【監修:青山健一】
目 次
自分の口元を鏡で見て、歯並びや噛み合わせのバランスが良くないと感じ「歯科矯正」を考える人は多いことでしょう。
歯並び以外に挙げられる噛み合わせが悪くなる原因の1つが、上下の顎のバランスの悪さです。
顎のバランスが悪い状態で長期間かみ合わせていると、全身に支障をきたす恐れがあります。
今回は顎のバランスを整える歯科矯正法である、ヘッドギアを使用した治療を解説します。
ヘッドギアの特徴
「ヘッドギア」は頭頂部や後頭部にベルトを掛けて固定・保持する矯正器具です。
大臼歯にフェイスボーというワイヤーを引っかけ、頭部に固定したベルトと繋ぐことで上顎を後ろに引っ張る力を加えて矯正します。
さらに、上顎大臼歯を後方に移動させ、上顎前歯を後退させるためのスペースを確保する効果も得られます。
ただし、口腔内の歯と頭部に固定したベルトを繋ぐため、見た目への抵抗感があるという人は少なくないでしょう。
顎の成長をコントロールする装置のため、主に子供の矯正で使用されます。
ヘッドギアによる矯正治療
ヘッドギアによる矯正は顎の成長をコントロールする矯正方法です。
具体的にどのような治療方法なのか解説します。
上顎の成長をコントロール
ヘッドギアは上顎の成長をコントロールすることを目的として行われる治療方法です。
そのため多くは顎骨の成長途中である子供を対象に行います。
成長の適切な時期に利用すると上顎の成長を無理なくコントロールができ、下顎の成長も正しく促す効果が期待出来るのです。
上顎が前方に大きく成長し過ぎてしまうと、上顎前突(出っ歯)となり下顎との噛み合わせのバランスも崩れてしまいます。
これによって不正咬合となり、口唇も閉じにくいことで口呼吸が癖付いて虫歯、歯周病のリスクも上がります。
このような事態を防ぐために、ヘッドギアで上顎の骨の過剰な成長を抑制するのです。
また、抑制する力は顎のバランスに合わせながら調整します。
ヘッドギア治療が効果的な症例
ヘッドギアは骨の成長する力を利用した矯正治療のため成長期の子供の上顎前突の治療に適しています。
他に、乳歯が早期脱落し永久歯が前方に倒れ込むのを防ぐ目的でも実施される治療法です。
この場合は上顎第一大臼歯に「バンド」といわれる針金のようなベルトを巻いて力を保持します。そのため、第一大臼歯が生えていなければなりません。
成人でも上顎大臼歯が倒れ込むのを防ぐ目的でこの治療を行う場合があります。
ヘッドギアを使うときに気をつけたいポイント
ヘッドギアは自宅で患者自身が着脱を行う矯正器具です。
そのため患者自身が毎日正しく使用しなければ治療の効果も得られません。
正しく使えば必ず効果も得られ、場合によっては使用期間が短縮できる場合もあります。
こうしたヘッドギアの効果を得るために、ヘッドギア使用時に気を付けたいポイントを解説します。
1日の着用時間を守る
まず気をつけるべきポイントが 1日の着用時間を守ることです。
ヘッドギアは、顎骨に弱い力を長時間かけていく治療方法のため、長時間使用すればするほど高い効果が得られます。
目安としての着用時間は1日17時間以上です。自宅にいる間は就寝時も装着しましょう。
食事や歯磨き時、運動をする際にはヘッドギアを外して構いません。
しかし1日の使用時間が、17時間に足りてなかった場合には、次の日などに足りない時間を補うよう時間を確保してください。
装着時に激しい運動はしない
ヘッドギア装着時には激しい運動はしないようにしましょう。
運動をすると、ワイヤーやベルトに外部から力が加わり破損する恐れがあります。
場合によってはワイヤーやベルトが切れてしまい、怪我をする危険性があります。
また、故意に引っ張ったり、無理な力を加わるような乱暴な扱いをすると故障の原因にもなります。
ヘッドギア装置時には激しい運動はせず、静かに過ごすことがオススメです。
装置を正しく使用する
ヘッドギアの装置は正しく使用しましょう。
フェイスボーにゴムを掛ける時は手順を守って必ず左右一緒に交換し、片方だけ無くしたり切れて締まったりした場合は左右共にゴムを交換します。
また、口の中で使用する器具のため、衛生面に十分注意し、外した際には必ず洗い、常に清潔な状態を保ちます。
ヘッドギアは歯科医師による定期的な調整が必要な装置です。自己判断で勝手な調整は行わず、必ず医師に相談しましょう。
ヘッドギアによる治療例
ヘッドギアは上顎前突が見られる子供の治療として行われるケースが多いものです。
ヘッドギアにより治療の前に、まずは上顎、下顎の成長分析を行ないます。
それぞれの成長具合を鑑みた上で、ヘッドギアを装着して上顎第一大臼歯を後方に移動させ、前歯を後退させる十分なスペース確保を行います。
ただし、顎が十分に成長をしても歯が大き過ぎて次の段階の矯正治療が必要になることがあります。
また、顎のスペースを作っても歯が並びきらないことがあるため、その場合は別の方法で矯正治療を行います。
ヘッドギアによる治療が可能かどうか知りたい方はぜひご相談ください。
ヘッドギア以外の顎の成長をコントロールする矯正装置
ヘッドギア以外にも顎の成長をコントロールすることで矯正を行う治療方法があります。
具体的にどのような矯正装置があるのかご紹介します。
チンキャップ
チンキャップとは別名オトガイ帽装置とも呼ばれる矯正装置です。
チン=下顎にプレートを当て、下顎の骨が前方に成長し過ぎるのを防ぎます。
ヘッドギア同様に後頭部や頭頂部にベルトを巻き、下顎にプレートを当てて使用する装置です。
取り外し式で、患者さんが自宅で使用し、定期的に歯科医師が調整して治療を行います。
装置には針金やワイヤーを使用しておらず、布製のベルトとゴムかプラスチック製のプレートで構成されています。
そのためヘッドギアより怪我などの危険性は低く、子供でも使いやすいです。
主に就寝時に使用しますが、1日10時間以上と着用時間が長い方が短期間で高い効果が得られます。
フェイシャルマスク
フェイシャルマスクもチンキャップ同様上顎より下顎が前方に出ている状態の治療で使われます。
しかし矯正力のかけ方や構造がチンキャップとは少し異なり、下顎の成長を抑制すると同時に、上顎の成長促進も目的としている装置です。
上顎を前方に牽引するワイヤーを口の中に装着し、額と顎にプレートを当て、後頭部にベルトを掛けて固定します。
下顎が動くと上顎が前方に引っ張られる作用が働き、下顎は後方に引っ張られることで顎のバランスを整えます。
取り外し式で、1日12時間以上の使用が望ましいですが、ワイヤーを使った装置で怪我の危険があるため、スポーツ時などは外しましょう。
丁寧に正しく使用し、歯科医師が定期的に調整することで効果が得られます。
ヘッドギア治療に代わる矯正方法
ヘッドギア治療は顎の成長をコントロールしての矯正治療としては有効です。
しかしヘッドギアを装着した際の見た目や自分で着脱しなければならない面倒さなどによって、あまり気が進まないという人もいるでしょう。
ヘッドギア治療で行う矯正は、他の矯正方法でも実現することが可能です。
最後に、ヘッドギア治療に代わる矯正方法をご紹介します。
ワイヤー矯正
歯科矯正の代表的な治療方法といえばワイヤー矯正です。
歯の表面に歯に銀色の器具(ブラケット)を固定するため、口元の器具が目立つことに抵抗を感じる人は多いでしょう。
しかし、透明なブラケットやホワイトワイヤーなどが開発され、目立ちにくいものも登場しています。
他にも、歯の裏側にワイヤーやブラケットを固定する裏側矯正も目立ちにくい治療法です。
金具が全て裏側にあるので、矯正器具を付けていること自体見えにくくなります。
ただしこの場合、舌に金具が触れるので発音や、食事、歯磨き時にかなり違和感や不快感を感じやすくなります。
セルフライゲーションブラケット装置
ワイヤー矯正の一種に、ゴムや針金で締め付けないセルフライゲーションブラケット装置を使用した矯正方法もあります。
従来型のワイヤー矯正装置は、ブラケットとワイヤーをゴムや針金で締め付けて、歯と歯周組織に力をかけていました。
ただしこの場合ブラケットとワイヤーに摩擦が生じ、歯周組織へ過度なダメージがかかってしまいます。
セルフライゲーションブラケット装置ではそれを改善するため、ブラケットにワイヤーを掴むように開閉式の蓋が設置されています。
これによって摩擦力が軽減され、なおかつ弱い力でも歯が動くので効率的に治療が進めるのです。
無理な力を加えないので、歯周組織への過度なダメージを防げると同時に、歯根吸収など歯へのダメージも抑えられます。
マウスピース矯正
目立ちにくい矯正方法の1つが、マウスピース矯正です。
マウスピース矯正は歯並びを3Dデータ化し、段階的に歯が動くよう計算され作成された専用のマウスピースを着用します。
透明なマウスピースのため普段から着けていても目立ちにくく、違和感も少ないことで人気の矯正方法です。
着脱可能のため、食事の際には外して普段と変わらず食事を楽しめます。
ただし着用時間が短くなればなるほど治療は遅れてしまうため、患者自身が自己管理を行えるかどうかで進行具合は変化してしまう方法です。
歯科矯正用アンカースクリュー
歯科矯正用のアンカースクリューとは、直径1~2ミリ、長さ6~10ミリ程で骨に埋め込む非常に小さなチタン製のネジです。
顎の骨に埋め込んで、臼歯の移動や、前歯を後方へ引っ張るときの固定源にするために使用します。
ヘッドギアを使用していた症例に対しても適用できる矯正方法です。
またこの矯正方法であれば、難しいとされた臼歯の移動方向が可能になります。
萌出し過ぎた臼歯を歯茎方向へ押して移動させる、または後方へ移動させることが可能なのです。
しかし小さいネジのため、骨と結合せず脱落する恐れもあります。
脱落した場合は再度場所をずらして埋入し、矯正治療完了後にアンカースクリューを除去します。
なお、埋入している間は炎症などを起こさないように十分なケアが必要です。
ヘッドギアで悩んだら専門医に相談
ヘッドギアは、ゴムの力が作用して上下の顎のバランスを整える装置です。
ゴムの力のバランスが崩れれば顎へかかる力のバランスも崩れ、期待する効果がえら得なくなってしまいます。
そのため装置を丁寧に扱い、ゴムの交換などのメンテナンスをしっかりと行う必要があります。
患者自身が注意しなければならないことが多く、ヘッドギアでの矯正治療は不安だという方もいることでしょう。
その場合は専門家に相談することで不安を解消し、前向きに治療を進めていくことが大切です。ぜひ専門医にご相談ください。
まとめ
今回はヘッドギアによる矯正治療についてご紹介しました。
ヘッドギアは特に子供の歯科矯正で用いられることの多いものですが、大人であっても効果のある治療法です。
ただし自分で着脱しなければならず、着用方法が間違っていたり、着用時間を守っていなかったりする場合は十分な効果は得られません。
患者自身の意思次第で治療の進行具合は変わってしまうのです。
適切な方法で十分な効果を得るためにも、歯科医師と相談しながら治療に取り組むことを心がけましょう。