【監修:青山健一】
目 次
歯列矯正では、矯正が終わったあとにもさまざまな処置を行います。たとえばリテーナーという装置を使ったケアが代表的です。
もし歯列矯正後、なにもケアをせずに歯を放置してしまうと、後戻りなどのトラブルが起きかねません。
そのため歯列矯正後も、歯科医院でしっかりケアを受けることが大切です。本記事では、矯正後のアフターケアの重要性や方法を解説します。
歯列矯正を検討中の方は、ぜひ最後までご覧ください。
矯正治療後もケアが必要?
歯列矯正はアフターケアが肝心です。矯正後の歯をそのまま放置すると、さまざまなリスクが高まるためです。
歯列矯正は一般的に、ある程度の期間とお金がかかります。しかしその結果として、美しく健康的な歯並びを手に入れられるのです。
しかしアフターケアを怠ると、せっかく美しく整えた歯並びが、再び乱れることも少なくありません。
なぜなら矯正治療後の歯は、非常にデリケートであるためです。手間と時間をかけたのなら、なるべく長く美しい歯並びを維持しましょう。
そのためにも、歯列矯正後には入念なアフターケアが必要です。
矯正治療後に行うべきケアとは
矯正治療後に行うケアとして一般的なのが「保定」です。専用の装置を使って歯を固定させます。
矯正終了後の歯は動きやすい状態です。そこで保定期間を設け、歯を固定させることで美しい並びを維持するわけです。
保定期間では、「リテーナー」という保定装置を歯に装着します。リテーナーの形状はさまざまですが、マウスピース型などが一般的です。
リテーナーは、基本的には、歯磨き・食事以外はつねに装着します。保定期間終盤になると、装着時間を少しずつ減らしていきます。
歯並びが安定すれば、保定期間は終了です。保定期間は個人差があるものの、3年ほどが平均的です。
長ければ3年以上かかることもあります。基本的には矯正期間と同じか、やや長めの期間が必要です。
リテーナーを正しく装着しないと、保定期間が長引くおそれもあります。リテーナーの装着は、歯科医の指導に従って正しく行いましょう。
矯正治療後の注意点
矯正治療後には、大きく2つの注意点があります。歯列矯正の効果を台無しにするおそれもあるため、しっかり対策しましょう。
後戻りのリスク
後戻りとは、歯列矯正後に歯が元の位置に戻る現象です。矯正後の保定が十分でない場合に起こりやすくなります。
ただし保定を行ったにもかかわらず、歯が後戻りすることもあります。理由は、噛み合わせなどによって歯はつねに動いているためです。
矯正中・保定中は定期的に歯科医院でチェックを受けるため、後戻りが起こればすぐに対処できます。
しかし治療後は患者様が自身で歯並びを管理しなければなりません。場合によっては、後戻りを見逃す可能性もあります。
歯が後戻りすると、せっかく美しく整えた歯並びが再び乱れてしまいます。つまり、矯正治療が「なかったこと」になってしまうのです。
生活習慣の改善
矯正治療後は、生活習慣や自分のクセに注意しましょう。何気ない習慣やクセが、歯の後戻りに拍車をかけることもあるためです。
たとえば頬杖やうつぶせ寝などは、歯の後戻りを誘発する代表的な原因です。
美しい歯並びを維持するためにも、歯並びに悪影響のある習慣・クセは改善しましょう。
後戻りが起こる原因
歯列矯正後の代表的なリスクが後戻りです。せっかくの矯正治療が台無しになることも少なくありません。
後戻りを防ぐには、まず原因を知ることが大切です。歯の後戻りの代表的な原因を2つ紹介します。
歯が元の位置に戻ろうとする
矯正後の歯には、元の位置に戻ろうとする習性があります。これが歯の後戻りの代表的な原因です。
矯正中は矯正装置を使って歯に負荷をかけ、歯列を整えていきます。このとき、実際に負荷がかかっているのは歯の周りの組織です。
具体的には、「歯根膜」や「歯肉線維」という組織に負荷をかけています。歯根膜や歯肉線維は伸縮性がある組織です。
そのため、矯正装置によって負荷をかけられると伸びてしまいます。結果として、歯周組織に支えられている歯が一緒に移動するわけです。
しかし伸縮性がある分、負荷から解放されると元に戻ろうとする力も働きます。矯正装置によって伸びた分、縮もうとするのです。
結果として、歯根膜や歯肉繊維に包まれている歯も一緒に元の位置へと動いてしまいます。これが、歯の後戻りのメカニズムです。
矯正治療終了直後は、歯根膜や歯肉線維の状態が不安定です。そのため、保定期間を設けて歯周組織を固定化させる必要があります。
保定期間が十分でない場合は、歯周組織の状態が不安定なまま負荷が外れるため、歯が元の位置に後戻りしやすくなります。
日常生活の癖
日常生活の何気ない癖も、歯の後戻りを招く代表的な要因です。後戻りを誘発しやすい癖には、たとえば下記があります。
- 頬杖
- うつぶせ寝・横向き寝
- 口呼吸
- 唇の巻き込み
- 舌癖(ぜつへき)
とくに舌癖には注意しましょう。簡単にいえば、舌のポジショニングのことです。舌は、先端が上あごについている状態が正常です。
一方、舌が正常な位置を保てなくなると、舌が前歯の裏側に密着したり、歯の間からはみ出したりすることがあります。
歯が前歯に密着している状態は、すなわち舌で前歯をつねに押している状態です。前歯に絶えず負荷がかかるため、受け口や出っ歯の原因となります。
とくに矯正後の歯は動きやすくなっています。舌癖が原因で歯が後戻りすることも少なくありません。
舌の位置は普段から意識しにくいのが実際のところです。舌癖がある方でも、自身の癖に気づいていないケースも多いです。
矯正治療後に後戻りを防ぐポイント
歯の後戻りを防ぐための3つのポイントを解説します。ぜひ美しい歯並びの維持に役立ててください。
保定装置を正しく使う
保定装置は医師の指導に従って正しく装着しましょう。装着時間や装着方法などは、歯科医院でしっかり指導を受けてください。
一般的には、矯正後1年目は歯磨き・食事を除いてほぼ丸1日装着します。2年目以降は、装着時間や頻度を減らしていくことが多いです。
ただし、具体的な装着時間は個人差があります。自己判断はせず、医師の指示に従って装着しましょう。
勝手に装着を中断したり、装着時間を減らしたりする行為は、後戻りの大きな原因となります。
歯並びに影響する癖を治す
歯並びに影響する日常生活の癖の改善に取り組みましょう。とくに保定期間は歯が動きやすい期間でもあります。
歯並びを乱すような癖はなるべく意識して改善してください。たとえば頬杖や睡眠中の体位には十分注意しましょう。
また、前述のとおり舌癖も歯の後戻りの大きな要因となります。ただし舌癖は無意識に出ていることが多いため、自分で気づくのは難しいかもしれません。
歯科医院に定期的に通い、歯並びや舌の位置をチェックしてもらうことで、後戻りに関係する舌癖を改善しやすくなります。
おなじく口呼吸も注意したい癖です。口がつねに開いていると、唇が歯を内側に抑え込む力が弱くなります。
歯が前に飛び出しやすくなるため、歯並びが乱れることも少なくありません。口呼吸の癖がある方は、意識して鼻呼吸に切り替えましょう。
なお、舌癖や口呼吸の改善には「MFT(口腔筋機能療法)」が有効です。MFTは原則として歯科衛生士・歯科医の指導の下で行います。
定期的なメンテナンス
定期的に通院し、メンテナンスを受けましょう。歯並びの状態によっては、保定装置の取り換えや調整を行います。
ちなみに保定期間が終了した後も、定期的に歯科医院に通院するのがベストです。理由は、歯は絶えず移動し続けるためです。
矯正の有無にかかわらず、歯は毎日少しずつ移動しています。歯が動く原因には、噛み合わせや舌の圧力などがあります。
つまり、保定したからといって歯の後戻りが絶対に起きないわけではありません。なお、後戻りが起こっても、早期の対策により深刻な状態は予防できます。
後戻りの早期発見には、定期的な歯科医師のメンテナンスが必要です。あわせて歯周病や虫歯チェックを受けると、健康的な歯を長く維持できます。
後戻り予防に使う保定装置の種類
保定装置にはいくつか種類があります。それぞれメリット・デメリットがあるため、歯科医師などと相談のうえ、選択しましょう。
代表的な保定装置を3種類紹介していきます。
マウスピースタイプ
透明なマウスピースを使用します。「クリアリテーナー」「インビジブルリテーナー」とも呼ばれます。
薄手の樹脂製のものが一般的で、歯列全体を覆う形状です。透明であるため、口を開いても目立ちにくい点がメリットです。
ただし耐久性は低く、噛みしめなどによって破損しやすいというデメリットがあります。そのため、噛み合わせの改善には向いていません。
【メリット】
- 透明で目立ちにくい
- 薄手であるため、装着中の違和感が少ない
- 装着が簡単
【デメリット】
- 強くかみしめると破損しやすい
- 乱暴に取り外すと壊れることがある
- 噛み合わせの改善には向いていない
フィックスリテーナー
フィックスリテーナーは、取り外しできないタイプのリテーナーです。下あごの前歯6本程度にワイヤーを通して歯列を固定します。
ワイヤーは歯の裏に装着するため、見た目にはさほど目立ちません。ただし自分では取り外しできないため、歯磨きや食事中の煩わしさがデメリットです。
【メリット】
- 自分で管理する必要がない
- 見た目が目立ちにくい
- 費用が比較的安い
- 噛み合わせの改善に向いている
【デメリット】
- 歯磨きしにくいため、虫歯や歯周病のリスクがある
- ワイヤーと歯の接着が外れることがある
- 歯が後戻りしたときに修正がしにくい
プレートタイプ
プレートタイプは、リテーナーの中でももっとも一般的です。歯の表側にワイヤーを通し、裏側はプラスチックで固定します。
プレートタイプはワイヤーで歯列全体を覆うのが特徴です。そのため、他の保定装置に比べると見た目が悪くなります。
一方、ワイヤーで歯列全体をしっかり締め付けるため、後戻りが起きにくい点がメリットです。噛み合わせの改善にも適しています。
取り外しできるため、歯磨きや食事にも支障をきたしません。
【メリット】
- 取り外しできる
- 噛み合わせの改善に向いている
- 後戻りを効果的に予防できる
- 耐久性が高く、破損時にも修理が簡単
【デメリット】
- 表側にワイヤーがくるため、審美性が劣る
- 費用が高い
矯正治療後の不安は歯科医に相談しよう
矯正治療後は、歯や口の中は非常にデリケートな状態です。歯の後戻りだけでなく、歯肉の後退などのリスクも高まります。
少しでも気になる症状がある場合は、すぐに歯科医に相談しましょう。審美面だけでなく、歯や歯肉の健康を保つためにも重要です。
歯の後戻りは舌癖などの日常習慣で起こることも多いです。癖は自分では気づきにくいため、できれば歯科医院でチェックを受けましょう。
まとめ
歯列矯正後は歯の後戻りに注意しましょう。保定をしっかり行うほか、日常生活の習慣の見直しも重要です。
歯の後戻りは、早期に対策すれば予防・改善が可能です。しかし自分では気づきにくいため、発見が遅れることも少なくありません。
早期発見につなげるためにも、定期的に歯科医のチェックを受けましょう。