【監修：青山健一】
目 次
受け口やしゃくれに、コンプレックスを持つ方は多くいます。芸能人の方であれば特徴として捉えられますが、一般にはマイナスなイメージをもつ方が多いようです。
受け口は、治療によって改善できます。受け口の改善には症状や原因によって、矯正治療や手術が用いられます。
ただし受け口の治療では、思うような仕上がりにならない例もあるため注意が必要です。受け口の治療を検討するときは、手術で失敗しない方法やメリットなどを把握しておきましょう。
受け口の治療法とは
受け口とは、下の歯列が上の歯列より前に出ている状態のことです。一般には、しゃくれと呼ばれ、専門的には反対咬合といいます。
受け口になってしまうと、あごの動きが悪くなるケースがよくあります。噛み合わせも悪くなってしまい、うまく食べ物を噛めないなどの症状が現われます。
加えて受け口は、発音にも影響を与えかねません。噛み合わせが悪い状態だと、息がもれてしまい正確な発音ができないことがあります。
また顎関節症の原因となることもあるため、注意が必要です。噛み合わせが悪い状態が続くとあごに負担がかかってしまい、あごの関節が疲労してしまいます。
疲労が蓄積するとあごの関節が炎症を起こし、痛みを感じるようになります。
このような症状が確認されたときは、日常生活に支障をきたすおそれもあるため早期の治療が必要です。
受け口の治療には、矯正治療または外科的矯正手術が用いられます。主な治療法はマウスピースによる矯正治療、またはセットバック法といった外科的手術です。
どちらの治療法が必要となるかについては、原因や症状によって異なります。それぞれ必要となるケースをみてみましょう。
外科的矯正手術が必要ないケース
歯並びが原因で受け口になっている場合には、外科的矯正手術は必要ありません。歯並びの改善が必要となるため、矯正治療が行われます。
矯正治療にはいくつかの治療法があり、歯並びの状態によって用いられる手法が異なります。軽度の症状であれば、マウスピースによる矯正も可能です。
マウスピース矯正は、マウスピースを装着し歯並びの改善を行う治療方法です。透明のマウスピースを長時間つけることで、少しずつ歯並びを整えていきます。
マウスピース矯正は、まわりから目立ちにくいことがメリットです。装着するマウスピースは透明であるため、口を開けたときにもあまり目立つことがありません。
一方でマウスピースは、対応できる症状が限られます。症状がひどいときにはマウスピース矯正では、矯正する力が足りず対応ができません。
そのような場合には、ワイヤー矯正が用いられます。ワイヤー矯正とは、金属のブラケット装置を用いた治療方法です。
ブラケット装置を歯に装着し、そこにワイヤーを通して歯並びを整えていきます。矯正する力が強く細かい調整もできるため、幅広い症状に対応が可能です。
ただしワイヤー矯正は、器具が目立つことがデメリットです。金属の器具を使うため、口を開けたときに装置が目立ってしまいます。
外科的矯正手術が必要なケース
あごの骨が原因で受け口になっている場合には、外科的矯正手術が必要です。骨格を調整する必要があるため、矯正治療だけでは対応できません。
受け口の改善に用いられる手術は、原因や症状によって異なります。例えば下顎の前歯部分が前出しているケースでは、主にセットバック法が用いられます。
セットバック法とは、下顎の骨を切って突出部分を後方に移動させる方法です。はじめに抜歯を行い空いたスペースに下顎をスライドさせ、上顎とのバランスを調整します。
また下顎の成長し過ぎが原因となるときには、下顎枝矢状分割法などの治療が行われます。下顎の骨自体が成長し過ぎていると、下顎全体を後退させなければいけません。
そのため前歯付近の調整だけでは、受け口の改善が困難です。そのため下顎枝矢状分割法ではエラ付近の骨を切り、下顎を全体的に後方へとスライドさせます。
次に上顎とのバランスを調整し、位置が決まったらプレートで固定すれば手術は完了です。また受け口の原因には、上顎の成長不足が原因となるケースも存在します。
成長不足により上顎が小さいため、受け口のように見えることがあります。このような場合には、上顎を前方へ移動させる施術が必要です。
受け口の手術で失敗しないための方法
受け口の手術を検討するときは、事前に失敗しない方法を把握しておくことが重要です。専門的な治療内容についての対策は難しいですが、自分で取り組めることもあります。
自分でもできることに取り組むことで、手術が失敗に終わるリスクを減らせます。
保険が適用できるか確認
手術で失敗しないためには、かかる費用の確認も大切です。矯正治療や手術にかかる費用は高額になる場合があるため、事前に確認しておくことをおすすめします。
また症状によっては、保険の適用が可能です。ただし保険が適用されるのは、満たすべき条件があります。
まずは、あごの骨が原因で受け口となっている場合です。正式には顎変形症といい、手術などの治療を行う際には保険が適用されます。
次に厚生労働大臣が定める疾患に該当するケースです。唇顎口蓋列などのように、指定された疾患に該当するときは保険が適用されます。
基本的には、上記の条件に該当するときが保険適用です。治療で矯正や入院が必要となるときは、それらにも保険が適用される場合があります。
なお保険を適用するには、指定された医療機関または施設での治療が必要です。どのクリニックでも保険が適用されるわけではありません。
保険の適用を希望するときは、指定された歯科医院を受診しましょう。
どの治療法が適切か総合的に判断
患者様が治療法を選択できるときは、総合的な判断が大切です。受け口の手術にはいくつかの治療法が用いられており、原因や症状によって適した手法が異なります。
手術を検討するときは、事前に歯科医から治療法を提案されることが一般的です。選択肢がいくつかある場合には、きちんと理解したうえでの決断が重要です。
「よく分からないから」といって歯科医に任せきりでいると、仕上がりが理想と違ったときにトラブルになってしまいます。手術では骨を切っているため、もとに戻すこともできません。
取り返しがつかない事態を避けるためにも、治療法の選択は慎重に判断しましょう。不明な点などがあれば、納得するまで質問してください。
手術で失敗しないためには手術への理解を深め、納得したうえで治療していくことが大切です。気になることがあれば、歯科医へ積極的に相談しましょう。
受け口の手術の失敗例とは？
受け口の手術を受けた方のなかには、「自分の想像と違った」と感じる方もいます。手術を受けると受け口の改善はできますが、思わぬ作用が生じる場合があります。
ときには、不測の事態が発生する可能性もゼロではありません。手術後に後悔しないためには、リスクについても理解しておくことが大切です。
受け口の後戻り
受け口の治療を行った後は、後戻りに注意が必要です。後戻りとは、改善した症状がもとに戻ろうとすることをいいます。
治療を終えたばかりのときは、安定しておらず歯なども動きやすい状態です。そのため癖や生活習慣などによっては、歯がもとの位置に戻ってしまうことがあります。
後戻りを防ぐためには、リテーナーの使用が有効です。リテーナーとは保定装置とも呼び、歯の状態を維持するために用いられます。
リテーナーを装着して改善した状態をキープすれば、後戻りを防ぐことが可能です。ただしリテーナーは、一定期間きちんと装着しないと効果が薄れてしまいます。
リテーナーを適切に装着しないことで、後戻りしてしまうケースはよくあることです。リテーナーは歯科医の指示に従い、適切な期間装着しましょう。
噛み合わせの悪化
受け口の治療を行うと、噛み合わせが悪くなる場合があります。手術によってはあごが左右非対称となり、左右のバランスが崩れるためです。
受け口の手術では、あごを動かしてバランスを調整します。しかし神経の位置などによっては、あごの移動が制約されてしまい思うように動かせません。
あごを適切な位置まで移動できないと、左右のバランスが崩れてしまう場合があります。すると「片側だけ噛みにくい」などのように、噛み合わせも悪くなってしまいます。
噛み合わせの悪化により日常生活に支障が出る場合には、改めて噛み合わせの改善治療を検討しましょう。
輪郭の変化
受け口の手術では、顔つきの変化にも注意が必要です。手術ではあごの骨を移動させるため、輪郭に変化が生じます。
輪郭が変化するため、顔つきが変わるのは避けられません。このときに現れるのが望ましい変化であれば良いですが、望ましくない変化が生じることもあります。
そのため受け口の手術を検討するときは、顔つきが変化するリスクを踏まえておくことが必要です。術後の変化をシミュレーションできる歯科医院もあります。
シミュレーション通りになるとは限りませんが、手術を受けるか判断する際に参考にできます。手術による顔つきの変化が気になる方は、あらかじめ歯科医へ相談してみましょう。
受け口の手術をするメリット
受け口の改善には、さまざまなメリットがあります。メリットを知っておくと、手術を検討するときに判断がしやすくなります。
まずは消化不良の改善です。受け口になっていると噛み合わせが悪く、食べ物を細かくかみ砕けません。
すると胃腸への負担が増えてしまい、消化不良を起こしやすくなります。受け口を改善できればきちんとかみ砕けるため、胃腸への負担も減らせます。
また受け口の改善は、頭痛や肩こりの改善にも効果的です。受け口になっている場合、症状によってはあごに負担がかかっています。
あごの筋肉は首や方につながっており、負担が増えると肩こりや頭痛を引き起こすとされています。そのため受け口の方が肩こりに悩まされている場合には、噛み合わせが原因かもしれません。
受け口を治療し噛み合わせを改善すると、肩こりなども改善する可能性があります。心当たりがある方は、治療を検討してみましょう。
受け口の手術をするデメリット
受け口の手術にはさまざまなメリットがある一方で、いくつかのデメリットも存在します。治療を受けたことを後悔しないためには、デメリットも知っておくことが大切です。
まずは入院が必要なことが挙げられます。受け口の手術を行った場合、治療方法によっては入院する必要があります。
入院期間は、場合によって2週間ほどの入院が必要になるため注意が必要です。そのため働いている方などは、職場へ相談して業務を調整する必要があります。
また術後の腫れや痛みについても、あらかじめ理解が必要です。手術して間もないときは、腫れや痛みを伴うことがあります。
ただ、時間が経つにつれ腫れや痛みはひいていきます。痛みが強いときなどは担当医に相談して、痛み止めなどを処方してもらいましょう。
受け口の手術を受ける歯科医院の選び方
受け口の手術を検討するときは、信頼のおける歯科医院を選ぶことが大切です。信頼できる歯科医院であれば不安を和らげられ、安心して治療に専念できます。
歯科医院を選ぶ際には、おさえておきたいポイントがあります。
歯科医院の口コミや症例実績をチェックしよう
まずは、歯科医院のリサーチが必要です。正確な情報を集めて比較できれば、信頼できる歯科医院であるかきちんと判断できます。
リサーチを行うときは、口コミなどを参考にするのも有効です。口コミサイトの数も多く、さまざまな情報が投稿されています。
なかには、実際に歯科医院で治療を受けた方の投稿もあります。詳細な体験談などが掲載されていることもあり、具体的な治療の内容を知ることも可能です。
よりリアルにイメージできるため、歯科医院を選ぶときに役立ちます。ただし、口コミのみを信じるのは危険です。
口コミのなかには、信ぴょう性に欠ける内容も存在します。曖昧な情報に惑わされてしまうと、自分に合う歯科医院なのか適切に判断できません。
そういった事態を防ぐためには、歯科医院が行ってきた症例実績などの確認をおすすめします。
実績が豊富だということは、それだけ信頼して利用する方も多いということが推察できます。
加えて経験も豊富であることが予測できるため、治療が失敗するリスクを軽減させることが可能です。歯科医院のリサーチを行う際は、口コミと併せて実績も確認しておきましょう。
カウンセリングをしっかり受けよう
受診した際に行われるカウンセリングも重要なポイントです。だれしも手術を行うときには失敗への不安感、手術に対する恐怖感などがあります。
不安などを完全に消すことは難しいですが、少しは和らげられます。そのためにはカウンセリングをしっかりと受け、納得してから治療を行うことが大切です。
ほとんどの歯科医院では、治療をはじめる前にカウンセリングが行われます。カウンセリングでは症状の説明や治療法、治療期間などが説明されるのが一般的です。
手術が必要となるときは、併せて手術のリスクについても説明がされます。このとき、歯科医ときちんとした信頼関係を築けるかがポイントです。
歯科医の説明が少なかったり、横柄な態度だったりすると不安がより強くなってしまいます。このような状況では、適切な信頼関係を築くことはできません。
納得して治療を行うことも難しいため、手術をしたとしても後にトラブルに発展する可能性があります。トラブルなどを防ぐには、カウンセリングで担当医と信頼関係を築くことが重要です。
納得して治療を受けるためにも、カウンセリングが丁寧な歯科医院を選びましょう。担当医と信頼関係を築けると、安心して治療を進められます。
セカンドオピニオンも大切に
失敗のリスクを減らすには、セカンドオピニオンも大切です。別の歯科医の見解を知ることで、より良い決断につながります。
歯科医にもそれぞれに方針があり、治療に用いる手法も歯科医によってさまざまです。別の歯科医に意見を求めることで、より自分に適した治療法が見つかるかもしれません。
このようにセカンドオピニオンを活用すると、選択肢が広がる可能性があります。仮に同じ見解だったとしても、初診の信ぴょう性を高めることにつながります。
さまざまな意見を聞くことで、症状への理解を深められることもメリットです。しっかりと納得したうえで決断できるため、治療に専念しやすくなります。
またセカンドオピニオンで、別の症状が発見されることもあります。病気の見落としも防げるため、他の症状の早期発見にも効果的です。
受け口の悩みは歯科医に相談しよう
受け口であると見た目が気になり、悩む方も多くいます。なかにはコンプレックスをもち、大衆の場への参加にストレスを感じる方もいるようです。
それでは、充実した日々を送ることはできません。受け口は治療を行うことで、改善が可能です。
受け口の悩みは1人で抱え込まず、歯科医へ相談してみましょう。専門的なアドバイスを受けられるため、自分に合った解決策が見つかるかもしれません。
まとめ
受け口は見た目だけでなく、肩こりなど体にも影響を与えます。気になる症状が現われたときは、早期治療が大切です。
受け口の改善を行うときは、軽い症状であれば矯正治療でも改善が見込めます。しかし症状の進行具合や原因によっては、外科手術が必要です。
手術で失敗しないためには、自分でもできる対策を行う必要があります。また、信頼できる歯科医院を探すことも重要です。
受け口で悩むときは、まずは信頼できる歯科医へ相談してみましょう。
1965年 広島県呉市生まれ
