【監修:青山健一】
目 次
歯列矯正の治療の中で床矯正というものがあり、歯を並べるためのスペースを広げる治療方法になります。
その床矯正の治療に使う装置の1つが拡大床で、他にも種類があり、それぞれに特徴があるのです。拡大床は正しい使い方をすることで効果が得られる装置です。
今回は拡大床の種類や正しい使い方、そして注意点などを併せて詳しい解説をしていきます。メリットやデメリットも紹介するため、拡大床を使った治療を検討するときの参考にしてみて下さい。
矯正で拡大床を使う目的
拡大床は、歯列矯正で歯を並べるためのスペースを確保する装置です。床装置とも呼ばれています。
入れ歯のような形の装置をネジで調整して、少しずつ歯列の幅を広げていく治療です。
歯を並べるスペースがない状態で、無理に歯列を整えようとすると前歯が押し出されてしまい、出っ歯の原因になる可能性があります。
そうならないために、歯列の幅を広げて調整するのです。拡大床は歯を動かすのではなく顎を広げて矯正治療を行うため、顎の骨格の改善にも効果が望めます。
歯列を広げるだけで、歯並びが整う可能性もありますが、他の矯正治療と組み合わせて治療を行うこともあるのです。
拡大床の矯正費用
拡大床を使った治療だけではなく、矯正治療は保険が適用されません。そのため、どうしても費用が高額になります。
その中でも拡大床の費用は比較的安価になっていて、相場は20~30万円ほどです。
床矯正のための精密検査にかかる料金(3万円ほど)、装置を調整するための料金(2千円~1万円ほど)も費用もかかります。
また、矯正を終えた後に歯並びの後戻りを防ぐための保定期間があり、そのときに使用する保定装置とメンテナンスの費用も必要です。
拡大床で矯正するメリット・デメリット
拡大床を使った矯正治療にはメリットが多いですが、同時にデメリットも存在します。
治療方法を決めるときは両方を理解しておく必要があるのです。ここでは、拡大床で矯正をするメリット・デメリットについて解説していきます。
拡大床で矯正するメリット
拡大床で矯正をするメリットは、歯列を広げて歯並びと顎の骨格を改善できることです。
成長期である子供のころから使用すれば、永久歯が生えそろうためのスペースを確保できます。上顎の骨を広げることで、口呼吸から鼻呼吸への改善も望める可能性があるのです。
歯列矯正をするときは歯を並べるスペースを作るために、抜歯の処置をすることがありますが、拡大床での矯正では抜歯は必要ないケースもあります。
抜歯をすると痛みもありますし、精神面でも負担があるため抜歯の必要がなくなるのは、大きなメリットです。
拡大床で矯正するデメリット
拡大床を使った矯正は、顎の成長が利用できる子供の治療に適しているとされていますが、大人でも適用できる可能性があります。
ただ、すべての症例に適応できるわけではありません。拡大床での矯正は適応する症例が限られることがデメリットです。
また、拡大床を装着して慣れるまでは違和感があることもデメリットになります。1~2週間で違和感にも慣れてるはずです。拡大床を装着していると、発音に影響が出ることもあります。
拡大床の種類
一口に拡大床といっても種類がいくつかあり、それぞれに特徴があります。ここでは拡大床の種類を紹介していきます。
拡大床(可撤式)
歯列を外側に広げるための装置です。自分で着脱可能な装置のため、食事のときや歯を磨くときに邪魔になることがありません。
ネジは週に1回程度。ゆっくり歯列を広げていきます。顎の拡大というよりも歯列の拡大がメインですがケース次第で顎にも効果が出る可能性があります。
急速拡大装置(固定式)
名前の通り拡大するためのネジを回すペースが速い矯正装置です。1日に1~2回、回して歯列と顎を拡大していきます。
顎の骨も拡大できるため、骨格のバランスの改善もできるのです。固定式のため自分で着脱はできません。
一般的に上顎が成長する10歳までに使用しますが、大人でも使用できるケースがあります。
クオードヘリックス(固定式)
固定式の拡大装置です。急速拡大装置よりも強い力がかからないため、痛みも少なく、ある程度は望む位置に歯を並べることが可能です。
拡大するスピードは拡大床と急速拡大装置の中間くらいです。3~5日おきに装置を広げます。
咬合挙上床(ジャンピングプレート)
奥歯を噛んだときに前歯が見えにくくなることを咬み合わせが深いといいますが、咬合挙上床は、その咬み合わせが深いケースの治療に使用する装置です。
自分で着脱できる装置のため、使用時間などを患者さん自身でしっかり管理する必要があります。
拡大床の正しい使い方
拡大床は正しい使い方をすることが重要で、間違った使い方やお手入れをすると、矯正の効果が出ないことや、装置が破損する可能性があるのです。
ここでは拡大床の正しい使い方とお手入れの方法を紹介していきます。
装置の仕組み
拡大床は拡大するためのネジとワイヤー・レジンで作られていて、拡大するためのネジは装置の真ん中にあるのです。
ネジを回すための棒を、拡大ネジの穴に差し込んで回すことで歯列の幅を広げていきます。週に1回、90度だけ回すのです。1カ月で1mmずつ拡大していく計算になります。
装着方法
拡大床の装着時間は1日8時間以上です。連続で8時間以上でというわけではありません。トータルで8時間以上になるようにすれば問題はありません。
ただ、1回の時間は30分以上の装着が望ましいです。細切れでもよいですが、8時間以下にならないことが重要になります。寝るときには必ず装着するようにして下さい。
上顎用と下顎用の見分け方は、幅が広く横長のほうが上でU字の装置が下です。拡大をするタイミングは歯科医で指示されます。
お手入れの方法
拡大床の普段のお手入れは、水かぬるま湯で洗浄をします。歯ブラシで優しくブラッシングをすると汚れが落としやすいです。
拡大床のブラッシングのときに歯磨き粉は使わないようにして下さい。歯磨き粉には研磨剤が入っているため、装置に傷がついてしまいます。
超音波洗浄機を使うのもよいです。矯正器具用の洗浄剤を使って、つけ置きしておくと除菌もできて嫌な臭いを予防できます。
拡大床を洗浄するときには熱湯は使わないようにして下さい。拡大床が変形してしまう可能性があります。入れ歯用の洗浄剤や台所用洗剤の使用もNGです。
拡大床が破損をしたら、取り替えなければなりません。細かい傷がついてしまうと、そこに汚れが溜まってしまうため、洗うときには強くこすらないように気をつけて下さい。
拡大床の注意点
拡大床の使用には注意することがあり、気をつけておかないと治療が長引くこともあります。また口腔内のトラブルにつながることもあるのです。
拡大床の矯正で、注意をしておいてほしいことを紹介していきます。
必ず医師の指示を守る
拡大床の矯正治療は、患者さんの症状や使う装置によって拡大床のネジを回すタイミングが変わります。
詳しい回数やタイミングは、治療を始めるときに歯科医から指示があるはずです。
歯科医から指示されることは、治療を順調に進めていくうえで大切なことが多く、守らないと治療が長引くことや、効果が現れないことになりかねません。
歯科医に指示されたことは、しっかり守るようにして下さい。
痛みがあったらすぐ医師にかかる
拡大床を使用しているときに、痛みが出ることがあります。多くの場合は、歯を動かすときの痛みです。
治療を始めたばかりのころや、ネジを回して歯列の幅を広げたときなどに痛む場合は、歯が動くときの痛みのため少ししたらおさまってきます。
拡大してしばらくしても痛みがおさまらない・痛みが強い場合は、1つ前の拡大で、歯がうまく動いていないことが原因の可能性があるのです。
この場合は拡大床がきちんと装着されているか確認をしてみて下さい。もし、装置が浮いている場合はネジを逆に回して、ぴったり装着できる位置に戻します。
そのまま使用してみて、それでも痛い場合は歯科医に相談をして下さい。
また、歯茎に装置が当たって痛くなっている場合は、歯茎や粘膜が傷ついてしまうことがあります。そうなると口内炎になる可能性もあるのです。
この場合は、拡大床の使用を中止して早めに歯科医に連絡をして下さい。装置が歯茎や粘膜に当たらないように調整できます。
拡大床に限らずですが、矯正中に痛みがある場合などトラブルがあったときは、できるだけ早めに担当の歯科医に相談をして指示を仰いで下さい。
拡大床の矯正は実績あるプロに相談しよう
拡大床を使った矯正治療は、子供が主な対象ですが大人にも適用されることがありますが、誰でもできるわけではありません。
患者さんの口内の状態や症例によっては拡大床ではなく、別の矯正方法がよい場合や、併用する必要がある場合があるのです。
無理に拡大床で矯正をしようとすると、治療に何年もかかってしまうことがあります。
無理に歯列を並べた影響で、歯並びが整うどころか悪化するなど、トラブルになることもあるのです。拡大床の矯正治療を行う歯科医は慎重に選ぶようにして下さい。
実は矯正歯科の看板を掲げている歯科医でも、矯正専門ではないところもあります。
矯正には専門の知識と技術、経験が必要な分野です。患者さんに合った矯正の治療方法を提案するには、しっかりした実績も大事になります。
矯正は判断を間違えると、悪化や別のトラブルが出る可能性があります。
少しでも不安や疑問を感じた場合は、治療を始める前にセカンドオピニオンにかかるなど、信頼のできる歯科医を選んで治療を進めるようにして下さい。
まとめ
今回は拡大床についての解説をしてきました。拡大床の目的は歯列の幅を広げて、歯を並べるためのスペースを作ることです。
装置も種類があって、患者さんに合わせた治療が必要になります。メリットとともにデメリットも存在するため、どちらも理解したうえで信頼できる歯科医での治療が重要です。
また、矯正中は歯科医の指示に従いトラブルが起こったときは、放置しないで担当の歯科医に相談を。
矯正治療は、矯正専門の資格を持った実績のある歯科医で受けるようにして下さい。