は治らないという場合は、外科的な手術で顎を引っ込めなければなりません。
叢生や開咬のような歯が顎に入りきらず歯並びが悪くなっている場合、上下左右1本ずつ抜歯をしてから矯正で歯の並びをきれいにした治療例もたくさんあります。
成人の矯正治療では、抜歯は珍しいことではありません。遺伝などで元々顎が小さい人は、抜歯をすることで歯が全部収まるスペースを確保し、矯正治療を行っていきます。
上下顎前突の治療費相場
上下顎前突を矯正治療する場合、上記でご紹介したように子供と大人では治療法が異なるため費用にも違いが出てきます。
どちらも前歯に装置を付けて矯正を行っていきますが、成人の場合外科的な治療が必要となればさらに費用はかかります。
では、子供と大人の上下顎前突を矯正治療する際、どれくらいの費用がかかるのか治療費用の相場をみていきましょう。
子供
子供の上下顎前突を治す場合、歯並びを前後きれいな位置にくるようにワイヤー・ブラケットやマウスピースを使った矯正治療を行います。
どちらの方法でも子供の場合は大人に比べると歯が動きやすいため、治療費用の相場は税込20万円~50万円ほどです。
しかし、子供は顎の大きさを広げるための床矯正を行う場合もあり、床矯正の費用と合わせると100万円近くすることもあります。
また、永久歯が生え始める頃に行う1期治療、永久歯が生えてから行う2期治療と長期間矯正を行うこともあります。
こういった矯正治療の場合、各期20万円~50万円ほどかかるため、合わせた相場費用は100万円ほどです。
大人
大人の上下顎前突の場合もワイヤー・ブラケットやマウスピースを使って矯正治療を行っていきます。
歯並びによって矯正方法や期間も違いますが、歯をきれいな位置に戻すために2~3年程かけて矯正していき、相場費用は税込み60万円~100万円ほどです。
軽度の上顎前突や空隙歯列であれば比較的安く済みますが、反対咬合や叢生などで全体的に歯並びが悪い場合はさらに高くなる場合もあります。
上記に通院費も加算され、下顎前突で顎の手術をしなければならない場合は、手術費用や入院費もプラスになります。
健康上のリスク
上下顎前突は見た目が気になるだけでなく、長年放置しておくと健康上のリスクも伴う場合があり、注意が必要です。
反対咬合や開咬の場合は、前歯で噛みきれないことから奥歯に負担がかかり、噛み合わせのすり減りによってしみる・虫歯の原因になります。
また、同じ歯に力がかかり続けると、歯根吸収や歯肉の退縮から歯周病になりやすく、奥歯の寿命が縮む可能性もあって危険です。
叢生の場合歯が重なっている部分が多いため、歯磨きしづらいことから歯垢が残って虫歯・歯肉炎・歯周病など、さまざまなトラブルを引き起こします。
噛み合わせが悪いと、食べたものをしっかり噛めず胃や腸に負担がかかることもあり、消化不良や栄養吸収率の減少にも繋がるため気をつけて下さい。
歯並びがよくないと見た目が気になるだけでなく健康上のリスクも高く、気づいたら虫歯や歯周病が進んでいるということもあるため注意しましょう。
上下顎前突で悩んだら専門医に相談
上下顎前突といってもいろいろな歯並びがあり、人それぞれ悩みが違います。
口元が気になるだけでなく噛みづらかったり発音しづらかったりと、日常生活で不便を感じることがあれば、矯正治療を考えてみましょう。
しかし、矯正治療は高い費用がかかるだけでなく副作用もあり、治療中は歯に痛みが出て噛めなくなることもあると理解しておいて下さい。
それでも矯正治療をして歯並びがよくなれば、きれいな口元を手に入れられます。
上下顎前突で矯正を考えている、矯正をしたいけどどんな治療をするのか不安という人は、一度気軽に歯医者で相談してみましょう。
まとめ
上下顎前突は矯正治療をする人の中でも代表的な症例が多く、口元の見た目や噛みづらさに悩んでいる人も多いです。
放置すれば健康的なリスクを伴い日常生活に支障をきたす場合もあるため、歯並びが気になっている人は歯医者で相談したり話を聞いたりして、矯正治療を考えてみて下さい。