【監修:青山健一】
目 次
歯科矯正において成人を迎える間近、あるいは過ぎてからの治療では「親知らず」が影響してくることがあります。
矯正治療は主に子どもの頃に行う傾向が強く、治療を始めた方の多くが19歳以下であるといわれていますが、成人してから治療を行っている方ももちろんいらっしゃいます。
そのため、タイミングによっては矯正治療と親知らずが生えてくる時期が重なる可能性が考えられるのです。
そこで今回は、もし矯正中に親知らずが生えてきた場合どのような影響があるのか、またその対処方法についてお話していきます。
矯正中に親知らずが生えることがある?
親知らずとは永久歯の中でも1番奥、前歯から数えて8番目にある歯です。歯科領域では智歯(ちし)または第三大臼歯と呼ばれることもあります。
この親知らずが矯正中に生えてくることはあるのか?結論からお話すると、矯正中に親知らずが生えることは「あります」。
親知らずの生え方は個人個人によって異なり、概ね生えてくるであろう時期は想定できても必ずその時期に生えてくるとは限りません。
もし生えてきたときには早めにその存在を認識しておくことが大切なため、普段の生活はもちろん、矯正治療中は口の中の変化に気をつける必要があります。
親知らずが生える時期
親知らずが具体的に生える時期についてご説明します。
予め大体の時期を把握しておけば、将来矯正治療を始めるタイミングを考える上で大切になります。ぜひ参考にしてみてください。
他の永久歯より遅い
永久歯は遅くとも15歳前後には全て生え変わりますが、親知らずは他の永久歯より少し遅れて生えてくることが一般的です。
時期としては17歳前後~20歳過ぎに生えてくる場合が多いです。成人前後の親の目が届かなくなる年齢に生えてくる歯であることから、親知らずという名前が付いたとされています。
埋没して見えないこともある
親知らずで多いパターンの一つとして、歯肉に埋もれて見えないことや、見えていても歯の一部だけが顔を出しているような状態になることもあります。
親知らずが埋もれてしまう原因の一つに、昔に比べて人間の顎が小さくなっていることが挙げられます。
顎が小さいと親知らずが生えるスペースが狭く、埋もれて出てこれなかったり、無理に生えてこようとして傾いたりするのです。
埋没している親知らずの注意すべきことは、歯が必ずしも正しい方向を向いているとは限らないことです。
少し傾いている場合や90度回転して横向きになっていたり、稀に逆さになっていることもあります。
加えて厄介なのは歯肉に埋もれていると見えないため、自分では親知らずがどのような状態なのかがわからない点です。
埋もれた親知らずはレントゲン撮影してみないと状態がわかりません。知らず知らずのうちに親知らずが悪さをしていることもあります。
生える時期を迎えた方は歯の定期健診も兼ねて、歯科医で親知らずの状態を確認してみることをおすすめします。
親知らずが生えない人もいる
中には親知らずが生えない方もいます。生えない理由には大きく分けて二つあります。
一つ目は親知らず自体は存在するけれど、歯肉に埋もれて出てこないままになるという場合です。
埋没した親知らずでは顎や体に悪影響がなければ処置をせずに様子を見る場合があり、そしてそのまま一生生えてこないこともあります。
二つ目にそもそも親知らずが存在しない場合です。歯肉中には歯が形成されるときに必要な「歯胚(しはい)」と呼ばれる歯の種のようなものが存在します。
親知らずがない方はこの歯胚がないため、親知らずが形成されないのです。上下左右4本ともない方もいれば、上だけまたは下だけ、1本だけないという方もいます。
親知らずが存在しない原因は完全に解明されていませんが、硬い食べ物を食べる習慣が減り、顎が小さくなるにつれて親知らずも一緒に退化してきているという説があります。
親知らずが歯並びに与える影響
親知らずが生えてくる時期、生え方のパターンについてご説明しました。
上記で述べたようにそもそも親知らずが存在しない方や存在しても悪さをしなければ歯肉に埋まって見えないまま一生を終えることもあります。
一方で、周りの歯に悪影響を与えてしまう親知らずのパターンも存在します。ここでは親知らずが他の歯に与える影響について確認していきましょう。
他の歯を圧迫する
狭いスペースに親知らずが無理に生えてこようとすることで他の歯を圧迫してしまう場合があります。
親知らずによって圧迫されると不必要な力が歯に加わって歯が回転したり、ズレたり、さらには痛みが出ることも考えられます。
矯正治療においてブラケットやマウスピースを使って力を掛けながら少しずつ歯を並べていくのと同様に、親知らずの押される力で歯がズレてしまうことがあり得るのです。
元々悪くなかった歯並びが親知らずによって歪んでしまうこともあり得ます。また、他の歯だけでなく歯肉を傷つけることもあるため、歯肉の炎症にも注意が必要です。
矯正後の後戻りのリスクを高める
親知らずが生えてくることは矯正後の後戻りリスクを高める場合があります。
親知らずが生えてくる前に治療が終わり、綺麗に永久歯が並んでいても、後から生えてきた親知らずが歯並びを歪ませてしまう可能性があります。
もし歯並びの異変に気が付いたら、すぐに治療を行った歯科医に今の状況を説明して相談するようにしましょう。
噛み合わせ不良を起こすリスク
親知らずが他の歯を圧迫することで歯並びが歪むだけでなく、噛み合わせが悪くなる危険が存在します。
噛み合わせが悪くなると食事中や会話中、睡眠時に至るまでさまざまな弊害が現れることがあります。
例えば、食べ物をしっかりと噛めなくなることや滑舌が悪くなる、寝ているときに喰いしばり・歯ぎしりをしてしまうなどです。
これらの弊害は口まわりに止まらず肩こりや頭痛、体全体のバランスを歪ませる原因にもなり得ます。
矯正中に親知らずが生えてきたときの対処法
親知らずの生え方によってはさまざまな悪影響があるとおわかりいただけたところで、具体的にどのようにその影響を防ぐのか、その対処法についてご説明します。
親知らずの状況は人によって個人差が大きいため、自分に合った対処法を見つけましょう。
抜歯する
1番効果的な親知らずの対処方法は「抜歯」です。悪さをしている親知らずを抜いてしまえば他の歯が影響を受けることはなくなります。
親知らずの抜歯は生え方によって対応が異なります。既に生えている歯についはそのまま抜くだけでよいのですが、歯肉に埋もれている歯は切開をして取り出さなければなりません。
その場合は通常の歯科では治療できないことがあり、口腔外科での対応が必要になります。
親知らずに限らず、抜歯をすると歯や歯茎、頬までが腫れてしまうときもあり、腫れは数日~十数日で引きますが、大事なイベントや仕事などがある方は気をつけてください。
学生さんは夏休みや冬休みなどの長期休みを利用したり、仕事されている方でも数日お休みを取れる状況を確保するなど、前もってスケジュールを空けておくようにしましょう。
悪影響がなければ抜歯しない
抜歯してしまえば今後の影響を考える必要はなくなりますが、抜歯にも痛みや腫れなどのリスクはあります。
もし、悪影響がないのであれば抜歯せずそのまま様子を見るという選択肢もあります。実際に一生問題なく親知らずが生えたままという方も珍しくありません。
最近では虫歯や事故など、何らかの原因で歯を欠損してしまった際に、温存しておいた親知らずを移植するという治療もあるくらいです。
歯科医と相談しながら状況に併せて抜歯の有無を決めていきましょう。
虫歯や歯周病に気をつける
親知らずが生えてきた段階で気をつけたい点は「虫歯」や「歯周病」です。親知らずも他の歯と同様に虫歯になります。
埋没している親知らずであれば虫歯の危険はほぼありませんが、親知らずの一部だけでも歯肉から顔を出した時点でケアを怠らないようにしましょう。
また、生えてくる途中や生え際の歯肉が炎症を起こす可能性があります。これは「智歯周囲炎(ちししゅういえん)」と呼ばれ、悪化すると歯肉に膿が溜まります。
膿が溜まると外科的な抜歯がすぐにできないこともあるため、口内に異変を感じたときにはすぐに見てもらうようにしてください。
口の奥はなかなか磨きにくく、歯ブラシも届きにくい場所です。より目を配りながらケアしてあげるようにしてください。
親知らず抜歯のタイミング
親知らずの対処方法に抜歯があるとご紹介したところで、実際に矯正治療を行う際はどのタイミングで抜歯を行うのがよいのか?その具体例についてお話していきます。
矯正治療前に抜歯するケース
矯正治療前に抜歯するケースとして、治療開始前既に親知らずが他の歯へ悪影響を及ぼしているのであれば、抜く場合がほとんどです。
さらに埋没した親知らずでも他の歯と隣接しているような、今後圧迫する恐れがあるケースでは抜歯を勧められることがあります。
隣接していなくても、横向きや逆さなど正しい方向を向いていない場合は抜歯を行うケースに該当する可能性があります。
治療中に抜歯するケース
治療中に親知らずが生えてきても、他の歯へ影響がなければ治療が中止したり遅れることはありません。
しかし、生えてきた親知らずが他の歯を圧迫したり、矯正器具の邪魔をするような生え方をしてくるようであれば抜歯することもあります。
親知らずの生え方はさまざまであるため、状況に合わせて抜歯するタイミングを決めていきます。
抜歯の必要性は歯科医の判断による
抜歯するかどうかは人それぞれの状況によって変わります。抜歯するにしてもそのタイミングもまたバラバラです。
ベテランの歯科医であれば何件もの症例を見てきているため、状態に併せたベストな治療方法を提案してくれます。
抜歯の判断は歯科医が提案しますが、その際はしっかりとその理由や治療方針などを聞くことをおすすめします。
もちろん全てお任せでということであれば、それも一つの選択肢ではあります。
しかし、可能であれば自分の状況を自分自身でも把握し、疑問があればその都度専門医に相談しましょう。
矯正治療は金額的にも気軽にできるものではないため、しっかり納得した上で治療を行う方がよいです。
矯正治療と親知らずの不安は歯科医に相談
もし、矯正治療と親知らずについて不安を感じた際は遠慮せずに歯科医にご相談ください。相談するタイミングは治療前でも治療中でもいつでも大丈夫です。
治療を始める前には問診や骨格確認としてレントゲンや写真撮影を行うため、そのときに自分の親知らずがどんな状況か聞いてみるのもよいです。
親知らずの生え始めを懸念する年齢での矯正治療中は、専門医の方でも定期的に確認を行う場合がほとんどです。
しかし、口の中の違和感や痛みなどはご本人にしかわかりません。少しでも異変や気になったことがあったときには早めに相談しましょう。
まとめ
今回は矯正中に親知らずが生えてきたときの対処方法についてご説明しました。
子どもの頃に矯正する方が多い一方で、美容意識の向上などもあり、大人になってから矯正治療を始める方も多くなっている傾向にあります。
成人の前後で生えてくる親知らずは存在しない場合を除き、避けて通れないものです。専門医とよく話し合って親知らずと上手に付き合いながら、治療を行ってください。