【監修:青山健一】
目 次
大人の矯正治療は時間とお金がかかると思われる方も多いのではないでしょうか。
たしかに歯列矯正は時間もお金もかかりますが、治療期間自体は子供の矯正治療とさほど差はありません。
また、治療方法によっても治療期間は異なりますので、できる限り短く終わらせたい場合は、治療方法を工夫するのも一つの方法です。
今回は、大人の歯列矯正治療にかかる期間について治療法別にご紹介します。
あわせて治療費用の相場もご紹介しますので、矯正治療をお考えの方は、ぜひご参考にしてください。
大人の歯列矯正の期間
矯正治療期間は、治療の範囲・矯正装置・歯の状態に左右されるため、一概にはいえません。
ただし一般的には、大人の歯並びの矯正治療には比較的長い期間がかかります。
具体的な治療期間とその要因を解説します。
平均的な治療期間
大人の歯列矯正の治療期間は、平均1年~2年です。
ときには3年以上治療しなければならないこともありますが、早ければ1年足らずで治療が終わる方もいます。
このように歯列矯正の期間は、個人によって振り幅が大きいのが実情です。
ちなみに、歯列矯正の治療期間は2段階に分けられます。
1つ目の段階は「矯正する期間」です。
具体的には、矯正装置を装着し歯を移動させるための期間です。
矯正期間は短ければ数カ月~1年程度、長ければ2年~3年程度かかります。
矯正期間が終了すると、第2段階である「保定期間」に移行します。
保定期間は、歯の位置を固定させるための期間です。
矯正が終わった後の歯は動きやすくなっており、なにも措置をしないと元の歯列に後戻りしてしまいます。
そこで、保定期間を設け歯の後戻りを防ぐというわけです。
具体的には、リテーナーという保定装置を装着して歯列を固定させます。
保定期間は、約3年が一般的です。
また、矯正期間が長くかかると保定期間も長くなります。
治療期間を左右する要因
治療期間を左右する主な要因は、治療の範囲・装置の種類・歯の状態・年齢などです。
特に大きな要因となるのが治療の範囲です。
歯列矯正には、全体矯正と部分矯正の2種類があります。
全体矯正は奥歯を含め歯列全体を矯正する方法です。
一方、部分矯正は、一部の歯列のみを矯正する方法です。
一般的には、前歯や前歯周辺を矯正します。
全体矯正の場合、治療期間は1年~3年程度です。
部分矯正は、だいたい数カ月~1年程度で終わることが多いです。
ただし、矯正装置の種類・装着方法・歯の状態によっては、矯正期間が前後することもあります。
例えば虫歯・歯周病がある場合は、まず病変を治療しなければ矯正は行えません。
また、歯の移動距離が長ければ、その分治療期間も長くなります。
矯正装置の種類も治療期間を左右する大きな要因です。
代表的な矯正装置には「ブラケット」・「マウスピース」があります。
矯正装置別の治療期間や特徴については、後程ご紹介します。
歯列矯正の治療期間が長い理由
歯列矯正の治療期間が長くかかるのは、弱い力でゆっくり歯を動かしていくからです。
強い力をかければ短期間で終わるのでは?とお考えの方もいるでしょう。
しかし、強い力をかけたところで、歯は早く動くものでもありません。
むしろ歯や歯茎に負担がかかってしまうため、かえって口内環境が悪化することもあります。
そもそも歯列矯正とは、今ある歯を単純に並び替えるものではありません。
骨代謝という仕組みを利用して、歯を壊す・作るという作業を繰り返しながら歯を移動させていくのです。
歯列を矯正するには、「歯根膜」という部位に働きかけます。
歯根膜は歯を包むクッションのようなものです。
矯正装置を歯に装着すると、歯には弱い力がかかって進行方向に押し出されます。
このとき、歯の根元にある歯根膜も一緒に引っ張られるため形が変わってしまうのです。
具体的には、歯が押される側、つまり進行方向側の歯根膜は圧迫されて縮みます。
一方、押す側の歯根膜は引っ張られるため、伸びてしまうのです。
歯根膜には一定の厚みを保とうとする性質があります。
そのため、縮んだ側の歯根膜は広がろうとし、伸びてしまった側は縮もうとします。
縮んだ歯根膜が広がるためには、歯が邪魔です。
よって歯を溶かすために、「破骨細胞」の働きが活発になります。
それに対して、伸びてしまった側の歯根膜では、歯を太くして余分な範囲を埋めようとします。
新しい骨を作るために、「骨芽細胞」が活発に動き始めるのです。
つまり歯の両側では、骨を溶かす・作るという作業が同時に行われます。
この仕組みが「骨代謝」と呼ばれるものです。
ちなみに、伸縮した歯根膜が元の厚みに戻るまでに約2~3週間かかります。
歯列矯正は上記のサイクルを繰り返しながら、歯を少しずつ動かしていくため、ある程度の治療期間を要するのです。
ブラケット矯正の治療期間と費用
ブラケット矯正は、歯列矯正の中で最もポピュラーな治療法です。
矯正したい歯にブラケットという矯正装置を1つずつ装着し、ワイヤーでつないで歯列を整える治療方法です。
ブラケットを歯の表側に装着するため、「表側矯正」または「唇側矯正」とも呼ばれます。
ブラケットは金属製が一般的ですが、最近はセラミック製やプラスチック製も増えています。
セラミック製やプラスチック製は透明なものが多く、表側矯正でも目立ちにくいのが特徴です。
ただし耐久性では金属製に劣るため、自分のニーズに合わせた素材を選ぶのがおすすめです。
それでは、ブラケット矯正の治療期間と費用の相場を見ていきましょう。
治療期間
ブラケット矯正で歯列全体を矯正する場合、治療期間は平均2~3年です。
部分矯正であれば、治療期間は数カ月~1年程度です。
なお、近年では「デーモンブラケット矯正」という方法もあります。
デーモンブラケット矯正は、ブラケットをワイヤーでつないで矯正装置を使用します。
従来のブラケット矯正よりも治療期間が短く、痛みが少ないのが特徴です。
ブラケット矯正の治療期間は以下の通りです。
- 全体矯正:2~3年程度
- 部分矯正:数カ月~1年程度
- デーモンブラケット矯正(全体):1年半~2年半程度
従来のブラケット矯正治療に比べてデーモンブラケット矯正は治療期間が短縮できます。
費用相場
表側矯正の費用相場は、矯正方法や治療範囲によって大きく変動します。
ブラケット矯正の治療費用相場は以下の通りです。
- 全体矯正:60~100万円程度
- 部分矯正:10~40万円程度
- デーモンブラケット矯正(全体):80~100万円程度
デーモンブラケット矯正は治療期間が短い分費用が高くなります。
裏側矯正の治療期間と費用
裏側矯正はブラケット矯正の1種です。
ブラケットを歯の裏側に装着するため、「裏側矯正」または「舌側矯正」と呼ばれます。
裏側矯正は、口を開いたときに、ブラケットが目立ちにくいのがメリットです。
ただし、歯磨きしにくい・しゃべりにくいなどのデメリットも存在します。
さらに、装着の難易度が高いことから、裏側矯正に対応していない歯科医院も少なくありません。
治療費用も表側矯正より高額であるため、見た目のメリットとその他のデメリットを比較しながら、利用を検討してみましょう。
治療期間
裏側矯正の治療期間は以下の通りです。
- 全体矯正:2~3年程度
- 部分矯正:数カ月~1年程度
裏側矯正の治療期間は、表側矯正とほぼ同様です。
費用相場
裏側矯正の治療費用相場の目安は以下の通りになります。
- 全体矯正:約100~200万円程度
- 部分矯正:約15~55万円程度
裏側矯正は、表側矯正より治療費用が高額の傾向があります。
マウスピース矯正の治療期間と費用
透明なマウスピースを装着して歯列を矯正する方法のメリットは、矯正装置が目立ちにくいほか、自由に取り外しできる点です。
使用するマウスピースは、自分の歯列をかたどったオーダーメイドとなります。
歯が移動するにつれ、何度もマウスピースを作り替えながら徐々に歯列を矯正していきます。
マウスピース矯正は、歯列・歯の状況によっては利用できないこともあるため歯科医とよく相談しましょう。
たとえば抜歯を伴う矯正の場合には、クリニックによる経験値の差が大きく出るため、矯正するクリニックは慎重に選ぶ必要が出てきます。
最近は、マウスピース矯正とブラケット矯正を併用することも多く、より柔軟な治療方法を選択できるようになっています。
治療期間
マウスピース矯正の治療期間は以下の通りです。
- 全体矯正:1~2年程度
- 部分矯正:数カ月~1年半程度
マウスピース矯正の治療期間は、ブラケット矯正よりやや短い傾向があります。
費用相場
マウスピース矯正の治療費用相場の目安は以下の通りになります。
- 全体矯正:80万~100万円程度
- 部分矯正:10万~70万円程度
マウスピースはオーダーメイドであり、治療状況に応じて作り替える必要があるため高額になりがちです。
歯列矯正の治療期間を短くする方法
大人になってからの歯列矯正は、やはり見た目が気になるものです。
さらに痛みや虫歯を伴うことも多いため、できれば早く治療を終わらせたいところです。
歯列矯正の治療期間を短くするには、「コルチコトミー」などの外科手術を併用することもあります。
しかし、外科手術は費用が高額になりがちです。
歯列矯正はただでさえ高額ですから、できればこれ以上の出費は避けたいという方も多いでしょう。
そこで、手術なしで治療期間を短くする方法をご紹介します。
歯列矯正を手早く終わらせたい方は、ぜひ以下の2つの方法を検討してみてください。
部分矯正のみを行う
部分矯正は早ければ数カ月で治療が終わります。
治療期間をなるべく短くしたいという方には、おすすめの治療方法です。
部分矯正の治療範囲は、多くの場合前歯を含む上下6~8本程度になります。
前歯の歯並びがきれいになるだけでも、口元の印象は大きく変わるのでおすすめです。
マウスピースを正しく装着する
マウスピース矯正では、マウスピースは適切に装着しましょう。
具体的には、1日20時間程度の装着が必要です。
マウスピース矯正は、必要なときに自分で装置を外せるのがメリットです。
たとえば食事や歯磨きのときは、マウスピースがない方が虫歯・歯周病の予防になります。
しかし、自分で取り外せるからといって、装着時間を短くしてしまうと十分な矯正効果が得られません。
十分な効果が出なければ、当然ながら治療期間は長引いてしまいます。
歯列矯正で悩んだら信頼できる歯医者に相談
歯列矯正には、たくさんのお金と時間がかかります。
大きな出費をするのですから、治療は絶対に成功させたいものです。
歯列矯正を成功させるには、信頼できる歯医者になんでも相談するのが一番です。
ところで、信頼できる歯医者とはどのような医者なのでしょうか。
判断基準はさまざまですが、答えの一つは「自分の意見に耳を貸してくれるかどうか」です。
例えば、希望する治療方針や最終的に目指したい口元について具体的なビジョンを共有してくれる歯医者がいいでしょう。
ときには、自分の希望と歯医者が提案する治療方針が異なる場合もあるでしょう。
そういうときでも、納得がいくまで説明をしてくれる歯医者ならば、信頼関係を築くのは難しくありません。
反対に自分の意見に聞く耳を持たない歯医者はやはり信頼しづらいものです。
信頼関係がなければ、心から満足のいく治療を受けるのは難しいでしょう。
より効果の高い歯列矯正を受けるには、セカンドオピニオンの利用もおすすめです。
別の歯医者から異なる治療方針の提案を受けることで、より納得のいく選択が可能になるからです。
まとめ
歯列矯正にはさまざまな方法がありますが、おおむね、治療期間・費用はかさみがちです。治療方法を選ぶときは、各治療法のメリット・デメリットを比較し自分のニーズに合ったものを選びましょう。
大切なのは納得のいく治療を受けるために信頼できる歯医者を探すことです。