【監修:青山健一】
目 次
街を歩いているときに、前歯に何やら針金のようなものを装着している人を見かける場合があります。
それが歯並びを治す矯正装置だと分かる方は多いですが、、どのように装着するのか、いつ交換するのかと詳しい内容はあまり知られていません。
ところが矯正装置に使うワイヤーは、重要な役割を担っている無くてはならないものなのです。
今回は、そんな矯正装置のワイヤーについてお話していきます。
ワイヤー矯正の概要
歯科矯正は歯列の位置や傾きを改善する治療で、矯正装置をつけて時間をかけて少しずつ動かします。
歯は通常では歯周組織にしっかりと支えられていますが、一定方向に力がかかり続けると破骨細胞の働きで移動しはじめるのです。
そして、骨芽細胞は歯が移動したあとにできた隙間を再生するだけでなく、移動完了した歯を安定的に支えるための歯周組織を形成します。
このとき歯に一定方向の力を加え続けるのがワイヤーの役目で、金属がもっている弾性力を利用しているのです。
ワイヤー矯正の種類
ブラケットと呼ばれる小さな器具を歯の表面に固定したものに、ワイヤーを通して矯正するためワイヤー矯正と呼ばれていますが、種類としては3つに分かれているのです。
①表側矯正
歯の表側に固定したブラケットにワイヤーを通すのが表側矯正といわれるもので、最も一般的である半面で審美性を気にする患者も少なくありません。
矯正装置が目立ってしまうのがどうしても気になる患者には、通常のワイヤーを白くコーティングしたホワイトワイヤーも選べます。
セラミック製や樹脂製のブラケットと組み合わせると、歯と同系色の矯正装置となり、かなり目立たないようにできるのです。
②裏側矯正
歯の表側のワイヤー矯正が目立つからとブラケットを裏側に固定しようと世界に先駆けて始めて実用化したのは日本人の藤田欣也医師だったのです。
リンガル矯正と呼ばれる裏側矯正では、歯の裏側形状が複雑であるためブラケットの固着力を確保するために、ある程度の大きさが必用とされてきました。
ところが三次元測定機の進化が歯科矯正にも改革をもたらし、歯の裏側形状に合わせたブラケットがつくれるようになりフルカスタムの小型化された矯正装置が生まれたのです。
しかし、インコグニト矯正やWIN矯正と呼ばれているフルカスタムの裏側矯正装置は開発したドイツでの製造となっていて費用がかさむ原因となっています。
③ハーフリンガル矯正
ハーフリンガル矯正は表側矯正と裏側矯正を混合した矯正で、上側の歯は裏側で矯正して下側の歯は表側で矯正します。
これは、側の前歯のワイヤーが目立ちやすいのに対して下側前歯は比較的目立ちにくいため、費用が相対的に安い表側矯正を選んだためです。
ワイヤー矯正の仕組み
矯正するときの歯の動きと歯周組織の働きについては既に説明しましたが、ここではワイヤーの働きについてもう少し詳しくお話します。
金属には弾性と呼ばれるもとの形状に戻ろうとする性質があり、さまざまなものに組み込まれているバネなどはこの性質を応用して衝撃を吸収しています。
矯正装置のワイヤーもこの性質を利用したもので、もとの形状に戻ろうとする力をブラケットに伝えて歯を移動させるのです。
また、患者ごとに矯正したい状態が異なるため、口腔内の歯列や形状を測定してワイヤー形状もカスタム化しています。
さらに、矯正が進む段階でも移動により口腔内の歯列が変化するため、その状態にも合わせる必要があるのです。
ご自身に合った治療方法について知りたいという方は、ぜひ無料相談をご活用ください。
ワイヤー交換の頻度
固定したブラケットにワイヤーを通して矯正を開始した場合、歯が移動するにつれてもとに戻ろうとする力が次第に弱まってきます。
素材に記憶形状合金が多くつかわれているため、塑性変形と呼ばれるもとに戻らない変化はおきませんが、歯の移動により変形量が少なくなると弾性力も落ちてしまうのです。
矯正治療ではワイヤーの弾性力が落ちてしまうと効率的に矯正治療を続けていくのが難しくなるため、定期的に状態に合わせたものに交換していきます
ここでのお話は矯正装置のワイヤー交換についてです。
およそ月1回必要
ワイヤー装着には高度の専門技術が必用とされているうえに口腔内損傷の危険性もあるため、患者自身で交換はできません。
また、歯を目標状態に移動させるためには数十種類のワイヤーが必要とされていてひと月ごとを目途に交換していくのです。
ワイヤーを交換した最初の12時間から24時間ぐらいが最も移動量も多く、それ以降は徐々に少なくなっていきます。
それは、交換したばかりのワイヤーの弾性力は強く歯を大きな力で移動するからで、次第に移動量も少なくなっていき歯周組織の再生もおこなわれるのです。
ワイヤー矯正では、このサイクルをひと月で回すように設定していて、定期健診時に合わせて交換するようになっています。
ワイヤーのトラブルが起きたら受診して
ワイヤーを交換したばかりのときは歯の移動量も多い事より痛みを感じる場合が少なくありませんが、24時間をすぎたあたりから徐々に緩和していくのが一般的です。
ただし、大きな痛みが続く場合は歯の移動以外の原因も考えられるため、放置せずに主治医の診察を受けるようにしてください。
また、ワイヤーに絡むトラブルが発生した場合もすみやかな受診が必用です。ここでは考えられるトラブルについて紹介します。
①ワイヤーがブラケットから抜けた
ワイヤーはブラケットにはめ込んで固定されていますが、稀に奥歯の部分で抜けてしまう場合があります。
この場合はワイヤーの先端が歯茎などの刺さって痛みを感じるため、放置せずに主治医に診てもらってください。
また、抜けていなくてもワイヤーの先端が歯茎や頬の内側に当たっても同じような痛みを感じる場合があるため注意が必要です。
このような場合は自分でなおすのは難しく、歯科矯正用のワックスをつかって問題になっている個所を覆う応急処置を覚えておくと役立ちます。
②ワイヤーが折れてしまった
ワイヤーが折れるケースは極めて稀ですが、もしおこってしまった場合は折れた部分で歯茎や頬の内側を傷つけないようにしなければなりません。
極端に飛び出している場合は、ニッパーなどで切断してから歯科矯正用のワックスで覆うようにしてください。
この場合はもうそのワイヤーをつかえないため、すみやかに主治医の診断を受けるのが必用です。
③リガードワイヤーが飛び出してきた
ブラケットにワイヤーを固定するときはリガードワイヤーと呼ばれる細いワイヤーがつかわれていますが、咀嚼や歯磨きなどが原因で飛び出してしまう場合があります。
もしリガードワイヤーが飛び出してきた場合は決して引っ張り出さずに、爪楊枝などの先端をつかって押し込むようにしてください。
何回も飛び出してくるような場合は主治医の診察をお勧めします。
なぜワイヤーを交換するの?
ここまで、ワイヤーの役割や交換の必要性について説明してきましたが、おらさいの意味も含めてまとめるとポイントは4つになります。
- ワイヤーの弾性力を応用して歯を移動させる。
- ワイヤーは最初の24時間ぐらいで大きく動かす。
- 歯が移動すると同じワイヤーでは合わなくなってしまう。
- ひと月ごとの検診のタイミングで交換してもらう。
歯科矯正は少しずつ歯を移動させて患者の痛みも最小限にとどめながら治療を進めますが、一気に移動させようとすると破骨細胞と骨芽細胞の働きが追いつきません。
そうなると矯正のための移動できずに歯周組織から歯が完全に離れてしまう可能性もあるのです。
ワイヤー矯正のメリット
ワイヤー矯正の歴史は古く、原型は20世紀初頭に考案されたエッジワイズ法といわれていて、今なおその基本的な考え方は変わっていません。
多くの技術革新を経てもワイヤー矯正が踏襲され続けているのはさまざまなメリットがあるからで、ここでは主なものをいくつか紹介します。
幅広い症例に適応している
ワイヤー矯正はマウスピース矯正とよく比較されますが、大きなアドバンテージは対応できる症例の幅が広い事です。
ワイヤー矯正はブラケットを固定さえできれば、通すワイヤーの形状は自由度が高いためさまざまな症例での矯正が可能になります。
一方のマウスピース矯正は移動量の大きな矯正や重度の叢生は不得意とされ、途中までワイヤー矯正ですすめてから切り替える場合もあるのです。
安定感がある
マウスピース矯正は脱着が容易であるのに対してワイヤー矯正は患者自身で脱着はできません。これはデメリットでありメリットでもあるのです。
マウスピース矯正は患者自身で脱着できる半面で、装着が不完全になっても気づけないデメリットがあります。
方やワイヤー矯正では外したくても外せないのがデメリットですが、歯科医院でワイヤー交換するので必ず適正に装着できるメリットがあるのです。
矯正装置が適正に装着されるワイヤー矯正は効果も安定的に得られる優位点があります。
調整が可能
ワイヤー矯正はブラケットさえ固定できればワイヤーで任意の方向に矯正移動できるのが大きなメリットとなっているのです。
また、マウスピース矯正では想定通りに矯正が進まない状況になったとき、アライナーをつくりなおさなければならないケースがおこります。
一方のワイヤー矯正ではブラケットはそのままでワイヤーだけ交換すれば対応できるできるだけでなく、同じワイヤーでも調整範囲が広いのです。
さらに、ワイヤーの先端が歯茎や頬の内側に当たる場合も、先端を曲げるだけで違和感を回避できます。
歯の移動が可能
矯正治療ではスペースを確保するために親知らずや大臼歯を抜歯する場合がありますが、これらのスペースを有効につかうためには多くの歯を大きく動かす必要があります。
これはマウスピース矯正がもっとも不得意とする治療で、ワイヤー矯正の基本が100年も変わらずに踏襲されてきた理由なのです。
ワイヤー矯正のデメリット
前面のワイヤーが審美性を損なってしまうというのがワイヤー矯正の大きなデメリットでしたが、これは裏側矯正ができるようになって解消されました。
それでも、構造上の避けられないデメリットが残っていて、ここでは違和感と虫歯や歯周病にかかわる懸念についてお話します。
違和感がある
ワイヤー矯正でブラケットやワイヤーが口腔内で突起物となって違和感を覚えてしまうのは構造的に避けられません。
特にブラケットのウイングと呼ばれる出っ張りを気にする患者は少なくないのです。
このウイングはワイヤーをブラケットにとめる細いリードワイヤーを引っ掛けるために必要で構造上なくせない部分なのです。
また、ワイヤーも電線を張ったような状態になってしまうため違和感は否めません。
このため表側矯正では唇が引っ掛かって口が閉じにくくなったり、裏側矯正では舌先に装置が触ってしまい唾液分泌が多くなったりする場合がおこってしまうのです。
虫歯や歯周病のリスク
矯正装置の突起物で別の問題もおこりやすくなります。それは食べかすが装置に絡みやすくなり残ってしまうのです。
食事後の歯磨きを丁寧におこなえばある程度は清潔に保てますが、食べかすが残りやすいのは否めません。
しかも、歯表矯正では食事中に装置に食べかすが引っ掛かってしまため、人前で食事をするのをためらってっしまう患者も少なくないのです。
ワイヤー矯正は食べかすが残りやすく虫歯や歯周病のリスクが高まってしまうため、食後の歯磨きを丁寧にして装置周辺を清潔に保つようにする必要があります。
通院時の注意点
ワイヤー矯正中の患者は主治医からひと月間隔で通院して矯正の進行状態確認とワイヤー交換するように指示されます。
自分自身で脱着をおこなわないワイヤー矯正では矯正装置の不適切な装着はおこりませんが、既に説明したトラブルは希におこってしまうのです。
臨時での受診をしなかった場合でも、メモなどを残して定期受診で漏れなく説明できるようにしてください。
また、定期受診はワイヤー交換のタイミングであると認識して自分勝手に時期をずらさないよう注意が必要です。
矯正治療をはじめたら、定期的な通院が必要になります。通院頻度やどのようなことを行うのかなど、気になることはぜひ無料相談を活用してご確認ください。
ワイヤー矯正の交換で疑問がある時は専門医に相談
ワイヤー矯正に限らず矯正中の患者は何かと不安や疑問を感じやすくなり、それを放置しておくとストレスになってしまいます。
不安や疑問についても定期健診で主治医に相談するようにしてください。もし他の歯科医院の意見が聞きたい場合はセカンドオピニオンも活用できるのです。
ただし、セカンドオピニオンを求める場合は初診料がかかるのを覚えておいてください。また、事前に主治医にその旨を伝えてからに訊くようにしてください。
まとめ
今回は歯科矯正の中にあっても古くからおこなわれてきたワイヤー矯正についてお話しました。
この矯正方法はひと月ごとにワイヤーを交換しなければならない半面で、多くの症例に対応できるというのが大きな特徴です。
また、歯の前面にでるワイヤーで審美性を損ねると尻込みする人には裏側矯正という選択肢もあります。
ここで説明した内容がワイヤーでの歯科矯正を考えている人や矯正中の人にとって少しでもお役に立てたなら幸いです。