【監修:青山健一】
目 次
矯正治療は、見た目の悪さや痛みなどのストレスを伴うもの。そんなイメージから、歯科矯正を敬遠してしまう方も多いです。
たしかに矯正治療によるストレスはゼロではありません。しかし、治療法や矯正装置を工夫すれば、ストレスはある程度軽減できます。
今回は、矯正治療に伴う主なストレスと、ストレスを解消するための方法について解説します。矯正治療をご検討中なら、ぜひご覧ください。
矯正治療のストレスってどんなストレス
矯正治療のストレスは、矯正装置によって発生することが多いです。具体的には、痛み・違和感・見た目などがあります。
その他、治療期間の長さにストレスを感じる方もおられます。それぞれの内容を具体的にみていきましょう。
痛み
矯正装置をつけると、さまざまな場面で口の中が痛むことがあります。具体的な場面は以下の4つです。
【矯正治療に伴う痛み】
- 歯の移動に伴う痛み
- 食事中の痛み
- 装置が口にあたる痛みや口内炎
- 口の中を噛む
矯正治療は、弱い力をかけて歯を移動させる治療法です。歯が動くときは歯肉の組織に負荷がかかるため、歯ぐきなどが痛むことがあります。
痛みの種類は人さまざまです。たとえば歯の根元がキリキリ痛むこともあれば、歯が浮いたり、ムズムズしたりすることもあります。
とくに矯正装置をつけ始め~1週間程度は、痛みが出やすい期間です。この期間は、食事中の咀嚼などでも痛みを感じます。
痛みは1週間ほどで引くのがほとんどです。しかしワイヤーの調整をすると、再び痛みに悩まされることもあります。
矯正装置のワイヤーが口の中や唇を傷つけることも少なくありません。装着に慣れないうちは、頬の内側や舌を噛むことも多いです。
さらに矯正装置が常時接触する箇所は、口内炎ができやすくなります。痛みがあまりにひどいときは、担当医に相談しましょう。
違和感
口の中につねに矯正装置を装着するため、違和感はぬぐえません。たとえば以下のケースが代表的です。
- 食べかすがひっかかる
- 歯磨きや矯正装置の手入れがたいへん
- 話しづらくなる
矯正装置をつけると、どうしても歯と矯正装置の間に食べ物がつまりやすくなります。しかも矯正中は、歯磨きにもコツが必要です。
歯磨きや矯正装置の手入れは次第に手慣れるものですが、つけ始めなどはストレスを感じるかもしれません。
また、矯正装置をつけると舌が動かしにくくなるため、声がくもったり、滑舌が悪くなったりすることがあります
こちらも、ひと月もすれば慣れることが一般的です。慣れるまでは、日常生活や仕事での会話が不便になるかもしれません。
見た目
ブラケット矯正は、口を開いたときにワイヤーが丸見えになります。あるいは口を閉じていても、口元の盛り上がりが気になるケースもあります。
見た目が気になりやすいのは、やはり他人との会話中です。職業によっては仕事に支障が出るかもしれません。たとえば接客業の方です。
見た目の問題は食事にも影響を及ぼします。食べかすのひっかかりが気になって、食事に集中できないというケースも多いからです。
とくに大人の矯正治療は、見た目が恥ずかしいと感じる方が多いです。単なる見た目の問題とはいえ、ストレスには違いありません。
治療期間
矯正治療期間は、当然ながら矯正装置を装着し続けます。矯正期間は個人差があるものの、1~3年程度が一般的です。
部分矯正でも、最低数カ月~半年はかかります。その間、痛み・違和感・見た目の問題がつねにつきまとうわけです。
さらに、矯正装置が外れても治療は続きます。矯正後の歯は動きやすいため、後戻りを防ぐ治療が必要なのです。
矯正後は、リテーナー(保定装置)をつけて歯列を固定させます。この期間は保定期間と呼ばれます。
保定期間は平均して約3年ぐらいになります。
矯正中・保定中には、医師による定期的なチェックも必要です。つまり、歯科医院に通わなければなりません。
通院頻度は、矯正が終わってから6~12か月に一度が平均的です。
そう頻繁ではないものの、矯正治療期間が長ければ、その分通院の負担も大きくなります。
痛みや違和感のストレスを軽減するには
痛みを軽減するアイテムの併用や、マッサージが有効です。具体的な方法をみていきましょう。
痛みの改善
矯正治療の痛みを改善できるアイテムには、以下の4つがあります。
- ワックス
- プレイスガード
- ソフトプレート
- 痛み止め
ワックスもプレイスガードも口内をガードするアイテムです。具体的には、矯正装置の凹凸部分に取り付けて使用します。
ワックスは半透明の粘土みたいなものです。一方、プレイスガードは樹脂製が一般的です。いずれも自分で適当な大きさにちぎって使用します。
ちなみに、ワックスは多少飲み込んでも人体に害はありません。ただし、歯磨き後は清潔なものと取り換えましょう。
ソフトプレートは、歯が動くときの痛みに有効です。歯型のような形状をしており、素材は樹脂です。
ソフトプレートの使用法は「噛みしめる」ことです。歯が痛むときに10回程度強く噛みしめると、痛みの軽減が期待できます。
いずれのアイテムも、多くの歯科医院で取り扱っています。痛みがある場合は担当医に相談してみましょう。
どうしても痛みが引かない場合は、鎮痛剤の使用も一つの方法です。鎮痛剤は病院で処方してもらうほか、市販品を使ってもかまいません。
自力で痛みを軽くしたい場合は、「歯茎マッサージ」を試しましょう。歯茎の血流が改善されるため、痛みが緩和されます。
指の腹や電動歯ブラシを使って歯ぐきを優しく刺激してください。強い刺激は、かえって痛みを強める可能性があるため控えましょう。
痛みの少ない装置による改善
最近は、痛みが少ない矯正装置も増えています。
- 小型のブラケット装置
- オーダーメイドのブラケット装置(インコグニト・ハーモニー)
- 負荷の少ないワイヤーを工夫する
- セルフライゲーションブラケット
- マウスピース矯正
小型のブラケット装置やオーダーメイドのブラケット装置は、口の中でこすれにくいため、痛みの軽減が期待できます。
負荷の少ないワイヤーは、ニッケルワイヤーやニッケルチタンワイヤーなどが代表的です。形状記憶合金とも呼ばれる素材です。
弱い力でゆっくり負荷をかけるため、歯が動くときの痛みをさほど感じません。細めの形状で、口の中でこすれにくい点もメリットです。
近年注目を集めているのが、セルフライゲーションブラケットです。小さな力で効果的に歯を動かせるため、従来より大幅に痛みを軽減できます。
矯正を短期で終わらせたい方にもおすすめです。ただし、最新の治療法であるため、従来のブラケット矯正より費用は高めです。
ワイヤーによる矯正に抵抗があるなら、マウスピース矯正を検討しましょう。痛みが少ないほか、見た目が目立ちにくいのが魅力です。
違和感の改善
矯正装置による違和感は、実は自分で工夫するしかありません。具体的なポイントは以下のとおりです。
【食事中の違和感の改善】
- 食べ物は小さく切って少しずつ口に運ぶと、食べかすが挟まりにくい
- 少なくとも装置のつけ始め時期は、歯に挟まりやすいものは避ける
【歯磨きの違和感の改善】
- 歯ブラシは、毛の細いもの・毛束の多いものを使う
- ワンタフト歯ブラシ・デンタルフロスなどを併用する
- 殺菌効果のあるマウスウォッシュで口内を清潔に保つ
【話しにくいときの違和感の改善】
- 小さめのブラケット装置を利用する
- 大事なスピーチやプレゼンの予定があるときは、矯正時期を調整する
見た目のストレスを軽減するために
最近は、目立ちにくい装置を使った矯正も増えています。見た目が気になる場合には利用を検討しましょう。
- 審美ブラケット
- マウスピース
- 裏側矯正
審美ブラケットは、金属ではなくプラスチックやチタン製の装置です。ワイヤーやブラケット部分が白色や透明になっています。
マウスピースも透明のものが多いです。金属特有のギラギラ感がないため、口を開いたときにさほど違和感がありません。
ただし、従来の金属製のブラケット矯正と比べると費用が高めです。歯並びの状態によっては利用できないこともあります。
裏側矯正は、矯正装置を歯の裏側に取り付ける方法です。見た目は目立ちにくいですが、痛みや装着中の違和感をおぼえやすい点がデメリットです。
治療期間のストレスを軽減するには
矯正治療はある程度時間がかかります。しかし外科手術や最新の矯正方法を利用すれば、矯正期間を短縮できます。
- コルチコトミー(外科手術)
- セルフライゲーションブラケット
- インプラント矯正
インプラント矯正は、歯茎に小さなネジを埋める方法です。強固な支点を確保できるため、効率的な矯正が期待できます。
痛みが少なく、幅広い歯並びに対応できる点もメリットです。ただし、局所麻酔を伴うことに留意してください。
いずれの方法も矯正効果が高い分、従来の歯列矯正と比べると費用がかかります。メリットとデメリットを比較しながら、利用を検討しましょう。
その他の矯正中のリスク
歯列矯正には口内トラブルのリスクもあります。矯正治療による口内トラブルは、対策次第で回避も可能です。
無用なストレスを避けるためにも、どのようなリスクがあるのかを把握しておきましょう。
虫歯や歯肉炎
矯正装置をつけていると、どうしても歯磨きしづらくなります。磨き残しが虫歯や歯周病に発展することも少なくありません。
とくにブラケット矯正は磨き残しのリスクが高いため注意してください。必要に応じて、歯間ブラシやフロスを併用しましょう。
知覚過敏
知覚過敏とは、本来内部に覆われているはずの「象牙質」が露出することで、歯に痛みを感じる状態です。
矯正治療中は、歯の移動に伴い、歯茎に隠れていた象牙質が露出することがあります。時間が経つにつれ、痛みは治まるのが一般的です。
歯根吸収
歯の根っこが短くなる現象です。歯が歯茎の中で不安定な状態になるため、極端な場合は抜けることもあります。
歯根吸収が起こりやすいのは、歯に過度な負荷がかかった場合です。リスクを減らすためにも、矯正治療は無理のない範囲で行いましょう。
歯肉退縮
歯茎が後退して、歯の根っこが露出する状態です。原因の多くは、矯正装置から歯にかかる圧力が大きすぎることです。
歯茎と歯の間に隙間が出ると、その部位に細菌が繁殖しやすくなります。歯周病や歯の抜け落ちに発展するケースもめずらしくありません。
対策としては、歯に負担をかけないような矯正方法や、無理のない治療計画が求められます。
後戻り
矯正治療によって移動させた歯が、元の位置に戻ってしまうことです。矯正後に保定をしっかり行うことで予防できます。
食いしばりが危険な理由
食いしばりとは、上下の歯を強くかみ合わせることです。歯列矯正中の食いしばりは、治療に悪影響を及ぼします。
矯正治療中、歯には横方向の力がかかります。ここに、食いしばりによって縦の圧力がかかると、歯が動きにくくなるのです。
すると矯正の効果が思うように出なかったり、矯正期間が延びたりしかねません。歯の欠け・折れや、頭痛・肩こりの原因にもなりえます。
マウスピース矯正の場合は、食いしばりによってマウスピースが破損することもあります。破損した場合は、ただちに歯科医院で作り直しましょう。
このように矯正中の食いしばりは、治療期間を長引かせるおそれや、無駄な出費を促すことがあります。
もともと食いしばりのクセがある方は、少なくとも矯正期間中は、意識して食いしばりを止めるようにしましょう。
なお、食いしばりの原因の多くは、ストレス・緊張時に無意識に力むことです。食いしばりを予防するには、ストレスの原因の解消も大切です。
矯正中のストレスで悩んだら専門医に相談
矯正治療中のストレスを我慢する必要はありません。とくに痛みや違和感は、矯正治療が適切でないサインの可能性もあります。
適切でない矯正治療は、歯周病や歯根吸収・歯肉退縮といった口内トラブルのリスクを高めます。
無用なトラブルを避けるためにも、ストレスを感じたときはすぐに歯科医師に相談してください。
まとめ
矯正治療は多くの場合、長い期間を要します。その間、ずっとストレスを我慢するのは心身の健康によくありません。
歯列矯正によるストレスや不快感があるときには、信頼できる歯科医師に相談することが大切です。