【監修:青山健一】
目 次
「美しさは口元から」とよくいわれるようにお口はよく見られる部位です。
歯並びの良さは美しさだけではなく品の良さを表しているといわれ、こだわりを持ちたい部位のため審美的治療をする人も少なくありません。
歯並びが気になりマウスピースなどで歯列矯正をして歯並びを美しくする人が多い一方、矯正治療中に口臭が気になるという人も多くいます。
歯列矯正と口臭の関係・口臭を防ぐ予防対策・お手入れ方法などを歯のプロである歯科医が解説していきます。
歯列矯正中に口臭が気になる人は多い?
口元や歯並びの悩みから歯並びを綺麗にしたいと歯列矯正をしている人が増えています。
昔からあるワイヤーを使用した矯正治療の他にもマウスピースを使用したインビザライン矯正などもあり矯正治療は多様性に富んでいるのが特徴です。
歯並びが気になるという人が気軽に矯正治療ができるようになりましたが、歯並びの悩みを解決したいにもかかわらず口臭という別の問題を抱えてしまう人がいます。
歯列矯正と口臭はどのようなつながりがあるのか歯列矯正中の口臭の原因について説明します。
歯列矯正中に起こる口臭の原因
歯列矯正中に起こる口臭の原因として歯磨き方法・口の中のトラブル・口内環境の変化があげられます。
歯列矯正中はどうしても普段の口内とは違う状態になってしまうことは避けられません。
まず歯列矯正をすることで避けることが難しいといわれる口臭の原因について解説します。
歯磨きが行き届かない
歯列矯正中の人の口臭の原因は歯磨きが行き届かないからです。
歯列矯正中は口内に歯列矯正のための器具を多数装着していることもあり、器具と器具の間・器具と歯の間に汚れが溜まり細菌の温床になります。
これまで通りの歯磨きの方法ではどうしても器具の汚れを取り切ることができず、知らずしらずのうちに細菌が積み重なってしまいます。
歯列矯正をしていない人でも歯磨きは自己流で注意して歯磨きをしているつもりでも綺麗に磨けていない人は少なくありません。
歯列矯正をしていると慣れない器具が常に付いているため、普段以上に磨き残しが多くなってしまいがちです。
口の中が乾燥する
ワイヤーによる矯正治療・マウスピースを使用したインビザライン治療にしても口の中に異物がある状態です。
歯列矯正のための数々の細かい器具が口の開け閉めをする際に引っかかってしまい、自然と口が閉じにくくなります。
その結果、どうしても無意識のうちに口が開いたままになりがちです。
自然と口が開いたまま口の中の乾燥が進み唾液の分泌が減少し、細菌の繁殖を進めてしまうため口臭が発生します。
口内炎や傷ができやすい
また、ワイヤー・マウスピースなどの矯正器具を装着していると口内炎・口内の傷が発生しやすくなります。
口は体の中でもよく動かす部分であり、細かい部品・ワイヤーなどを使用した矯正器具を歯にしっかりと固定していても、気づかぬうちに次第に強度が弱くなってしまうことは避けられません。
例えば硬いものを食べていた際に食べ物の硬さや自身の噛みちぎる強さが原因で器具が壊れてしまった・ワイヤーが伸びてしまった・固定していた部分がはずれてしまったということは非常に多いです。
また、器具の損傷がなくてもマウスピース・器具自体が口内に自然と当たってしまい傷をつけてしまうこともあります。
このように歯列矯正をしていると矯正器具が原因で口内炎・傷ができやすい状態になりがちです。
口臭が気になったら矯正装置の汚れもチェック
歯列矯正で口臭が気になるときは原因がはっきりしないこともありますが、まずはワイヤー・留め具・マウスピースなどの矯正器具の汚れを確認することをおすすめします。
自分では気づかぬうちに矯正器具が汚れていたということも多いです。
矯正器具は細かい部品やワイヤーでできていることもあるため、普通の歯ブラシによるブラッシングのみでは細かい隙間に届かず汚れ残しが発生します。
普段矯正器具をまじまじと見る機会がなく、常に付けているものであることから色や汚れの変化に気づきにくいということもあります。
口臭が気になったらまずは矯正装置に汚れが溜まっていないか確認してみてください。
自分で対処できない場合は歯医者に相談して特殊な器具で掃除してもらいましょう。
矯正中の口臭対策
歯列矯正中は普段の口内環境とは大きく異なるため、器具や汚れなどが原因で口臭が発生しやすい環境であることは否定できません。
しかし、口臭はどうしても気になり精神的ストレスになる恐れがあります。
ここでは矯正中の口臭対策としてすぐに取り組める方法を紹介します。
食後の歯磨き
まずは食後の歯磨きを欠かさずに行うだけで口臭の発生は大幅に抑えられます。
自宅ではもちろんですが、外出先でも食後の歯磨きを徹底することによって口臭は感じにくくなります。
外出時に便利な小型の歯ブラシ・歯磨きキットも販売されているため活用してみてください。
歯列矯正をしているとどうしても歯ブラシの毛先が装置に当たって磨けない部分もありますが、当てられるだけしっかりと歯面に対して垂直に毛先を当てて汚れを意識して磨いてください。
注意したいのは無理に強くこすると歯や矯正器具を痛めてしまう原因となるため歯の1本1本を丁寧に磨きましょう。
歯磨きをする際はしっかり磨けているか確認するために鏡を見ながら歯磨きをするとより効果的です。
デンタルフロスを使う
歯ブラシのみでは細かい歯と歯の隙間が磨ききれず、歯垢・汚れが溜まってしまいがちです。
歯ブラシの毛では、歯と歯の隙間に入り切らないためこれを放置してしまうと歯垢・細菌が繁殖し口臭・虫歯の原因となってしまいます。
デンタルフロスを使用し歯と歯の隙間に残っている食べ物の汚れや歯垢をしっかりと落とします。
矯正器具・ワイヤーが邪魔をして歯の隙間の奥にある歯垢まで届かない場所は通る場所だけで構いませんから、できる限りデンタルフロスを使用して隙間を徹底的に磨き上げ歯垢を取り除きましょう。
舌もキレイにする
口臭予防は歯のみならず舌もカギとなります。
舌の表面には舌苔と呼ばれるものがあり、「舌の苔」という字からも分かるように苔状の汚れを指します。
これを放置しておくと落ちにくくなるばかりでなく口臭の原因となるため定期的に掃除しましょう。
舌の掃除を意識してやったことがないという人も多いと思いますが、歯を磨く歯磨きがあるように舌を磨く舌磨き・舌掃除の器具もあります。
舌清掃は、毛先の柔らかい小児用の歯ブラシや目の粗いタオルなどを使ってもかまいませんが、歯医者や薬局で販売されている専用の舌ブラシを使うとより効果的です。
鏡を見ながら舌を前に出して舌の後方に舌苔がついていないか確認し、舌ブラシを鏡で見える最も奥に軽くあて、舌ブラシを手前に引きます。
舌ブラシを引く際あまり強く引くと不快感や吐き気をもよおすため、力を入れ過ぎないようにしてください。
不快感が気になるという人は舌ブラシを引くタイミングで息を数秒間止めながら行うと、不快感は軽減されます。
舌ブラシの先を水道の水でよく洗い、舌ブラシの先に舌苔がついてこなくなるまで繰り返してください。
舌ブラシで舌掃除する回数は1日1回が目安で、あまり多く行うと舌の粘膜を傷つける恐れがありますからご注意ください。
口の中を乾燥させない
マウスピースやワイヤーなどで口の閉まりが悪くなり唾液の減少・口の中の乾燥が進行してしまうと、唾液の分泌量が少なくなり口の中で細菌が繁殖する原因となるため口の中を乾燥させないように心がけることも重要です。
唾液には口の中の食べかすを洗い流す効果・抗菌作用で口の中の雑菌繁殖を防ぐ効果があります。
平均的な唾液の分泌量は1日あたり約1リットルから1.5リットルといわれていますが、唾液が少ない場合は口内における唾液の洗浄効果・抗菌作用が十分に働かなくなります。
対策としては緑茶を飲んだり・ガムを噛かんだりするのがおすすめです。
緑茶にはカテキンが豊富に含まれているため、お口の雑菌を殺菌する働きがあると同時に水分を摂るという意味でも乾燥を防げます。
またガムは噛む動作によって唾液の分泌を促し、口腔内をうるおす効果があるため口臭予防に最適です。
ただし粘りが強いガムの場合は歯の表面や裏面に装着した矯正器具に貼り付くおそれもあるため、粘り気が弱めのガムや比較的硬いガムを選びガムが表面に張り付かないよう気をつけて下さい。
矯正装置の正しいケア方法を知る
日頃使用したことがない矯正器具を口の中に装着するときは、正しいケア方法を知ることが大切になってきます。
基本的な正しいブラッシング方法を習得することが一番の近道といっても過言ではありません。
毎日のことであり幼い頃から行ってきた歯磨きという行為はどうしても流れ作業や自己流になりがちですが、正しい歯磨きは汚れをしっかり取り虫歯・口臭を防ぐという意味でも重要です。
歯列矯正器具のメンテナンスで歯医者に見てもらう際にブラッシング指導を定期的に受けて自分の磨き方が正しいかどうかチェックしてもらうという小さな積み重ねが正しいケア方法を知る第一歩になります。
歯科医院でクリーニングを受けるのも効果的
歯列矯正をしている最中は気をつけていても、どうしても自分のケアのみでは不十分となってしまうこともあります。
歯科医院で歯のプロである歯医者や歯科衛生士のクリーニングを受けることも効果的です。
歯科医院では専用の機械で洗浄するため汚れ落ちは桁違いによいです。
普段のブラッシングやお手入れで手が届かず放置してしまっていた部分をクリーニングすることで綺麗な状態を保つことが可能になります。
口臭以外のトラブル
歯列矯正をすると口臭の問題はもちろんですが、その他さまざまな問題も出てきます。
トラブルを回避し快適で効果的な歯列矯正生活を送るためにも口臭以外のトラブルを知り、予防する方法を身につけましょう。
ここでは歯列矯正による口臭以外のトラブルについて説明します。
唇や頬に傷ができた
歯列矯正では歯の表面や裏に細かな器具・針金などを取り付けるため口の中にあたって傷ができやすくなります。
矯正器具が舌・口の粘膜に接触することで傷ができ口内炎が起きることがありますが、この口内炎はカタル性口内炎と呼ばれています。
接触している部分を改善すれば数日で治り、歯列矯正の場合は口内が矯正器具に慣れていないため初期に出やすい症状です。
治療が進み歯並びが改善されれば矯正器具も当たりにくくなります。
また、カタル性口内炎以外にも潰瘍ができる潰瘍性口内炎・かゆみが出るウイルス性口内炎・金属アレルギーによるアレルギー性口内炎などもあります。
口腔内の傷によるトラブルについての対処法として、矯正用ワックス・薬の使用・刺激の少ない食事が効果的です。
矯正用ワックス・薬を使用することで口の粘膜と接触してしまう部分を治療・保護し、直接的な接触を防ぐことで痛みを和らげ再発防止になります。
また患部を刺激しないよう香辛料が強い食べ物・粘膜を刺激する成分が入っているものは控えるようにしましょう。
その他、定期的にメンテナンスに通っている歯科医院で相談し矯正器具を調整してもらうということも1つの手段です。
歯がしみる
歯列矯正中に歯がしみる症状にはいくつか原因があります。
歯がしみたと感じた場合、そのまま放置せずにすぐに歯医者に行き歯科医に相談しましょう。
原因としては大きく分けて虫歯・炎症・知覚過敏が考えられます。
歯列矯正の器具によって上手にブラッシングができていない場合、汚れ落ちが不十分で虫歯ができてしまうことも少なくありません。
また、歯列矯正で歯を動かしコントロールしている場合、歯の動きの早さに歯周の歯肉・骨の代謝が追いつかないこともあります。
この場合、歯肉のゆるみで刺激が伝わりやすい状態となり炎症を起こします。
歯列矯正で歯並びがもともとガタガタであった人の場合、矯正で歯並びが整えられた途端外部の刺激に触れてこなかった部分が過敏になりダイレクトに刺激を受けることが原因です。
突然の刺激に体が驚き、痛みという形で感じるようになるということです。
歯列矯正が原因となる「歯がしみる感覚」は1週間程度で収まることが多いですが、あまり長引いてしみる感覚が強すぎると感じた場合は速やかに歯科医に相談しましょう。
矯正中の口臭トラブルは歯科医に相談しよう
歯列矯正中に気をつけていないと口臭トラブルに悩まされることになってしまいます。
歯列矯正をしている場合の口臭トラブルは防ぎようがないものではなく、ちょっとした心がけ・行動である程度は防げます。
しかし、それでもなお口臭トラブルに悩まされ辛いと思った場合は矯正歯科の歯科医に相談してください。
歯科医は歯のことを知り尽くしたプロであり、矯正歯科の歯科医は歯列矯正のスペシャリストです。
矯正中の悩みを解決する糸口を見つけてくれます。
困ったこと・相談事・分からないことがあった場合はまずは歯科医に相談です。
まとめ
歯列矯正と口臭の関係・口臭を防ぐ予防対策・お手入れ方法などを歯科医の視点で解説してきました。
歯の悩みを解決させたいという思いから歯列矯正をしたにもかかわらず矯正治療中は「口臭」という別の悩みに悩まされるという人が少なからずいます。
歯列矯正による口臭はメカニズムを理解し対策をとることで防げます。
口臭があると自分もまわりも不快な気持ちになってしまいますが、少しの工夫と心がけで口臭を大幅に抑えられるため矯正治療中の口臭に悩まされているという人はぜひ試してみてください。
また、少しでも不安なことや質問があった場合は歯のプロである歯科医に相談しましょう。