【監修:青山健一】
目 次
歯茎などに埋まっている歯のことを、専門用語では「埋伏歯」と呼びます。埋伏歯は、口内トラブルの原因となることが多いことでも知られています。
一方で、自分の歯が埋まっていることに気づかない方も少なくありません。入念に口内のケアをしていてもトラブルが頻発するのは、埋伏歯が原因となっている可能性があります。
気になる症状がある方は、埋伏歯についても理解を深めておきましょう。
埋伏歯の種類
埋伏歯とは、歯が骨の中や歯茎の下に埋まっている状態のことです。歯が正常な位置に並んでいないと、見た目の問題だけでなく口内環境を悪化させる場合があります。
歯並びが悪いと歯と歯の間に隙間ができやすく、汚れや歯垢が溜まりやすい状態です。歯磨きもしづらく、汚れが残っていると虫歯や歯周病になる可能性があります。
埋伏歯には、大きく分けて2種類があります。それぞれに特徴があり治療の手法も異なるため、矯正を検討するときは事前に把握しておきましょう。
完全埋伏
完全埋伏とは、歯が骨の中にすべて埋まっている状態です。歯が骨の中にあっても、口内で問題を起こしていなければ特に治療の必要はありません。
ただし、口内に悪影響を及ぼす可能性がある場合には、矯正治療や抜歯が必要です。
完全埋伏の矯正を行うときは、完全に歯が埋まっているため外科手術が必要な場合もあります。
なお矯正治療を検討する際には、はじめにCT撮影を行います。完全埋伏の場合、埋伏歯と下歯槽神経の距離が近いことが多く、神経に接触していないか確認するためです。
歯が神経と接触していなければ抜歯を行えますが、接触している場合には別の治療を検討する必要があります。
不完全埋伏
不完全埋伏は、歯の一部のみが歯茎に埋まっている状態です。歯と歯茎の隙間に汚れや食べカスが詰まりやすいため、放置しておくと虫歯や歯周病を引き起こす場合があります。
食べ物が詰まっていると口臭の原因になることがあるため、特に接客業など人と近い距離で会話する方は注意が必要です。
また、不完全埋伏は歯磨きがしにくいことも特徴に挙げられます。不完全に出現した歯は、他の歯と比べ引っ込んでいるため、しっかりブラッシングできない場合があります。
磨き残しがあると歯垢や汚れが溜まってしまい、虫歯や歯周病の原因となるため注意が必要です。口内トラブルが頻繁に起きるときは、歯科医院で治療を検討しましょう。
永久歯が埋伏する原因
永久歯が埋まってしまうことには、いくつかの原因が挙げられます。自身での予防は難しいですが、原因を把握しておけば計画的に治療を進めることが可能です。
ご自身やお子様が下記の項目に該当する場合、「矯正治療が必要な可能性がある」ことを頭に入れておきましょう。
顎が小さい
歯が埋もれる原因のひとつには、顎が小さいことが挙げられます。従来、歯がきれいに並ぶためには一定のスペースが必要です。
顎が小さい方の場合、歯に必要となるスペースの確保ができません。歯が並ぶスペースが不足すると、永久歯は口内に出てくることができなくなります。
埋まった歯を正常な位置に戻すには、はじめに歯が整列できるスペースの確保が必要です。抜歯や矯正治療を行うことで、必要なスペースの確保ができます。
歯が整列できるスペースの確保ができれば、歯を引っ張り出し正常な位置に戻すことが可能です。
過剰歯
過剰歯とは、通常の本数より多く生えた余分な歯のことです。歯の本数が過剰になると、必要な歯がきちんと成長できないケースがあります。
実際に過剰歯は円錐状の形状をしており、小さい歯が多いとされています。歯が正常に成長できなければ、口内に生えてくることができません。
歯が出てくることができたとしても、整列するスペースがないと歯並びが悪くなってしまいます。また、過剰歯は発生しやすい箇所があります。
一般的に過剰歯は「上の歯の真中」、「下の歯の前から4~5番目」に多く見受けられるようです。そのため、上の前歯が口内に出てこないトラブルがよくあります。
このような場合にも、矯正治療が有効です。矯正装置を使い歯を引っ張り出すことで、歯並びを整えられます。
歯胚の位置がおかしい
歯胚とは、歯の素となるものです。歯胚は骨の中で数年をかけて成長し、歯として口内に出てきます。
しかし、人によっては生まれつき歯胚の位置がおかしい場合があります。歯胚の位置がおかしいと、歯がうまく生えることができません。
結果的には、歯が歯茎や骨の中に埋まってしまう場合があります。なお歯胚はレントゲン撮影やCT画像を用いて、位置や形状の確認が可能です。
確認したとき歯胚の異常が見つかると、矯正治療などが必要になる場合があります。
埋伏する可能性が高い歯
歯には、埋伏する可能性が高い歯が存在します。治療の方法や方針などは歯の種類によっても異なるため、事前に把握しておきましょう。
埋伏する可能性が高い歯には、おもに2つのものがあります。
犬歯
まずは犬歯が挙げられます。犬歯は永久歯への生え変わりが遅く、歯が並ぶスペースが確保できないことがあるためです。
歯は6~12歳ごろに、乳歯から永久歯へと生え変わります。個人差はありますが、生え変わる順番や時期は大まかに決まっています。
例えば上顎の場合、最初に前歯が生え変わり、次にその横の歯から奥歯へと順に生え変わることが一般的です。そして、最後に犬歯が生え変わります。
このとき犬歯の生えるスペースが不十分であると、歯茎から正常に出てくることができません。歯が歯茎や骨の中に埋まってしまいます。
特に顎の骨が小さい方の場合には、歯のスペースが確保しづらく、埋もれる可能性が高いため注意が必要です。
親知らず
親知らずは歯のなかでも成長が最も遅く、生えてくる時期も比較的遅い歯です。犬歯と同様に、生えてくるスペースが確保できない場合には埋もれてしまいます。
仮に口内に出てきたとしても斜めに生えてくることがあり、歯磨きもしにくいため虫歯や歯周病の原因となることもよくあります。
また、親知らずは歯が横向きに生えてしまう、「水平埋伏歯」が見られることも特徴です。水平埋伏歯は、外科手術が必要となる場合があります。
横向きの歯は、一気に抜歯するのが困難です。歯が神経や血管に近い場合には、より慎重に治療を進めなければなりません。
そのようなときには、歯茎の切開や歯を分割するなどの手術が必要となります。
なお手術後には発熱する場合もあるため、日常生活へ支障が出ないよう計画的に治療を進めましょう。
埋伏歯は歯列矯正で治療可能
埋伏歯は、歯列矯正を行うことでも治療が可能です。埋まっている歯に矯正装置を着け「牽引」することにより、埋まった歯を引っ張り出します。
埋伏歯は一気に引っ張り出すことができないため、矯正装置を一定の期間着けることが必要です。継続的に力を加えることにより、徐々に歯並びを整えていきます。
なお歯の牽引をするためには、歯の一部が歯茎から出ていることが必要です。歯が完全に埋まっていると、装置を着けられず牽引ができません。
完全に埋まっている場合には、歯肉を切開するなどして歯を露出させる必要があります。露出した箇所にブラケットやワイヤーなどを装着し、歯を引っ張り出していきます。
埋伏歯の矯正治療の特徴
埋伏歯の矯正は、他の治療を併せて行うことが特徴です。埋伏歯を矯正するときは、他の要因が治療の妨げとなる場合があります。
妨げとなる要因を取り除かなければ矯正ができないため、要因ごとに適した治療を行い対処することが必要です。必要となる対処には、主に3つのものが挙げられます。
矯正前に開窓術を行う
埋伏歯の矯正をする際には、矯正前に開窓術が必要となる場合があります。開窓術とは、歯茎などを切開する外科的な治療のことです。
埋伏歯を矯正するときは、埋まった歯を矯正装置で引っ張り出す必要があります。しかし、歯が完全に埋まっている場合などには、矯正装置をつけることができません。
歯が見えないときには、歯茎に切れ込みを入れ歯の表面を露出させることで、矯正装置を着ける場所を確保します。矯正装置を着けることができれば、歯を引っ張り出すことが可能です。
なお開窓術を施すときには、事前にレントゲン撮影を行います。適切な治療を行うためにも歯の状態を確認し、矯正をすべきか判断することが必要です。
埋伏歯には、待っていれば自然に生えてくると予測されるものもあります。そのようなときは、しばらく経過観察を行います。
一方で歯の位置がおかしい場合などには、矯正治療が必要です。待っていても生えてくる可能性は低いため、装置を用いて歯を引っ張り出さなければなりません。
矯正治療が必要と判断されると、開窓術へ進みます。開窓術を行うときは、はじめに患部へ局所麻酔の注射が必要です。
歯科医院によっては注射の痛みを減らすために、歯茎の表面へ「表面麻酔」を塗布する場合があります。特に子どもの患者様の場合には、表面麻酔を用いるケースが多いようです。
麻酔が効いていることを確認した後は、メスを用いて必要な部分まで歯茎を切開していく作業です。適度に歯が露出したら矯正装置を装着します。
歯槽骨を削ることも
埋伏歯の矯正を行うにあたり歯の生え方や状態によっては、歯槽骨を削らなければならない場合もあります。
歯槽骨とは、歯を支える骨のことです。通常、歯は歯槽骨のポケットに収まっており、靭帯のようなもので固定されています。
歯槽骨は歯を支える重要なものですが、歯が骨の奥に入り込んでいる場合があります。このようなときは、歯槽骨を削るなどの処置が必要です。
なお骨を削るなどの大掛かりな治療が必要な場合、必要な設備がなく対応できない歯科医院もあります。
残存乳歯は抜歯が必要
乳歯が残っている場合には、永久歯の妨げになるため抜歯が必要です。残っている乳歯のことを専門用語では、「残存乳歯」といいます。
従来、乳歯は6~12歳の間に永久歯へ生え変わることが一般的です。乳歯の根っこが溶けていき、後から生える永久歯が押し出すことで自然と抜けていきます。
しかし、乳歯がうまく抜けられず口内に残る場合があります。乳歯が残ったままだと埋伏歯の矯正をしようとしても、歯をきれいに並べるスペースがありません。
このような場合には、妨げとなる乳歯の抜歯が必要です。残った乳歯を抜くことで、埋伏歯を並べやすい環境を整えられます。
なお埋伏歯の矯正を行う際には、大掛かりな治療が必要な場合があります。大掛かりな治療が必要と診断されたときは、矯正の実績が豊富なクリニック、および口腔外科での治療も検討しましょう。
埋伏歯は早めの治療が大切
埋伏歯は、早めの治療が大切です。そのまま放置しておくと虫歯や歯周病を引き起こし、健康的な生活にも影響を及ぼす可能性があります。
特に埋伏歯の歯周に起きる「智歯周囲炎」には、注意が必要です。埋伏歯の歯周は炎症を起こしやすく、治っても再発することが多い傾向にあります。
炎症が強い場合には、食べ物を飲み込むとき喉に強い痛みが生じることがあります。飲み込む度に強い痛みが起きては、スムーズに食事もできません。
また歯の根元は年齢が上がるにつれて骨と癒着しやすくなるため、治療が難しくなります。牽引や開窓の効果も薄くなるため、若いうちに矯正治療を行うことがおすすめです。
特に水平埋伏歯の場合、加齢で骨の回復力が低下することにより、骨が薄くなるケースもあります。気になる症状があるときは、早めに歯科医へ相談しましょう。
埋伏歯の矯正治療を検討しているなら
埋伏歯は状態によっては口内に悪影響を及ぼす可能性があります。症例として多くはありませんが、神経を圧迫するケースも懸念されます。
歯が神経を圧迫してしまうと唇や舌の感覚が麻痺してしまい、味覚障害を引き起こす恐れもあるため注意が必要です。
そのため、埋伏歯を自己判断で放置することはとても危険です。気になる症状が見られたときは、歯科医院の受診をおすすめします。
埋伏歯の矯正治療には、専門的な施術が必要となるため、矯正専門の歯科医院を探しましょう。必要な設備が整っており、専門医も在籍しているため治療がスムーズに進みます。
まとめ
埋伏歯が発見されたときは、早めに矯正治療を行うことが大切です。特に口内トラブルが頻繁に起きるときは、埋伏歯が原因かもしれません。
歯は、体の健康を支える重要なものです。歯の健康が保てないと消化不良による胃腸障害などのように、体のさまざまな部位に影響を与えます。
そのような事態に陥らないためには、歯の健康にも配慮しましょう。早めの矯正治療を心掛けることで、歯の健康を維持することにつながります。
大切な歯を守り、健康的な生活を送りましょう。