【監修:青山健一】
目 次
倒れた奥歯は、矯正治療で整えられます。矯正治療は、口元の見た目の悪さから敬遠されることも少なくありません。
しかし、奥歯を倒れたまま放置すると、虫歯や歯周病の悪化リスクが高まります。場合によっては、歯を永遠に失うことにもなりかねません。
今回は、倒れた奥歯を起こすための矯正治療について紹介します。あわせて奥歯が倒れる原因や、放置した場合のリスクも紹介します。
歯科矯正で奥歯を起こすことはできるのか?
歯科矯正には全体矯正と部分治療があります。奥歯を起こすのは、部分矯正でも十分に可能です。
ただし歯の状況が悪ければ、奥歯だけでなく全体の歯並びを矯正する必要があります。最悪の場合、矯正治療そのものができないかもしれません。
奥歯の矯正を成功せるには、奥歯が倒れる理由や、口内環境が悪化する原因をしっかり把握しましょう。
奥歯が倒れる理由
奥歯が倒れるのは、おおむね歯並びに隙間があることが原因です。歯に隙間ができる主な原因を紹介します。
歯が抜けたままになっている
抜歯などによって歯が抜けると、もちろん歯の間には隙間ができます。この隙間を放置すると、他の歯が隙間へ動くことがあります。
そもそも歯並びを一列に保つには、歯が隙間なく並ばなければなりません。なぜなら歯は、互いに押し合うことで位置をキープするからです。
もし歯並びに隙間ができると、その両側の歯は「つっぱり」を失います。つまり元の位置をキープし続けるのが難しくなるのです。
よって、隙間の両側の歯は、隙間のほうに徐々に移動していきます。このとき、歯はバランスが非常に不安定な状態です。
些細なトラブルをキッカケに、倒れることもめずらしくありません。代表的な原因として、噛み合わせの悪化が挙げられます。
たとえば下側の歯が一本抜けて、歯並びに隙間ができたとしましょう。両側の歯は隙間に向かって移動します。
すると、噛み合わせのときに、上の歯を受け止める歯の位置がズレてしまいます。すなわち、上の歯の圧力が斜めに下の歯に加わるわけです。
歯は上下の圧力には強いものの、斜めの圧力には弱いという性質があります。上からの負荷が大きければ、倒れることもめずらしくありません。
歯と歯の間の隙間が広い
いわゆる「すきっ歯」も、奥歯が倒れる原因の一つです。理由は前項と同様で、歯同士が互いに「つっぱり」あわないからです。
すきっ歯になる理由は、先天的・後天的の2種類あります。先天的な理由は、生まれつき歯の本数が少ないケースや、歯が小さいケースです。
後天的な理由は、加齢による歯ぐきの後退などがあります。いずれにしろ、すきっ歯を放置すると歯列全体が歪んで奥歯が倒れやすくなります。
奥歯が倒れることで起こるリスク
倒れた奥歯を放置すると、見た目だけでなく、口内環境にも悪影響を及ぼします。状況が悪ければ、矯正治療ができないかもしれません。
最悪の事態を避けるには、リスクにあわせた対策をとることが大切です。
虫歯や歯周病
奥歯はただでさえ歯磨きしにくい部位です。奥歯が倒れていると、倒れた内側部分はなおさら磨きにくくなります。
磨き残しの部分には、プラーク(歯垢)が溜まります。プラークは雑菌の温床です。放置すれば虫歯や歯周病に発展しかねません。。
しかも奥歯が倒れていると、その部位にはとくに食べカスが詰まります。その分、他の部位よりも虫歯や歯周病のリスクが高いのです。
すでに奥歯が倒れているという場合、その部位の歯磨きは丹念に行いましょう。
歯の寿命を縮める
歯の寿命を縮める理由は主に3つあります。1つ目は、他の健康な歯に負担がかかりすぎることです。
歯が倒れると、その分、噛む力が弱くなります。すると噛む力を補おうとして、他の歯に大きな負担がかかるのです。
とくに奥歯は、他よりも噛む力が強い部位です。食べ物を咀嚼するときに奥歯にかかる負荷は、前歯の約4~5倍ともいわれます。
奥歯が倒れると、それだけ強い力が他の歯に分散されるわけです。負担が大きくなればなるほど、他の歯の寿命は縮まります。
2つ目は、噛み合わせの問題です。奥歯が倒れると歯並びに余分な隙間ができるため、噛み合わせに支障が出ます。
噛み合わせが悪くなると、歯に大きな負担がかかることは前述しました。負担が大きければ、歯の劣化スピードははやくなります。
3つ目は、歯周病や虫歯の影響です。歯周病や虫歯は、歯ぐきに炎症を起こします。軽度であればさほど問題はありません。
しかし、歯周病や虫歯を長年放置すると、炎症はやがてあごの骨に及びます。するとあごの骨が溶けるため、歯が抜け落ちやすくなるのです。
ちなみに奥歯が倒れると、磨き残しや噛み合わせの問題から歯周病リスクが高まります。
つまり、倒れた奥歯は、間接的に他の歯の寿命を縮めかねないのです。対策としては、早急な治療が一番です。
歯並びが悪くなる
倒れた奥歯を放置すると、他の歯並びにも悪影響が出ます。歯並びが悪くなるメカニズムは、主に4つあります。
1つ目は、すきっ歯です。奥歯が倒れると、歯の間に余分な隙間ができます。歯が動きやすくなるため、歯と歯の間隔が広くなります。
2つ目は、奥歯が倒れてできた隙間に他の歯が移動するケースです。あるいは隙間に歯が倒れ込むことも少なくありません。
3つ目は、奥歯が倒れることで他の歯を圧迫するケースです。奥歯が内側に倒れている場合はとくに注意してください。
奥歯が内側に倒れると、他の歯が並ぶスペースが狭くなります。すると歯が一列に収まりきらず、内や外に押し出されることがあるのです。
4つ目は、噛み合わせの悪さが原因です。奥歯が倒れると、奥の噛み合わせの位置が低くなります。
すると他の歯が上下でぶつかりやすくなるため、衝撃によって、内や外に飛び出すことがあります。
とくに影響を受けやすいのが前歯です。上下がぶつかることで歯が外側に張り出し、かつ、歯と歯の間隔が開きやすくなります。
この状態は「フレアーアウト」と呼ばれます。いわゆる「出っ歯」と「すきっ歯」が同時に起こっている状態です。
他の歯並びを綺麗に保つためにも、倒れた奥歯はなるべく早めに治療しましょう。
奥歯を起こす矯正治療
奥歯を起こすための矯正治療は大きく分けて「インプラント矯正」と「ワイヤー・ブラケット矯正」の2種類です。
それぞれの特徴やメリット・デメリットを解説します。
インプラント矯正
小さなネジを歯茎に埋め込み、倒れた奥歯をゴムで引っ張り起こす方法です。「歯科矯正用アンカースクリュー」とも呼ばれます。
アンカースクリューとは、歯ぐきに埋め込むネジの名称です。実際は骨に直接ネジを打ち込むため、固定源がブレにくい点が特徴です。
固定源がブレにくいと、以下のようなメリットがあります。
【インプラント矯正のメリット】
- 奥歯のような太い歯でも比較的簡単に矯正できる
- 歯の移動距離を長くできる
- 治療期間を短縮できる
- 歯を単独で移動できる
アンカースクリューは強い力にもグラつきにくいため、太い奥歯でも簡単に引っ張り起こせます。歯の移動距離を伸ばすことも可能です。
インプラント矯正は動かしたい歯に集中的に負荷をかけられます。よって、従来の矯正より治療期間が短いのも大きな特徴です。
一方、インプラント矯正にはデメリットもあります。たとえば、アンカースクリュー埋入のために麻酔手術が必要です。
アンカースクリューが安定しなければ、再手術も必要です。手術を要する分、他の矯正治療より費用が高い点にも留意してください。
【インプラント矯正のデメリット】
- 麻酔手術が必要
- 他の矯正治療より値段が高め
- アンカースクリューが脱落する場合がある
ワイヤー・ブラケット矯正
ブラケットという小さな装置を歯に一つずつ装着し、ワイヤーでつなぐ方法です。もっともポピュラーな矯正方法でもあります。
倒れた奥歯と他の歯をワイヤーでつなぎ、少しずつ引っ張り起こします。他の歯への負担を軽減するため、強い負荷はかけられません。
有名な矯正方法であることから、多くの方に安心感がある矯正治療です。他の矯正と比べて費用もリーズナブルです。
【ワイヤー・ブラケット矯正のメリット】
・矯正治療として実績がある
・他の矯正方法に比べると値段が安い
ブラケット矯正のデメリットは、矯正自体にも時間がかかります。奥歯を動かすには大きな力が必要なため、他の歯への負担が大きくなるからです。
他の歯への負担を減らすには、奥歯を引っ張る力を小さくしなければなりません。よって、完全に起こすまでにはある程度時間がかかります。
デメリットはもう一つあります。それは、見た目の問題です。ブラケット矯正は、口を開いたときにワイヤーが丸見えなのが難点です。
ただし、近年は金属製以外の装置も普及しています。白色や透明なものも多く、口を開けてもさほど目立ちません。
しかし、強度の面では金属製に劣ります。矯正装置の素材については、見た目のメリットと性能を比較しながら検討しましょう。
【ワイヤー・ブラケット矯正のデメリット】
- 治療期間は半年~3年前後と比較的長め
- 口を開いたときに目立ちやすい
- つけ始めは痛みを感じやすい
インプラント矯正で奥歯を起こす流れ
インプラント矯正はさほど難しい治療過程はありません。奥歯を起こすのは、以下の3ステップで完了です。
歯茎にアンカースクリューを埋入
まずは歯ぐきにアンカースクリューを埋め込みます。アンカースクリューはチタン製が一般的で、人体に悪影響はありません。
なお、アンカースクリューは歯ぐきの下のあごの骨に立てます。このとき、歯ぐきとあごの骨の表面を少し削ります。
手術には麻酔を用いるため、痛みはほとんどありません。手術時間は、1本あたり約20~30分程度です。
倒れた歯に力を加えて起こす
倒れた奥歯とアンカースクリューにゴムをかけます。ゴムの伸縮性を利用して、奥歯を引っ張り起こしていきます。
治療期間は個人差があるものの、3カ月~半年が平均的です。
治療後にアンカースクリューを抜く
奥歯を起こしたら、歯ぐきからアンカースクリューを取り除きます。ほとんど痛まないため、麻酔は使用されません。
歯ぐきとあごの表面にあけた穴は、自然と塞がっていきます。ちなみにアンカースクリューを抜いた後も、矯正治療が続く場合があります。
奥歯が倒ると、他の歯並びにも支障が出るケースが多いためです。歯並び全体をきれいにするには、他の歯の矯正治療が必要です。
奥歯を起こしてできた余分な隙間に、インプラントの歯を差し込む場合もあります。
倒れた奥歯を治療するなら部分矯正という選択肢
倒れた奥歯を放置すると、虫歯や歯周病のリスクが高まります。噛み合わせの問題から、歯並び全体に悪影響が出ることも少なくありません。
倒れた奥歯は、できる限り早急に矯正するのが望ましいです。従来奥歯は矯正が難しい部位でしたが、近年は部分矯正で手軽に治療できます。
ただし、歯の状態によっては部分矯正ができない場合もあります。治療法を知るためにも、まずは歯科医院を受診しましょう。
倒れた奥歯は放置せず歯科医に相談しよう
最近は、矯正専門の歯科医院も数が増えています。最新の矯正治療法を取り入れている場合も多いため、詳しくは担当医に相談しましょう。
一般的に矯正治療は、半年以上かかるものです。長い通院が必要となるため、信頼できる歯科医院を選ばなければなりません。
信頼の基準はさまざまですが、できれば、納得のいく説明をしてくれる医者を選びましょう。
患者さま自身が治療方針に納得できなければ、治療完了後も満足感を得にくいからです。
一つの歯科医院で納得できなければ、セカンドオピニオンで他の歯科医院を受診するのもよい方法です。
まとめ
今回は、倒れた奥歯の矯方法について解説しました。あわせて、倒れた奥歯を放置するリスクについてもご理解いただきました。
倒れた奥歯を放置すると、見た目が悪くなるだけでなく、歯周病や虫歯といった実害も出てきます。できれば早急に治療しましょう。
近年は矯正治療の発達により、奥歯の部分矯正も手軽に行えるようになりました。ただし歯科矯正は繊細な治療です。
満足度の高い矯正治療を受けるためにも、信頼できる歯科医院を探してください。