【監修:青山健一】
目 次
歯列矯正といえばワイヤー矯正が主流です。ブラケットを装着し、そこにワイヤーを通して歯を動かします。
しかしワイヤー矯正は目立ちますし、矯正が済むまで取り外せません。食事や歯磨きのときには特に面倒です。
そこで、あまり目立たず取り外せる矯正器具として「マウスピース」が登場しました。
透明なので装着中も見た目が気にならず、食事のときは取り外せます。
しかし、マウスピースも矯正中に感じる特徴的な痛みや不快感までは解決できません。
ここではマウスピース矯正に伴う痛みとその原因を詳しく解説します。
マウスピース矯正は痛みを伴う?
歯列矯正にはさまざまな種類がありますが、マウスピース矯正はその中でも痛みが少ない治療法です。
しかし痛みが全くないわけではありません。痛みが少ないはずなのに痛むのはどうしてなのでしょうか。
マウスピース矯正をご検討中の方には「やっぱり矯正は痛いからやめておこう」と後ろ向きになってしまうかもしれません。
マウスピース矯正の痛みに不安を感じているなら、痛みの原因と対応方法を理解して不安感を解消しましょう。
下記ではまず、痛みを感じる原因ついて解説します。
矯正治療で痛みを感じる原因
マウスピース矯正で痛みを感じる場合、その多くは矯正の本来の目的「歯を動かす」ことそのものが原因です。
動いている最中の歯に圧力がかかると、痛みや違和感が生じることがあるため注意しましょう。
もう一つの原因は、歯や歯の周辺に何らかのトラブルがある場合に痛みを感じます。
歯が計画通りに動かない、虫歯や歯周病があるため痛みを感じることがあるためです。
下記にそれぞれの痛みの原因を詳しくみていきましょう。
歯が動いている
矯正治療では歯に圧力を加えて歯を動かします。では具体的にどう歯は移動しているのでしょうか。
「歯が動く」には2つの段階があります。
- 歯を固定する歯槽骨が圧力を加えられると溶けて吸収されるため、歯が圧力をかけた方向に移動。
- すると反対方向には隙間ができるため、そこに新しく骨が造られ隙間を補う。
この歯槽骨の破壊と再生が痛みの原因なのです。
矯正装置が歯茎や頬の粘膜にあたる
マウスピース矯正で痛みを感じるときは、マウスピース自体の問題の可能性もあります。
研磨不足のマウスピースは歯茎や頬の粘膜に干渉し傷つけ、その周辺が炎症すると痛みに発展します。
そのような口内炎は特定の部分に干渉するマウスピースが原因であるため痛みが長引く場合があり注意しなければなりません。
虫歯や歯周病に侵されている
マウスピース矯正中に感じる痛みには、虫歯や歯周病といった口内トラブルが原因となっている場合もあります。
矯正前にそのような口内トラブルは解決されていなければなりませんが、矯正中に口内をケアできていないと虫歯や歯周病を発症してしまいます。
また食事や歯磨きの際にマウスピースを取り外せることはメリットなのですが、マウスピースを清浄に保たなければなりません。
マウスピースのお手入れが不十分だと虫歯や歯周病になって痛みを引き起こすため注意が必要です。
マウスピース矯正の痛みの特徴
マウスピース矯正に伴う痛みには、歯が動いているための痛みと歯にトラブルがあるための痛みがあることを解説しました。
それではマウスピース矯正の効果による痛みはどのようにして発生するのでしょうか。
マウスピースが口の中で干渉する痛みのリスクについても理解を深めましょう。
比較的痛みは軽い
前述の通り、歯列矯正の痛みの多くは歯槽骨の破壊と再生が原因です。
マウスピース矯正ではワイヤー矯正とは違い歯にかかる圧力が弱いため、このような歯の移動による痛みは比較的軽いです。
また、マウスピースで少しずつ移動している歯は不安定なため、圧力がかかると痛みます。
圧力がかかるのはマウスピースを外すとき、アタッチメントが引っかかるとき、ゴムを付けているときです。
しかし、これらの痛みもそれほど深刻なものではありません。
粘膜が傷つくリスクは低い
マウスピースはプラスチック製で厚みはあまりありません。歯を覆うようにぴったりと装着できます。
そのためワイヤー矯正でよくあるワイヤーが歯茎や頬の内側に当たり粘膜を傷つけるような問題は起こりません。
しかし希にマウスピースが研磨不足で異常に突出してしまうと歯茎や頬の内側を傷つけてしまう場合があります。
その際は紙やすりなどで削って対処してください。しかしこのようなケースは希です。
マウスピースは概して粘膜を傷つけるリスクは低いといえます。
マウスピース矯正で痛みを感じやすいとき
マウスピース矯正で痛みを感じるときには、痛みを感じやすいタイミングにあることが原因かもしれません。
ここではそのようなタイミングを次の3つのケースに絞ってみました。
- 治療開始直後
- 交換直後
- 再装着直後
それぞれのケースで痛みが発生するメカニズムが異なるため、詳しくみていきましょう。
治療をはじめたばかり
治療をはじめたばかりのときは、マウスピースを装着すると顎の骨に埋まっている歯の根っこの部分に圧力が加わります。
その圧力が痛みになったり、歯の締め付け感になったりするわけです。
ですからマウスピースを装着した直後は硬い食べ物を噛まないようにしましょう。
痛みは長引かず長くて1週間ほどで感じなくなります。
マウスピースを交換した直後
マウスピース矯正では歯を徐々に移動させるためマウスピースを段階的に何度も取り替えます。
新しいマウスピースに取り替えると動かしたい部分に圧力がかかるため痛みを感じるのです。
ただし、最初のマウスピースで感じる痛みに経験があるため、それほどひどい痛みにはならないことがほとんどです。
長時間マウスピースを外していた
マウスピースを食事や歯のケアのため取り外すことがありますが、装着していない時間が長引くと再び装着したときに痛みを感じることがあります。
動いている歯は不安定ですから長い時間放置していると歯が徐々に矯正前の状態に戻ってしまうのです。
長時間マウスピースを外したままだったところで再度装着すると、元に戻りかけた歯に圧力がかかり痛みを引き起こします。
マウスピース矯正は決められた時間装着することが重要
このようにマウスピースを外したままの時間が長ければ長いほど、歯が元の位置に戻ろうとします。
歯の戻り方によってはそれまでの苦労が水の泡になりますので注意してください。
加えて、元に戻ろうとする範囲やズレの幅が大きければ、再装着したときの痛みもかなり強いため覚悟しておきましょう。
スムーズな痛みの少ないマウスピース矯正にするには、後戻りを引き起こさないことが重要なポイントです。
マウスピース矯正で痛みを感じたときの対処法
上記にあげた原因でマウスピース矯正中に痛みを感じた場合には、そのまま放置せず適切に対処しましょう。
ここでは痛みの原因に応じて効果がある3つの対処法をおすすめします。
- 鎮痛剤を服用
- 歯茎をマッサージ
- マウスピースを削る
痛みが強く我慢ができない程ひどいときは、これらの対処法を試さずにマウスピースをいったん取り外して矯正歯科医にご相談ください。
鎮痛剤を飲む
マウスピース矯正中に痛みを和らげる方法として痛み止め薬を服用するという手段があります。
マウスピースを初めて装着した直後や取り替えた後の痛みは数日で緩和されますので、鎮痛剤で痛みをやり過ごしましょう。
しかし、いつまでも痛みが続くようでしたら、放置せずに早めに矯正歯科医にご相談ください。
歯茎をマッサージする
マウスピース矯正中に次のような痛みがあったら歯茎をマッサージすると効果的です。
- 歯茎に痛みを感じる
- 歯が締め付けられる感じがする
- 歯がしみる
- 歯が浮いているような違和感がある
- 歯や歯茎に触れると痛む
このような場合には指の腹や歯ブラシで優しく歯茎をマッサージするようにしましょう。歯や歯茎を強く押さないように注意してください。
マウスピースを削る
マウスピース矯正中に歯茎や頬の内側に痛みが発生する場合には、マウスピースの出っ張りが原因かもしれません。
マウスピースを取り外して外部をよく点検してみましょう。気になる突出部があれば紙ヤスリなどで磨きなめらかにしてください。
歯茎や口内の傷で痛みがあるときは口内炎に発展してしまっていることもあるため矯正歯科医にご相談ください。
マウスピース矯正の痛みは悩まず歯科医に相談しよう
前述のように、マウスピース矯正では痛みが発生しにくい矯正方法であるにもかかわらず、痛みを引き起こすことがあります。
痛みの原因は大きく「歯が動いているための痛み」と「歯のトラブルによる痛み」に分けられます。
しかし痛みの原因が何かを自分で把握するのは困難な場合があるため、まずは矯正歯科医にご相談ください。
矯正歯科医が原因を特定し適切な対処法を教えてくれます。
もしマウスピース矯正とは関係がない歯やその周辺のトラブルに原因があれば、矯正を保留にして治療を行わなければなりません。
悪化させる前に痛みの原因を特定し効果的な対処方法でマウスピース矯正の痛みを乗り切りましょう。
まとめ
全顎矯正の方法として主流のワイヤー矯正に替わる矯正法「マウスピース矯正」。
比較的痛みが少ないことが人気の理由になっています。
しかし歯というデリケートな部位を圧力をかけて動かすわけですから、まったく痛みと無縁でいられるわけではないと理解しておきましょう。
マウスピース矯正で大事なことは決められた時間はマウスピースを装着し続けることです。
決められた装着時間を守って痛みに苦しむことなく矯正期間を終えられるかどうかは、あなた次第。
しかし、痛みの原因にはさまざまなものがあるため、自己判断は避けて矯正歯科医にご相談ください。
専門的な知見に基づく正しい原因の把握により効果的な対策を練りましょう。