【監修:青山健一】
目 次
歯の矯正を行うとき、「目立つ装置は恥ずかしい」と考える方も多くいます。そのような場合に用いられる治療が裏側矯正です。
裏側矯正は目立ちにくい矯正として知られる一方で、舌癌との関係性が取り沙汰されることがよくあります。
舌癌と聞くと不安になる方も多いと思いますが、きちんと理解できないまま噂を信じるのはおすすめできません。歯の矯正は、正確な情報をもとに適切な治療を受けることが大切です。
確かに裏側矯正は注意すべき点がありますが、見た目以外にもいくつかのメリットがあります。
目立ちにくい矯正を希望するときは、裏側矯正のポイントについてもきちんと把握しておきましょう。
裏側矯正の特徴
裏側矯正とは、矯正装置を歯の裏側に着けて行う矯正治療のことです。舌側矯正とも呼ばれ、歯の裏側にブラケットとワイヤーを装着して、歯を動かないように固定します。
裏側矯正は歯の裏側に装置を着けるため、口を開けたときでも目立ちにくいことが特徴です。接客業をはじめ、目立ちにくい矯正を希望される患者様によく利用されています。
また裏側矯正は、特に前歯の矯正を得意としています。前歯の矯正を行うときは、奥歯を固定源として後方に引っ張ることが必要です。
しかし、表側矯正では固定源となる奥歯自体が動いてしまい、うまく前歯をコントロールできないことがあります。
対して裏側矯正の場合、固定源である奥歯を後方へ引き込みしっかりと固定できるため、前歯のコントロールがしやすくなります。
また、表側矯正と比べてかかる費用が高いことも裏側矯正の特徴です。歯の裏側にはデコボコとした波があり、装置を着けるときの難易度が高くなります。
装置の装着に高度な技術が必要とされるため、費用も高めの設定となっています。高額な費用はかかりますが、目立ちにくい矯正を希望する方は多く、裏側矯正を希望する方も増加の傾向です。
裏側矯正が原因で舌癌になるのは本当?
裏側矯正と舌癌の因果関係は、明確に解明されていません。しかし、舌へ刺激を与えるという点で、少なからず影響を及ぼす可能性があると考えられています。
舌癌は、断続的な刺激によって発症する可能性があります。裏側矯正は舌側に装置が取り着けられるため、頻繁に舌と接触する状態です。
加えて矯正装置に金属が使われているため、舌と接触したときに傷つける可能性があり、舌との相性はあまりよくありません。
歯の矯正は長期間になりやすいため、場合によっては常に舌を刺激していることになります。結果的には、舌癌になるリスクを上げると考えられています。
舌癌の概要
舌癌とは、舌に腫瘍ができる状態のことで口腔がんの一種です。基本的には、舌の前方2/3程度に腫瘍が確認されると舌癌と診断されます。
舌癌を含む口腔がんを発症する方は増加の傾向です。そのなかでも舌癌は、口腔がん全体のおよそ6割を占めています。
がんというと「肺がん」などのイメージがありますが、口腔がんでも多くの方が亡くなっています。舌癌で死亡に至るのは、がんと判別しにくいことが一因に挙げられます。
がんは早期治療が大事になるため、舌癌の特徴についてもきちんと把握しておきましょう。
舌癌の特徴
舌癌をはじめとする口腔がんは、口内炎と見分けがつきにくいことが特徴です。口内炎と口腔がんの初期症状は似ているため、見た目だけで判断することは困難だといえます。
舌に炎症が起きてなかなか治らない場合には、舌癌の可能性を疑うことが一般的です。目安として炎症が2週間以上治らないときは、舌癌が疑われるため歯科医院を受診しましょう。
ただし2週間経っていない場合でも、口内炎の付近が硬いなどの違和感を覚えたときは、速やかに歯科医へ相談してください。
主な症状
舌癌の主な症状としては、舌のしこりやただれなどです。人によっては、舌に白や赤い斑点が出現することもあります。
舌に痛みやしびれを感じる場合もありますが、口内炎の症状と似ており見逃しやすいため注意が必要です。
また、舌癌は主に舌の側面にできやすいとされています。見えにくい箇所であることに加え、初期の段階では自覚症状も少ないため、発見が遅れることも珍しくありません。
進行が進むにつれ、硬結(患部が硬くなる)や潰瘍、さらに痛みを感じるようになります。場合によっては、出血を伴うケースもあるようです。
上記の症状が確認されたときは、できる限り早く最寄りの歯科医院を受診する必要があります。発見が遅れると進行が進むため、安易に自己判断することは避けましょう。
実際に口内炎と勘違いして発見が遅れたケースもあるため、異変を感じたときは必ず専門家である歯科医に相談してください。
裏側矯正を検討したいけれど舌癌との関連が不安という方は、事前に相談しておくことをおすすめします。
舌癌の主な原因
舌癌についての研究は現在も進められていますが、はっきりとした原因は解明されていません。しかしながら、要因と考えられることはいくつか存在します。
因果関係がはっきりしていないとはいえ、要因を抑えておけば舌癌になるリスクを減らすことは可能です。危険となる因子を把握して、舌癌の予防に努めましょう。
喫煙や飲酒
舌癌は、喫煙や飲酒によって発症のリスクが高まるとされています。たばこやアルコールに含まれる成分が、舌に悪影響を与えている可能性があるためです。
たばこにはさまざまな化学物質が含まれており、なかには人体に悪影響を及ぼすものがあります。当然、舌にも何かしらの悪影響を与えていると考えるのが妥当です。
加えて同時に飲酒を行う場合には、たばこの化学物質がアルコールによって溶け出し、さらに悪影響を与えると考えられています。
舌癌は男性の方が発症する割合が多く、比例するように喫煙や飲酒も男性の方が多い傾向です。このようなデータがあることから、舌癌と因果関係があると考えられています。
因果関係を示すデータがある一方で、断定できない要素も残っています。例えば他のがんでは、およそ50~60代が発症のピークです。
対して舌癌は、およそ1/4の方が50歳未満で発症しています。さらに一定数の方は、20代でも発症が確認されています。
長期的な喫煙や飲酒が考えにくい世代層の発症も見られるため、今のところ因果関係をはっきりと断定できていません。
舌癌と喫煙や飲酒の関係性は現在も研究が進められており、明確な因果関係の解明が期待されています。
慢性的な刺激
喫煙や飲酒以外で、舌癌の要因として考えられているものが慢性的な刺激です。舌は刺激を受けやすく、長期的な刺激によって舌癌を発症したと考えられる事例も実際にあります。
舌に腫瘍やしこりができるのは、慢性的な刺激が原因のひとつです。刺激が長期化すれば、舌癌へ進行するリスクが高まります。
長期的な刺激の要因として、よく取り上げられるものが歯の裏側矯正です。矯正装置に使用される金属の部品は、舌に与える刺激が強く、舌癌になるリスクがより高まると考えられています。
特に装置が破損していたり、合わなくなっていたりする場合には注意が必要です。破損により尖っている舌に部分が当たると、舌を傷つけてしまう恐れがあります。
舌に大きなダメージを与えることになり、刺激が継続的になると舌癌になるリスクがより高まります。装置に破損が確認された場合は、すぐに歯科医院へ相談しましょう。
裏側矯正のメリット
裏側矯正は舌への影響が懸念される一方で、いくつかのメリットも存在しています。
歯の矯正では表側矯正を行うことが多いですが、症状によっては表側矯正では対応が難しい場合もあります。
歯の矯正で後悔しないためにも、裏側矯正のメリットとデメリットをきちんと把握した上で、慎重に検討をしましょう。
装置が見えづらい
裏側矯正は、矯正装置を歯の裏側に着けるため、外から見えにくいことがメリットです。矯正で使うブラケットとワイヤーを歯の裏側に装着するため、矯正中であっても目立ちません。
従来、歯の内側はよほどのことがない限り、外から見ることは困難です。歯の裏側を確認する場合には、デンタルミラーなどを使用しなければなりません。
大きく口を開けると歯の裏側が見えることがありますが、日常生活でそのようなシーンは少ないといえます。
日常会話程度であれば外から見えることがあまりないため、接客業などのビジネスでもお客様の反応を気にする必要がありません。
矯正中の見た目が気になる方でも、装置を気にすることなく日常生活を送れます。
虫歯になるリスクが少ない
裏側矯正には、虫歯になりにくいというメリットも挙げられます。口内が乾燥することを防ぎ、虫歯菌の繁殖が抑えられるためです。
人間の唾液には殺菌作用などが含まれており、分泌を促すことで虫歯菌が繁殖することを防げます。
唾液は歯の舌側から主に分泌されるため、乾燥しにくい環境を整えることで虫歯予防に効果的です。表側矯正では口が閉じにくいため、口内が乾燥しやすくなります。
口内の唾液が少ない状態になるため、虫歯の繁殖が促進される恐れがあります。対して裏側矯正は、スムーズに口を閉じることが可能です。
口が閉じた状態のときは、乾燥がしにくく唾液も分泌されやすい環境にあるため、虫歯菌の繁殖を抑えることに期待できます。
また、唾液は食べカスなどを洗い流す役割も担っています。虫歯菌の繁殖を促進する食べカスを除去できるため、口内を清潔に保つことが可能です。
ただし、歯磨きがしにくいことには注意しなければなりません。矯正装置が邪魔になりブラッシングがしにくいため、より丁寧な歯磨きが必要です。
気楽に食事ができる
気軽に食事できることも、裏側矯正のメリットに挙げられます。装置が歯の裏側に着いているため、食べ物が挟まっても外からは見えません。
矯正装置をつけると、食べ物が装置と歯の間に詰まりやすくなります。表側矯正では装置が見える位置に着いているため、装置に挟まっていることが外から見えてしまいます。
装置に食べ物が詰まると目立つため、食事中のエチケットとしてもあまり良いとはいえません。実際に食事中のエチケットが気になり、悩んでいる方も多くいます。
裏側矯正であれば装置を歯の裏側に着けるため、食べ物が詰まっても外から見えることがありません。エチケットを気にすることもなく、気軽に食事を楽しめます。
舌癖の改善ができる
裏側矯正は、舌癖の改善に期待できることもメリットです。歯の裏側に装置を着けることで、舌癖がつきにくい環境を作ることができます。
舌癖とは、舌で歯を前に押し続ける癖のことです。舌癖があると歯にストレスを与え続けるため、前歯に隙間ができたり、噛み合わせに影響を及ぼしたりします。
実際に舌癖が原因となり、歯並びが悪くなる方もいます。そのような方は歯並びの矯正と共に、舌癖の改善が必要です。
普段、舌は前歯の付け根にある「スポット」に収まっています。裏側矯正を行うと装置により、舌がスポットから動くことを制限できるため、舌癖の改善につながります。
歯科医から舌癖を指摘された方は、歯並びの維持を踏まえて裏側矯正を検討してみましょう。
裏側矯正の注意点
さまざまなメリットがある裏側矯正ですが、いくつかの注意すべき点もあります。知らずにいると日常生活に支障をきたす可能性もあるため、事前に把握しておくことが大切です。
また、注意点を把握しておけば対処もしやすく、スムーズに矯正を進められます。裏側矯正を検討するときは、メリットと注意点を加味した上で判断しましょう。
装着の違和感
裏側矯正は歯の裏側に装置を装着するため、常時舌に装置が接触している状態です。口内が敏感な方の場合、違和感を覚えることも少なくありません。
しかし、大半の方は時間の経過と共に慣れていきます。慣れてくるにつれ、次第に違和感もなくなります。
どうしても慣れない方は、歯科医に相談してみてください。
喋りづらい
裏側矯正は、装置の着用により喋りづらくなることも注意すべき点です。装置が邪魔になり舌を円滑に動かすことができないため、発音がしにくくなります。
きれいな発音をするためには、舌が円滑に動くことが必須です。しかし、裏側矯正の場合、装置と舌が常に接触するため舌の動きが制限されてしまいます。
舌がスムーズに動かないため、言葉によってはきれいに発音できない可能性があります。会話がしづらくなると接客業の方などは、仕事に支障をきたしかねません。
そのような場合には、かかりつけの歯科医に相談してみてください。歯科医院によっては、器具の調整や変更をしてくれるところもあります。
裏側矯正で舌癌にならないか不安なら歯科医に相談しよう
ここまで裏側矯正について解説しましたが、どうしても不安を感じる方も多くいます。そのようなときは、ぜひ歯科医に相談してみてください。
近年ではインターネットの普及により、パソコンやスマートフォンですぐに情報を集められます。しかし、ネットにある情報のなかには信ぴょう性が疑わしいものも存在します。
曖昧な情報をもとにしても、根拠のない不安ばかりが膨らんでしまい、選択を誤ることにもなりかねません。判断を誤らないためには、正確な情報の把握が大切です。
歯の専門家である歯科医に相談すれば、正確な情報をもとにアドバイスを受けることができます。きちんと納得した上で治療を進めることができるため、後悔するリスクも減らせます。
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まとめ
裏側矯正は、装置が目立ちにくいため矯正中の見た目が気になる方に有効です。一方でいくつかのリスクも存在しており、きちんと理解した上で治療を進める必要があります。
曖昧な情報をもとに自己判断するのはとても危険です。歯の矯正はそれなりの費用が発生するため、後で後悔することになりかねません。
そのような事態に陥らないためにも、気になることがある際には専門家である歯科医に相談しましょう。