【監修:青山健一】
目 次
「受け口」は、見た目の問題や噛み合わせの不具合などを抱えやすく、治療をご希望される患者様が多い症例です。
鏡を見るたび・言葉を発するたび、人目を気にして心が痛んでしまう方には、精神的なケアが必要なケースもあります。
この記事では、受け口になってしまう原因やタイプ、外科手術の種類・注意点などを解説します。
外科手術を検討したいけれど「怖い」とお悩みの方は、歯科医へ相談に行く前の予習として、どうぞお役立てください。
受け口になる原因
まず、なぜ受け口になるのか疑問に思われている方も多いのではないでしょうか。
受け口になる原因には主に以下の3つの要素があり、いずれかひとつというよりも複数の原因が当てはまるケースが多く見受けられます。
- 親から子へと受け継がれる「遺伝」
- 成長の過程における「顎の発育不足・発育過剰」
- 生活環境における「癖・悪習慣」
ここからは、それぞれの原因について詳しく解説します。ぜひご参考にしてください。
遺伝
受け口の原因のひとつとして親からの「遺伝」があります。
親子は顔が似るようにフェイスラインはもちろん、骨格や歯の生え方・形・大きさなども似る傾向が見うけられます。
骨格は「上の顎が下の顎よりも小さい」「下の顎が長い・前に出ている」など、外観に影響があるのが特徴です。
歯の生え方は「上の歯が内側に・下の歯が外側に向かって生えている」「反対咬合になっている」「叢生」などの特徴があります。
口呼吸
「口呼吸」は受け口になる原因のひとつです。
習慣的に口呼吸をしていると、おのずと口が開いたままとなるため、下顎を前に押し出してしまう傾向があります。
「口が開いていると下顎が出てしまう説明にピンとこない」という方は、前を向いて口呼吸をしながら顎の力を抜き、ゆっくりと顔を下に傾けてみてください。
すると、スーッと下顎が前方向に移動し、押し出されるような感覚を感じていただけると思います。
この状態で勉強・読書・スマホ・パソコンなどを長時間、幼い頃から習慣にしていたら、受け口の原因になるのをご理解いただけたでしょうか。
口呼吸は受け口になる生活習慣のひとつにあげられます。
舌が短い
先天的に舌が短いことも、受け口になる原因のひとつにあげられます。
それは、舌が短いと舌の動きに大きな役割を果たしている「舌小帯(ぜっしょうたい)」と呼ばれる筋も短い可能性が高いからです。
舌小帯とは舌の裏側についている縦に伸びた筋状のもので、この筋が通常より短いと「舌小帯短縮症」と診断されることもある症例です。
普段、口を閉じているときの舌は上顎にぴったりと付いているのが本来の置き場所ですが、舌が短いと舌を上に持ち上げておくことが難しい傾向があります。
すると舌が下顎に落ち、下顎および下の歯を前方に押し出して受け口の原因となってしまうのです。
これらは生まれながらの遺伝と、舌の力が弱い発育不足・生活習慣などが要因として考えられます。
上顎が成長していない
受け口は上顎が成長していないことも原因のひとつといわれています。
それは、上顎が下顎よりも小さいと上下の前歯の噛み合わせが反対になる反対咬合になる可能性が高まるからです。
人間の上顎と下顎の成長期にはズレがあり、上顎は12歳くらいまでが成長期、下顎は上顎と入れ替わるように12歳から18歳くらいまでが成長期となります。
例えば、上顎の発育が遅れ十分に成長できていないうちに下顎の成長が始まってしまった場合、下顎は上顎を追い越して成長します。
すると、上顎を下顎が囲い込むように成長してしまい、反対咬合となるのです。
これらは親からの遺伝的な要素と、成長の過程における上顎の発育不足、もしくは下顎の発育過剰に分類されます。
受け口矯正で手術が必要な症状とは
それでは、受け口で手術が必要となる症状にはどのようなものがあるのでしょうか。
下記にご自身の特徴が当てはまるかどうかご覧になってみてください。
- 骨格的に受け口の特徴が現れている
- 噛み合わせが悪い「咀嚼障害」がある
- ものをうまく飲み込めない「嚥下障害」がある
- しゃべりにくい「発音」に障害がある
- 顎変形症・顎関節症がある
- 受け口が原因による体(首・肩・腰など)のゆがみ・ズレがある
他にも、お顔・口元のゆがみや横顔のシルエットなど、見た目の問題によるコンプレックスはメンタルにも影響をおよぼします。
生活に支障がある症例とともに、メンタル(精神的)にも考慮して判断する必要があります。
下顎前突のタイプ
下顎前突のタイプは、骨格に起因する「骨格性下顎前突」と、歯並びに起因する「歯槽部性下顎前突」の2種類に分類されます。
次に、それぞれの症例や原因などについて解説いたします。
骨格性下顎前突
「骨格性下顎前突」タイプは、生まれながらの遺伝によって「骨格的」に受け口になっている症例です。
骨格の遺伝により、顎骨のサイズや顎骨の位置などが決まっていて、上顎より下顎が前に出ているケースがあてはまります。
症状によっては保険治療の適用となる「顎変形症」と診断される症例も含まれます。
歯槽部性下顎前突
「歯槽部性下顎前突」タイプは、「歯の生え方」の影響よって受け口になっている症例です。
顎の骨のサイズや位置は問題なく、下の歯が前方向に生えていたり、噛み合わせが悪かったりすることから、反対咬合になるケースが含まれます。
遺伝による骨格性下顎前突とは違い、生活習慣や癖など後天的な原因があるケースも多く見受けられます。
受け口矯正の手術の種類
受け口矯正の外科的手術には大きくわけて4種類の術式があります。それぞれ方法は違いますが、顎の骨を切って移動させる手術です。
この術式は主に骨格性下顎前突(骨格的に下顎が上顎よりも前に出ている症例)に対して適応され、外観の改善に大きな効果が期待できます。
いずれも口の中からメスを入れる術式のため、傷跡がお顔に残る心配はありません。
下顎前方歯槽部骨切り術
下顎前方歯槽部骨切り術(かがくぜんぽうしそうぶほねきりじゅつ)は、別名「セットバッグ法」とも呼ばれています。
下の前歯と下顎の前方部分の骨を「引き出し」の形のように切って後方に移動させる手術です。
切る場所は下の歯の正中線(中央)から4番め(第1小臼歯)、もしくは5番めの(第2小臼歯)を抜歯して、そこから前歯を下顎の骨とともに引き出しのような形に切ります。
切った下の前歯と下顎の骨は後方へ移動し、段差になった部分は骨を削ってなだらかに形成します。
主に、下顎前突症や反対咬合などの症例に適用され、顎の骨とともに顎の先端の骨(オトガイ)の手術も併用することが可能です。
顎の骨の切断部はチタンプレートなどで固定して、術後1年ほど経ってから再手術にて取り外す必要があります。
下顎枝矢状分割法
下顎枝矢状分割法(かがくししじょうぶんかつじゅつ)とは、顔のエラのあたりの骨を「矢」のような形に切って分割し、後方にスライドさせる手術です。
下顎枝(下顎骨の後方)と下顎骨(下顎の前方)を分割してスライドさせるため、受け口(しゃくれ)の症状に適用されます。
下顎前方歯槽部骨切り術と同様に、分割した骨はチタンプレートなどで固定するため、再手術で取り外す必要があります。
下顎枝垂直骨切り術
下顎枝垂直骨切り術(かがくしすいちょくこつきりじゅつ)とは、下顎の付け根あたりの骨を垂直に切って移動させる手術です。
受け口矯正の手術の中では比較的難易度が低めで、世界各国でも積極的に用いられている術式です。
この術式のメリットは、骨を垂直に切り後方へ移動させた後、プレートで固定しないことと、後遺症の心配が少ないことにあります。
骨の切断部をプレートなどで固定しないため、長期間にわたり顎を固定する必要がありますが、再手術をする必要がないのもメリットのひとつです。
上顎骨の前方移動
上顎骨の前方移動は、上顎骨の上部(鼻の下部あたり)を水平に切って前方に移動させる手術です。
この術式は主に、上顎が発育不足で小さい傾向があり、下顎が大きく見えてしまうケースに適応されます。
上顎が奥に引っ込んでいることにより下顎が目立つ(しゃくれ)を改善するメリットがあります。
受け口矯正で手術するメリット
受け口は、特に骨格性下顎前突のように骨格が原因となっているケースは、手術による治療のメリットが大きいと考えられます。
上の歯と下の歯の噛み合わせが反対になっている、歯並びだけの問題なら歯科矯正治療でも良いですが、骨格が原因の場合は外科手術が有効です。
受け口矯正で治療すると骨格の手術とともに、歯並びや噛み合わせもトータルに治療できるメリットがあります。
手術で受け口を治療する際の注意点
受け口の手術は、外観と噛み合わせが整うメリットがありますが、治療を受ける際に心得ておきたい注意点があります。
お顔の骨を切って動かす外科手術となるため、やはり痛みや出血・腫れなどが伴います。
手術方法により詳細は異なりますが、おおむね手術後の2週間はフェイスバンテージを巻いて圧迫しながら過ごさなければなりません。
さらに、術後の腫れが完璧におさまるまでには、通常3~6ヵ月のダウンタイム(腫れが抑まるまでの期間)がかかることを心得ておきましょう。
お食事は、術後1ヵ月程度は顎を動かすことができないため、流動食で過ごすことになります。
また、手術は骨や筋肉・神経にアプローチするため、唇やオトガイに痺れや違和感など、後遺症があらわれることがあることがあります。
外科手術の治療は、術後の痛み・腫れ・お食事・後遺症のリスクなどもよく理解したうえで検討しましょう。
受け口矯正で手術が必要か悩んだら
受け口の特徴にコンプレックスがあり、外科手術が必要かお悩みのときは矯正歯科に相談しましょう。
矯正歯科では外観の治療と、歯並び・噛み合わせなどをトータルに検査したうえで、最適な治療方法をご提案します。
まとめ
受け口にはさまざまなタイプがあり、治療方針もたくさんあります。
お顔の見た目・骨格など遺伝的に受け口の特徴が現れていたら外科手術、噛み合わせのみに反対咬合が現れていたら歯科矯正で治療できる可能性があります。
また、受け口になる原因に後天的な生活習慣の癖をあわせ持つ方は、治療後の後戻りを防ぐために悪癖の改善も目指しましょう。
矯正歯科ではさまざまなお悩みに対して、外科手術や歯並び・噛み合わせの歯列矯正などをトータルに考えて最適な治療方針を導きます。
受け口矯正と外科手術は信頼できる歯科医のもとで、メリットやリスクをよく考慮のうえ検討なさってください。