【監修:青山健一】
目 次
受け口や反対咬合ともいわれる下顎前突は、顎が突き出してしまうため見た目の問題から気になっている方が多いです。
下顎前突をそのままの状態にしておくと、見た目だけではなくその他にも問題が生じてしまいます。
下顎前突とはどういう状態なのか、何故なってしまうのか、治療方法についてご説明します。
下顎前突は矯正のみで治療できる?
下顎前突の治療には、外科的矯正治療と歯列矯正という選択肢があります。
外科的治療というと、いわゆる手術です。手術と聞くと、治療することに対して抵抗のある方もいらっしゃいます。
下顎前突は人によって程度が異なるため必ずとはいえませんが、手術をせずに歯列矯正治療で治すことも可能となります。
下顎前突の概要
下顎前突は、下の前歯が上の前歯より前に出ている状態です。
通常の噛み合わせは、上の前歯が前に出ていて下の前歯が後ろになっている状態のため、下顎前突は上下逆の噛み合わせになっている状態で反対咬合ともいいます。
下顎前突は、2つのタイプに分けることができます。
上下の顎の大きさやバランスが悪い状態の骨格性の問題と、上の歯が内側に傾いていたり下の歯が前に突き出てしまっている歯性の問題です。
下顎前突の特徴
下顎前突の特徴は、見た目として顎が突き出してしゃくれてしまっている状態で、日本人には割と多い不正咬合です。
噛み合わせが逆になっているため、食べ物を噛みにくいことや、発音しにくいことがあります。
主な原因
下顎前突になる原因はどのようなものがあるのでしょうか。
まずは、遺伝的な原因です。上顎の成長が不十分で小さかったり、下顎が成長しすぎて大きくなるため下顎前突になってしまいます。
前歯の生える向きの傾きによる原因もあります。あごの骨には異常がなくても歯の生える向きによって噛み合わせが逆になってしまうのです。
子どものころの癖が原因となる場合もあります。
例えば、指しゃぶりや下顎を前に突き出すような癖や舌で下の前歯を押し出すようなことも下顎前突になってしまうことがあります。口呼吸であることも原因の一つです。
下顎前突の代表的な治療方法
下顎前突の治療方法は外科的矯正治療と歯列矯正があり、2つを組み合わせて行う外科的矯正治療と歯列矯正のみの治療があります。
下顎前突の治療は、3歳程度から治療できます。できるだけ早い時期に行うことで身体への影響を少なくできます。
早いうちからの治療する方が好ましいですが、大人になってから治療することも可能です。
外科的矯正治療
外科的矯正治療とは、歯列矯正治療と顎の骨に対する手術のどちらも行ない、咬み合わせを改善させる治療です。
遺伝性などで顎の骨が大きかったり、ずれていたりする場合で歯列矯正だけでは治療することが難しい患者さんに適応します。
治療を開始してすぐに手術をするのではなく、手術後の噛み合わせを想定した歯列矯正から始まります。
矯正が安定してきたら、顎の骨を切って固定する手術を行ない、再度歯列矯正を行なうという手順です。
手術による入院期間は、1週間から2週間程度が目安です。
外科的矯正治療は顎の骨を切って移動させるため、治療後は顔のバランスが変わり見た目の変化があります。
費用は保険適応となる場合があり、歯列矯正のみの治療よりは抑えられますが、治療の期間が長くなります。
歯列矯正
下顎前突に対する歯列矯正には抜歯を行う場合と抜歯をせずに行う治療方法があります。
抜歯せずに治療できるのであれば、リスクの少ない非抜歯での治療を希望したいですよね。
矯正に使用する装置は、ワイヤーブラケット矯正での治療が一般的です。軽度の下顎前突であれば、場合によってはマウスピース矯正でも可能です。
下顎前突を放置すると?
下顎前突は虫歯などのように痛みを伴わないため、そのままにしているという方もいらっしゃるかもしれません。
下顎前突を放置しておくと、さまざまな問題が生じてしまいます。
食べ物を噛み切れない
下顎前突の場合は、前歯の噛み合わせが逆になっているために前歯で噛み切ることが難しい状態です。そのため、奥歯にかかる負担が大きくなります。
また、飲み込みにくいことによる嚥下障害を起こすこともあるのです。
顎関節症のリスク
下顎前突であると、必ずしも顎関節症になるわけではありませんが原因の一つとして考えられています。
下顎前突は噛み合わせに問題が生じるため、顎関節に負荷がかかり顎関節症になることがあります。
顎関節症の症状は、顎を動かしたときに変な音がする・口が開けられない・疼痛です。
顔の形への影響
下顎は思春期頃に急激に成長します。
そのため、幼少期に下顎前突を治療せずに放置した場合は顔が変貌します。それが、下顎が伸びる三日月顔、いわゆるしゃくれ顔です。
見た目をコンプレックスに感じて心理的な影響が出てくる方もいらっしゃいます。
幼少期のうちに治療を開始するとそれを防ぐことが可能です。
身体への影響
下顎前突により咀嚼や嚥下に障害を及ぼすと、食べ物をよく噛んで小さくできないことで消化不良となり、消化器障害が起きる場合があります。
噛み合わせが悪いと、口の中だけに問題が出ると考える方が多いですが、口に繋がる肩や首の筋肉にも影響をきたして肩こりなどの症状もみられます。
外科的矯正治療を避けたい理由は?
下顎前突の治療のためとはいえ、手術という外科的矯正治療が必要といわれると不安に感じられる方もいますよね。
命の危険がない下顎前突で手術を伴う治療は必ずしも行うべきなのか考えてみましょう。
顎の骨を切ることへの不安
下顎前突の外科的治療は、顎の骨を切って噛み合わせの良い位置で固定します。
骨を切ると想像するだけで怖いと感じて躊躇してしまうこともありますよね。
手術自体は口の中から行うため、見た目として傷口が目立つことはありませんが、手術を行う際は必ずリスクが伴います。
顎の骨を切る手術は、高度で繊細な技術を必要とします。
下顎前突の手術だからというわけではありませんが、そもそも手術は身体に傷を付けることになるため、感染などの術後合併症が起きることもあります。
顔にはさまざまな神経が通っており、手術によって生じる痺れや顔面神経麻痺も術後合併症の一つです。
入院が必要
下顎前突の手術では、入院が必要です。推定される入院期間は1週間から2週間程度となります。
まとまったお休みが必要ということは予め押さえておきましょう。術後に顔の腫れや痛みが続く場合は、退院後すぐに学校や職場に行くことが難しいかもしれません。
全身麻酔への不安
下顎前突の手術は全身麻酔をして行います。全身麻酔を行なうことで苦痛を感じることなく手術を受けられます。
しかし、全身麻酔によるリスクはゼロではありません。
手術を行う前には、リスクを想定して充分な検査を行っていますが、呼吸器や心臓疾患などさまざまな既往疾患がある場合はよりリスクが高まります。
矯正のみで治療できるケース
手術を伴う外科的矯正治療はリスクを伴います。できることなら、リスクの少ない歯列矯正治療のみで下顎前突を治したいという方が多いです。
歯列矯正のみで治療が可能な下顎前突は、歯性の問題で起きているケースです。歯性であれば、顎の骨を切ることなく改善できます。
先天性の骨格性の問題である場合は、軽度であれば歯列矯正で治療することが可能ですが、下顎が大きく成長していると外科的矯正治療が必要となります。
下顎前突を矯正のみで治したいなら
下顎前突を矯正のみで治療したいと望むのであれば、まずは歯科医院で相談してみましょう。
特に実績のある歯科医院で相談することをおすすめします。
実績があるということは経験が豊富であり、さまざまな難しい治療を行っている可能性が高いです。
最初の歯科医院では手術が必要と言われたけれども、他院では歯列矯正のみで行えるというケースは少なくありません。
すぐにあきらめてしまうのではなく、歯列矯正を専門に行っている歯科医院で相談してみましょう。
相談した上で下顎前突の治療を行なうかを判断するのはあなたです。
まとめ
通称受け口といわれる下顎前突は、前歯の噛み合わせが上下逆になっている状態です。見た目はしゃくれ顔になってしまうため気にしている方も多いようです。
下顎前突は骨格性と歯性に分けられ、骨格性は顎の骨の成長の問題である遺伝が原因となります。歯性の原因は指しゃぶりの癖や呼吸法などによるものです。
下顎前突であることにより、噛み合わせが悪くよく噛めない・さ行た行の発音ができない・顎関節症になりやすい・肩こりといった症状を引き起こしてしまいます。
治療は3歳ころから行うことができ、早く治療を開始する方が影響は少なくなるケースが多いです。
また、早い時期の治療は費用を抑えることが可能です。
治療方法は歯列矯正と外科的矯正治療です。歯性や軽度の骨格性の下顎前突であればワイヤーブラケットやマウスピースでの歯列矯正治療のみで治療が行えます。
外科的矯正治療は顎の骨を切る手術と手術前後の歯列矯正治療を併用して行うものです。手術のため入院の必要があり、術後合併症のリスクを伴います。
治療に手術が必要といわれていても、矯正治療を専門に行なっていたり実績のある歯科医院では、歯列矯正治療のみでも行える場合があるのです。
歯列矯正治療のみでの治療を希望される場合は、あきらめずに相談してみてください。